「人を活かす笑い」としての喧嘩芸――他の芸人を介することで笑いの幅を広げるブランディングとは?

鬼越トマホークの弱者のビジネス喧嘩術

お笑いコンビ・鬼越トマホーク初の公式書籍『鬼越トマホークの弱者のビジネス喧嘩術』(太田出版)が、2025年9月29日に発売! YouTubeチャンネル登録者50万人を突破した鬼越トマホークが、二度の解散と再結成を乗り越え、激しい衝突の末に辿り着いた「コンプレックスの受け入れ方」「負けることの格好良さ」、そして逆張りを個性とする「弱者の戦術」――。

たちまち評判となった、鬼越トマホークの「喧嘩芸」。そこにあったのは、他の芸人を介することで笑いの幅を広げる「人を活かす笑い」だった。

「鬼越トマホーク」金ちゃん
「鬼越トマホーク」良ちゃん

人のふんどしで飯を食えばいい

 2014年11月6日放送の『ざっくりハイタッチ』で初披露された喧嘩芸はたちまち評判となり、「鬼越トマホークの喧嘩を止めよう!」は番組の人気コーナーとなった。

 喧嘩を止めに入ったのは、番組レギュラーのジュニア、フットボールアワー、小藪千豊に加え、FUJIWARAやアンガールズといったゲスト芸人、さらには蛭子能収など芸人以外の人物まで、多彩な顔ぶれだった。多くのゲストを喧嘩芸に巻き込み、次々と笑いを取っていく様子は、この喧嘩芸がフォーマットとして高い完成度と強度を備えていることを示していた。

 漫才やコントのように自己完結した笑いではなく、他の芸人を介することで笑いの幅を広げる「人を活かす笑い」は、その後の鬼越トマホークの活動に大きな影響を与えることになる。それこそ、後述するYouTubeチャンネルの動画も、この笑いの派生形と呼べるかもしれない。ジュニアの「人を活かす笑い」のDNAが、『ざっくりハイタッチ』を通じて鬼越トマホークに受け継がれていったようにも見える。

良ちゃん 芸人を辞めなかったとしても、喧嘩の悪名が広まっているから評判も悪いし、「もうどうなってもいいや」と思っていたんです。でも、ジュニアさんの発想で、周りの価値観もガラッと変わったんですよね。マイナスだったはずの喧嘩が芸としてお笑いになるっていう。これはもうブランディングですよね。

 当時、まだ一度もお会いしたことのなかったフットボールアワーさんや小籔千豊さんが、喧嘩の仲裁に来ることになっていました。僕らが楽屋で喧嘩していたら仲裁しに来るから、「普段彼らに思ってることをぶつけてくれ」「楽屋での喧嘩はできるだけ本気でやってくれ」とジュニアさんに言われました。正直、意味がわからなかったです。

 しかも、初めてのことだったから、それが企画としてウケるのかもわからない。でも、ジュニアさんの頭の中では「楽屋で鬼越を2人きりにして喧嘩させる。それをモニタリングしてる芸人の誰かが止めに入る。喧嘩を止めた人に向かって鬼越がひと言。最後に俺がまとめてオチをつけたら成立する。これはおもろくなる」と、もう完全にイメージができていたんですよ。

 全部ジュニアさんが組み立ててくれたので、本当に運が良かったです。自分たちだけじゃ絶対に作り出せなかった。

 だから、僕らは最初から「人のふんどし」で飯を食わせてもらってるんです。

金ちゃん これは、マジで偶然でした。

良ちゃん 何の計算もしていないし、ツキがありました。ジュニアさんみたいな先輩がいる事務所に入って良かった。

 でも正直、当時は面倒だと思ってた部分もありました。「なんで本気で喧嘩して、初対面の芸人やタレントに文句を言わなきゃいけないのか」と思ったりね。しかも、お金をそんなにもらえるわけじゃないし。でも、心のどこかで「これは面白いかも」と感じた部分があったんだと思います。

