「望まない妊娠」は男性の「無責任な射精」が原因であると喝破し、大きな議論を巻き起こしたガブリエル・ブレア著『射精責任』。その問いかけを日本の文脈でさらに深め、13名の第一線の研究者が論じる新刊『日本の「射精責任」論』(齋藤圭介 編著)が、2025年12月4日に発売されます。
私たちはもう、「射精責任」という
言葉がない世界には戻れない
2023年に邦訳刊行されたガブリエル・ブレアの著書『射精責任』は、「望まない妊娠」の主原因を女性の側ではなく、男性の「無責任な射精」にあると喝破し、SNSやメディアで大きな話題となりました。そこから遡ること約30年前、日本でも、男性の射精とその責任をめぐる議論が行われていたことをご存知でしょうか?
今回発売される『日本の「射精責任」論』は、そうした蓄積された知見を蘇らせるとともに、現代における課題を「男性学」「フェミニズム」「同性愛」「不妊」「身体論」など多角的な視点から論じた論文集です。
「孕ませる性」としての責任をどう考えるか
本書の編著者は『射精責任』の解説も担当した社会学者の齋藤圭介氏。執筆陣には、沼崎一郎氏、宮地尚子氏、森岡正博氏、伊藤公雄氏、赤川学氏、多賀太氏、江原由美子氏、菅野摂子氏、塚原久美氏、竹家一美氏、新ヶ江章友氏、中真生氏と、各分野の第一線で活躍する13名が集いました。
男性の射精をめぐる議論は現在どこにあり、これからどこへ向かうべきなのか。蓄積された知見を蘇らせるだけでなく、現代における課題をそれぞれの専門領域から議論し、進むべき道を明らかにします。
書誌情報

『日本の「射精責任」論』
編著者:齋藤圭介
著者:沼崎一郎、宮地尚子、森岡正博、伊藤公雄、赤川学、多賀太、江原由美子、菅野摂子、塚原久美、竹家一美、新ヶ江章友、中真生
定価:3,630円(本体3,300円+税)
ISBN:978-4-7783-4098-8
仕様:四六判/336ページ
発売:2025年12月4日(木)
所収論文一覧
齋藤圭介 ガブリエル・ブレア『射精責任』と日本の射精責任論
沼崎一郎 〈孕ませる性〉の自己責任――中絶・避妊から問う男の性倫理
宮地尚子 孕ませる性と孕む性――避妊責任の実体化の可能性を探る
森岡正博 膣内射精性暴力論の射程――男性学から見たセクシュアリティと倫理
伊藤公雄 男性の「ケアの力」という課題――射精責任論とマスキュリニティ
赤川学 『射精責任』と精子の行方
森岡正博 男性の射精責任をどう考えるか
多賀太 生殖に関する責任の共有に向けた男性支援へ
江原由美子 「射精責任」と「女性の自己決定権」
菅野摂子 性的同意と射精責任
塚原久美 女性のリプロと男性の射精責任
竹家一美 孕ませられない責任――男性不妊の文脈で「射精責任」を考える
新ヶ江章友 異性間による射精責任を相対化する――同性間による人工授精とHIVの文脈から
中真生 生殖する身体から避妊や妊娠の責任を考える
齋藤圭介 男性の射精とその責任をめぐって
執筆者プロフィール(執筆順)
齋藤圭介(さいとう・けいすけ)
1981年生まれ。東京大学大学院 人文社会系研究科 修了・博士(社会学)。岡山大学 学術研究院 社会文化科学学域 准教授。ジェンダー研究、社会学。主著に『男性の生殖経験とは何か』(晃洋書房、近刊)、『射精責任』(解説、太田出版、2023年)。
沼崎一郎(ぬまざき・いちろう)
1958年生まれ。ミシガン州立大学大学院 人類学科 博士課程 修了・Ph.D.(人類学)。東北大学 名誉教授。文化人類学、男性性研究、東アジア研究。主著に『多軸的な自己を生きる』(監修、終章、東北大学出版会、2024年)、『「支配しない男」になる』(ぷねうま舎、2019年)、『台湾社会の形成と変容』(東北大学出版会、2014年)。
宮地尚子(みやじ・なおこ)
1961年生まれ。京都府立医科大学 医学研究科 修了・博士(医学)。一橋大学大学院 社会学研究科 特任教授。文化精神医学、医療人類学。主著に『環状島=トラウマの地政学』(みすず書房、2007/2018年)『傷を愛せるか 増補新版』(ちくま文庫、2022年)、『トラウマにふれる――心的外傷の身体論的転回』(金剛出版、2020年)。
森岡正博(もりおか・まさひろ)
