平成を席巻したユースカルチャー「渋谷系」は数々のスターを生み出しましたが、渋谷系の女王といえば誰でしょう? 一般的には野宮真貴さんやカヒミ・カリィさんでしょうが、もし二次元のキャラクターが許されるなら、雑誌『CUTiE』(宝島社)にて1990年12月号から2年間連載された岡崎京子さんの漫画『東京ガールズブラボー』の主人公「金田サカエ」もノミネートされることでしょう。
フリッパーズ・ギター、コーネリアス、ピチカート・ファイヴなどのCDジャケットを手がけた信藤三雄さんが装丁を手がけた『東京ガールズブラボー』。クラスの女の子たちが聖子ちゃんカットに全神経を注ぐ中、サカエちゃんは襟足を刈り上げ、制服をタイトスカート風にリメイクし登校する個性派です。
憧れる将来の夢は当時YMOが所属していた「アルファレコード」の受付嬢、ひいてはサポートメンバー・矢野顕子さんを蹴落としてYMOの一員になること、そして当時オシャレ女子が憧れた職業・ハウスマヌカンなどなど。1980年代前半を舞台とした本作で、貪欲にカルチャーを吸収し、東京中を走り回ります。
この作品には、当時の「ニューウェイブ」という音楽ジャンルで人気を博したスポットが数多く登場します。渋谷・宇田川町のパンク/ニューウェイブシーンの中心地となったロック喫茶「NYLON100%」へ足を運び、実在したダブ・バンド「ミュートビート」がライブをやると聞けば、離陸前の飛行機を飛び降りて池袋の西武百貨店の多目的ホール「スタジオ200」へ。ちなみにスタジオ200は配給会社のシネセゾンの前身として、現代音楽や実験映画を発信するスポットでした。
北海道へ引っ越すサカエちゃんが空港までの道のりで「行ってない」と悔やむのも、なかなかのツウ好みな場所。当時のディスコとは一線を画した“伝説のクラブ”として、原宿に出来立てホヤホヤだった「ピテカン(ピテカントロプス・エレクトス)」や、当時芸能人も御用達だった新宿「ツバキハウス」の2号店にあたる六本木のニューウェイブ・ディスコ「玉椿(ツバキ・ボール)」などに想いを馳せます。
お金が入るとレコードに費やし、洋服が買えなければ自分で服をアレンジ。様々な情報にアンテナを張り、速攻で飛びつく貪欲さ。サカエちゃんは「渋谷系」黎明期を謳歌した、「渋谷系女子」の元祖なのです。カルチャー天国である当時の東京の空気と、ハングリーなサブカル女子の息遣いを感じたいなら、『東京ガールズブラボー』こそ偉大な教科書。そしてその後のサカエちゃんを知りたいなら、あわせて『くちびるから散弾銃』もオススメです。
◆ケトルVOL.48(2019年4月16日発売)
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