 あと、金ちゃんの「二の矢」も、ジュニアさんが全部考えてくれたんですよ。

 喧嘩芸は、良ちゃんが仲裁に入った芸人に暴言を吐くだけではない。金ちゃんが良ちゃんのフォローを装いながら、さらに毒舌を浴びせる「二の矢」も重要だ。実は、最初の喧嘩芸にはこの二の矢は存在していなかった。

金ちゃん 初めは、番組スタッフさんもあまり企画をわかっていなかったんですよね。「『うるせえな』の次に何を言いますか」なんて聞かれて。実際の喧嘩で最初に毒を吐いたのは良ちゃんだったので、「彼が話します」と伝えて、そのまま1回目の放送は終わりました。

 その収録で仲裁役を務めていたFUJIWARAさんに、良ちゃんが「うるせえな! お前ら営業で同じネタばっかりやってるらしいな」と言ったんです。そこで俺がアドリブで「すみません、本当は思ってないと思うんですけど」とフォローを入れたら、FUJIWARAさんが「いや、日頃から思ってるから言うたんやろ」と返してくれて、現場が一気に盛り上がったんですよ。

 その後に、「『本当は思ってないと思うんですけど』って、金ちゃんもフォローしながら一言加えた方がええんちゃう」ってジュニアさんが言ってたと、スタッフさんから聞かされて。「なるほどな」と思いました。良ちゃんが傷口を作って、俺がフォローしながらそこに塩を塗るような構図になる。そのフォーマットを、ジュニアさんが作ってくれたんです。

 それで、2回目の放送からは、俺の「本当は思ってないと思うんですけど」が完全に組み込まれるようになりました。

 お笑いには「フォーマット」という考え方がある。あらかじめ決められた流れに沿って漫才やコントを展開し、その時々のインプットによってアウトプットが変化する芸のスタイルだ。近年では、トム・ブラウンの「合体漫才」がその一例と言える。喧嘩芸もこのフォーマットの笑いに分類される。フォーマットを確立できれば、インプット次第で応用が利くため、芸人にとって大きな武器となる。

良ちゃん こうして10年経ってしみじみ分析したら、無名で無礼な若手が起こした騒動の内容を聞いて、「それ、もしかしたら新しいお笑いになるんちゃうか」と思える想像力って、とんでもないと思うんです。実際に現場を見て、「こっちの子はこうした方がいい」と、見抜いてアドバイスまでしてくれる。しかも、誰もそんな発想すら持ってなかったときにですよ。「これは新しいフォーマットになるんちゃうか」って冷静に物事を測る力は、ものすごいと思いますね。

 人に笑いを取らせてあげる人は、なかなかいないです。

 お笑いの世界は競争社会であり、人をイジって笑いを取ることはあっても、相手に花を持たせることは稀だ。そんな中でジュニアは、喧嘩芸を自身の功績とするのではなく、鬼越トマホークの持ち芸として確立させた。

金ちゃん ジュニアさんは、後輩をどう活かすかという目線がありますね。ビートたけしさんが「売れるために何が必要ですか」と質問されたときに、「運が7割くらいじゃないか」って答えてるんですけど、その運が僕らにはあった。ジュニアさんとの出会いは、やっぱり運命ですから。

続きは『鬼越トマホークの弱者のビジネス喧嘩術』にて!

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『鬼越トマホークの弱者のビジネス喧嘩術』
著・鬼越トマホーク
構成・石川嵩紘

お笑いコンビ・鬼越トマホーク初の公式書籍『鬼越トマホークの弱者のビジネス喧嘩術』が、2025年9月29日に発売となります。YouTubeチャンネル登録者50万人を突破した鬼越トマホークが、二度の解散と再結成を乗り越え、激しい衝突の末に辿り着いた「コンプレックスの受け入れ方」「負けることの格好良さ」、そして逆張りを個性とする「弱者の戦術」。

仕事や生活に悩むすべての人に贈る、強者だらけの世を生き抜くための「弱者のビジネス喧嘩術」を初公開します。

「コンプレックスから逃げずに受け入れてきたからこそ、ずっと一緒にいられたし、それをネタとして消化してきたんです」(金ちゃん)

「弱いからこそ、喧嘩芸が成立するのかもしれない。これは、完全に『弱者の戦術』なんです」(良ちゃん)

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