暗いところで本を読むと目が悪くなるからやめなさい──本好きなら一度は言われたであろう、このお小言。目の前の本に夢中になるたびに注意され続けてきましたが、これって本当? “暗い”ってどれくらいのこと? ふと湧いた疑問を解消すべく、順天堂大学医学部准教授で、『働く人のための最強の休息法』などの著書もある眼科医の猪俣武範さんを直撃。すると一言目から、きっぱりと否定してくれるではありませんか。
「まず、暗いところで本を読んだからといって、目が悪くなるということではありません」
これは明るい兆し! そう思ったのも束の間、猪俣さんはこう続けます。
「眼科医は、視力が落ちることを『目が悪くなる』とは表現しないのですが、それは視力は一般的に、加齢によって変わっていくものだからです。ただ、読書によって目が疲れたり、ドライアイになったりすることはありますね。その一番の原因になるのが目のピント。読書をしていないとき、つまり通常状態で、特に若年層の人は、目のピントは『遠く』に合わせているのですが、読書のときは強制的に近距離にピントを合わせます。この際に目の筋肉を使うので、目が疲労してしまうわけです」
暗いところの読書でなくても、誘発されていた眼精疲労。疲労が蓄積してよいことがあるわけもなく、なんとか軽減する方法はないのでしょうか?
「ときどき目を休めることですね。それは目をつむることではなく、遠くをぼんやりと見てゆっくりするということ。読書で無理やり近くに合わせたピントを、元の位置に戻してあげるというイメージです」
最近では電子書籍で読書を楽しむ人も多いもの。実はこのディスプレイ上での読書が、よりドライアイになりやすい、という論文も出ているとか。
「画面を凝視することで、目の潤いの調整役を担う、まばたきの回数が減ってしまうのではないかと考えられます」
目がゴロゴロする・目がかすむ・痛み・まぶしさ・見づらさがドライアイの主な自覚症状。そう教えてもらうと、たしかに紙の本よりも、電子書籍、パソコン・スマホ作業のときに感じているかも……。
「しかもまばたきの回数が減ってしまったときには、自分自身で意識的に行うしかないんです。読書中もぜひ意識してまばたきをしてください」
ディスプレイの光の強弱が目の疲れ具合に影響するか否かの研究は現時点ではなく、まばたきが大事、と猪俣さん。
「あとは、読書の際の明るさを400~500ルクスに保てているといいと思います。オフィス環境に比べて、プライベートな空間では部屋全体が暗めになりがちなので、その場合はデスクライトを使うのもひとつの手です」
ルクスとは、光源に照らされた面の明るさを数値化したもの。JIS照度基準によれば学校の図書室が500ルクス。理想はあの明るさなのです。そのほかには、蛍光灯で照らす一般的なオフィスも400ルクスくらいになるので、仕事に適した場所は、読書にも最適だったというわけ。これらの数値を参考に最適な明るさを保った空間で、まばたきと目の休憩を意識しながら、これからも好きな本を好きなだけ楽しみましょう!
◆ケトルVOL.55(2020年8月17日発売)
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