8月17日発売の雑誌『ケトルVOL.44』は、特集テーマとして「ゼロ年代の音楽」をピックアップ。表紙を飾るASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文をはじめとしたミュージシャンへのインタビュー、ゼロ年代音楽史、ライブハウスのブッキングスタッフが語るゼロ年代など、あらゆる角度からゼロ年代音楽を検証しています。ゼロ年代と言えば、インターネットの利用者が爆発的に増えたことで、音楽との向き合い方が変わった時期ですが、もう1つ大きな変革をもたらしたのが、2001年に登場した「iPod」でしょう。
「小さいのに1000曲も入って、ポケットに入れて持ち運ぶこともできるんだ」
2001年10月23日、スティーブ・ジョブズはそう言ってiPod を紹介しました。音楽業界の歴史を変える革新的なポータブル音楽プレーヤーが登場した瞬間です。iPod がもたらしたものは、単に「大量の音楽を持ち運べるようにした」というだけではありませんでした。iPodは「アルバム単位」という音楽の聴き方の常識を変えていったのです。
CDで音楽を聴いていた時代は、プレーヤーからディスクを入れ替えるのが面倒だったため、「ライブラリーに数あるアルバムの中から、好きな曲だけを次々に聴く」という聴き方が容易ではありませんでした。しかし、iPodによってライブラリーをそのまま持ち運べるようになると、「ライブラリーから好きな曲だけを聴く」ということが手軽にできるようになります。音楽の聴き方から「アルバム」という単位が消えていったのです。
Apple がこれを新しい音楽体験の利点と捉えていたことは間違いないでしょう。後にシャッフル再生に特化したiPod shuffle まで発売しているからです。iTunes 上のライブラリーから音楽がシャッフルで再生されるようになると、リスナーがアルバムを意識することはどんどんなくなっていきます。
こうした音楽の聴き方に対する意識の変化は、Spotifyのような現在主流となっている定額制配信サービスの普及を後押ししました。こうしたサービスのプラットフォーム上では、いろんなミュージシャンのアルバムから編集した「ランニングのためのプレイリスト」「仕事にやる気を出すためのプレイリスト」「リラックスのためのプレイリスト」などシチュエーションに合わせたプレイリストが並び、それが人気を博しています。
今のリスナーにとってアルバムというのは、アーティストの意図に沿って並べられた楽曲群から何かを受け取るためにあるものではなく、自分なりの気分に合わせたプレイリストを編集するための“素材集”に近くなっているのかもしれず、こうした音楽との接し方は、iPod によって広まったものなのです。
◆ケトル VOL.44(2018年8月17日発売)
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