1958年生まれ。東京大学大学院 人文科学系研究科 単位取得(倫理学)。博士(人間科学、大阪府立大学)。早稲田大学 人間科学学術院 教授。哲学、ジェンダー学。主著に『無痛文明論』(トランスビュー、2003年)、『感じない男』(ちくま文庫、2005年)、『生まれてこないほうが良かったのか?』(筑摩選書、2020年)。
赤川学(あかがわ・まなぶ)
1967年生まれ。東京大学大学院 人文社会系研究科 修了・博士(社会学)。東京大学大学院 人文社会系研究科 教授。セクシュアリティ研究、社会問題の社会学、猫社会学。主著に『セクシュアリティの歴史社会学』(勁草書房、1999年)『これが答えだ!少子化問題』(筑摩書房、2017年)、『猫社会学、はじめます』(編著、筑摩書房、2024年)。
多賀太(たが・ふとし)
1968年生まれ。九州大学大学院 教育学研究科 博士後期課程単位取得退学・博士(教育学)。関西大学文学部 教授。教育社会学、ジェンダー学。主著に『男子問題の時代?』(学文社、2016年)、『ジェンダーで読み解く男性の働き方・暮らし方』(時事通信出版局、2022年)。
江原由美子(えはら・ゆみこ)
1952年生まれ。東京大学大学院 社会学研究科 社会学Aコース 博士課程中退、博士(社会学)。東京都立大学 名誉教授。ジェンダー研究、社会学。主著に『持続するフェミニズムのために』(有斐閣、2022年)、『ジェンダー秩序』(勁草書房、2001年、新装版2021年)、『女性解放という思想』(勁草書房、1985年、増補 ちくま学芸文庫、2021年)。
菅野摂子(すがの・せつこ)
1963年生まれ。立教大学大学院 社会学研究科 博士後期課程単位取得退学・博士(社会学)。東京科学大学社会連携・DE&I本部 特任教授。社会学、ジェンダー研究、医療社会学。主著・主論文に「『女性の健康』の隘路とフェムテック」『現代思想』5月号2023年、「スクリーニング検査と受検者の視覚――二つのスクリーニング検査をめぐる当事者の語りから」『保健医療社会学論集』32(1)2021年、『妊娠――あなたの妊娠と出生前検査の経験をおしえてください』洛北出版(柘植あづみ、石黒眞里との共著)2009年。
塚原久美(つかはら・くみ)
1961年生まれ。金沢大学大学院 社会環境科学研究科 修了・博士(学術)。一般社団法人RHRリテラシー研究所代表理事。リプロダクティブ・ライツと中絶に関するフェミニスト研究。主著に『産む自由/産まない自由――「リプロの権利」をひもとく』(集英社、2025年)、『日本の中絶』(筑摩書房、2022年)、『中絶技術とリプロダクティヴ・ライツ――フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房、2014年)。
竹家一美(たけや・かずみ)
1961年生まれ。お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 修了・博士(社会科学)。日本女子大学ほか 非常勤講師。ジェンダー/セクシュアリティ研究、社会学。主著・主論文に『日本の男性不妊』(晃洋書房、2021年)、「身体経験としての『男性不妊』」(『科学技術社会論研究』15号、2018年)。
新ヶ江章友(しんがえ・あきとも)
1975年生まれ。筑波大学大学院 人文社会科学研究科 修了・博士(学術)。大阪公立大学 人権問題研究センター 教授。クィア・スタディーズ、文化人類学。主著に『クィア・アクティビズムーはじめて学ぶ〈クィア・スタディーズ〉のために』(花伝社、2022年)、『日本の「ゲイ」とエイズ――コミュニティ・国家・アイデンティティ』(青弓社、2013年)。
中真生(なか・まお)
1972年生まれ。東京大学大学院 人文社会系研究科 単位取得満期退学・博士(文学)。神戸大学人文学研究科 教授。哲学、倫理学。主著に『生殖する人間の哲学――「母性」と血縁を問いなおす』(勁草書房、2021年、サントリー学芸賞(思想・歴史部門)受賞)、『フェミニスト現象学』(分担執筆、ナカニシヤ出版、2023年)、『あらわれを哲学する』(分担執筆、晃洋書房、2023年)。



