【先行公開】十代の睡眠を妨げるさまざまな要因から、彼らを守るためにーー『子供睡眠不足社会』著者まえがき

子供睡眠不足社会

睡眠時間を削ることは、命を削ることになりかねない。特に10代の若者にとってーーこの重大かつリアルなデータと、それに対する回避策を記したのが、3月18日太田出版刊『子供睡眠不足社会』(リサ・L・ルイス著、永盛鷹司訳)です。同書から著者による「はじめに」を掲載いたします。

はじめに

 あなたの10代はしっかり休めているだろうか。

 この本を読んでいるということは、おそらく答えは「ノー」だろう。

 親にとっても10代にとっても、これは大きなストレスになる。10代を持つ私が親として言えるのは、「早く寝なさい」と言うだけでは、簡単には解決しないということだ。

 まず伝えたいのは、あなただけの問題ではないということだ。残念ながら、睡眠不足の状態は今や当たり前のものになっている。

 米国疾病予防管理センター(CDC)が全国青少年危険行動調査に10代の睡眠の項目を加えた2007年、翌日学校がある晩に時間以上眠れていると答えた高校生はしかいなかった。2019年までに、この割合は22%にまで下がった。

 ひとつ指摘させてもらうなら、この時間というのは必要最低限の睡眠時間である。全米睡眠財団(National Sleep Foundation)は、14〜17歳の代に一晩あたり8〜10時間の睡眠を推奨している(これが大人と同じ〜時間に減るのは歳になってからだ)。

 自分の睡眠時間がまったく足りていないことを、当の10代たちもわかっている。ジェシカ・レーヒーは、10代の薬物乱用防止について書いた2020年の本『The Addiction Inoculation(10代を依存から守るために、親ができること)』でこう述べている。「思春期にどのくらい眠るべきかを伝えると、彼らは笑ってしまう。講堂いっぱいの中高生がみんな、頭をのけぞらせて大笑いするのだ。言わんとすることはよくわかる。笑ってしまうほど10代たちは十分な睡眠をまったく取れていないのだ」

 レーヒーが著書で論じているように、10代の睡眠不足は薬物の使用と密接な関係があるばかりではない。ほかのいくつもの理由からも、憂慮すべき事態なのだ。

 睡眠不足の代は危険な行動をしやすく、不安を抱えたり、抑うつ状態になったり、自殺願望を持ったりする率も高い。学校では成績が悪くなり、欠席や遅刻も多くなる。睡眠不足のアスリートはけがをしやすくなるし、眠気を抱えた10代のドライバーは事故を起こしやすくなる。

 思春期に起こる睡眠サイクルの変化が睡眠不足の主な要因だ。だが、社会的要因もある。10代たちはやることが多すぎて、いつも時間が足りず、学校の始業時刻の都合で無理して早起きさせられる。その結果として睡眠不足になるのは無理もない。その影響は広範囲に及んでいる。

 あまりに早く始まり、夜遅くまで続く日を、10代たちは眠たい身体を引きずるようにして過ごす。そして早朝にアラームが鳴り、その日がまた最初から繰り返される。 

 この問題に強く意識が向くようになったのは、2015年の秋、息子が高校に進学したときだ。朝7時30分に始まる授業に出るために毎朝苦労して起き、午後に疲れ切って帰ってくるのを見て、なぜ学校はこんなに早く始まるのかと疑問に思った。地元の中学校は8時45分の始業だったから、高校に上がってからはますますきつそうだった。

 カリフォルニア州南部のインランド・エンパイア都市圏にあるこの小さな町では、多くの住民が育ちで同じ高校に通っていた。私が話を聞いた住民で、学校がこんなに早く始まらなかった時代を覚えている人はいなかった。早く始まるのは地区の10代たちを学校に送り届けていたバスの都合だと思っていた人もいたがスクール、バスはもう運行していない。

 まったく意味がわからなかった。

 年上の代を持つ親たちに話を聞くと、肩をすくめながら、「その時期はもう過ぎた」と安堵している様子だった。けれども、静かに苦しんでいる10代たちがいることは、明らかだ。息子が高校年生だった年、この学区では自殺が相次いで起きた。

 日常的に多くの10代たちが、眠気と闘いながら何とか登校し、始業時間に間に合わせようとしていた。私は毎朝、学校の向かいにある開店したばかりのスターバックスに、生徒たちが列を作っているのを目にした。ほかの親たちに話を聞くと、遅刻が重なっている子もいれば、1時間目を避けるために、オンライン授業など別の選択肢を静かに選んでいる子もいることがわかった。

 私はすぐに、これはひとつの学校や地域にとどまる問題ではないと気づいた。2015年8月、息子が高校に進学したのと同じ月に、CDCが公表した全国調査の結果によると、全米の中学校・高校の4分の3以上が、推奨されている午前8時30分よりも早い時刻に授業を開始していた。

 調べるうちに、私は全米各地の親たちとつながり、さらに数十年前から蓄積されてきた研究成果にも行き当たった。多くの研究者、教育関係者、地域の人々と話し、実際に会う中で、この問題が臨界点に達しつつあることが明らかになっていった。長年にわたる慎重な研究を踏まえ、米国小児科学会は2014年、中学校と高校の始業時刻は午前8時30分より早くすべきではないという画期的な勧告を出した。その背景には、始業時刻が早すぎることと10代の睡眠不足、そしてそれに伴うさまざまなリスクとの明確な関係がある。CDCも、2015年に始業時刻に関する調査結果を公表し、この勧告に同意した。さらにその後、米国医師会と米国心理学会も、相次いで支持を表明した。

 1990年代後半以降、全米各地では、すでに始業時刻を遅らせた学校の事例が積み重なっていた。しかも、その効果を示す研究の蓄積もある。始業時刻を遅らせることで、生徒はより多く眠れるようになり、学業成績が向上し、卒業率さえ高まった。それほど明確な健康上の勧告と確かなエビデンスがそろっていながら、現実には、私のような親がこの問題を提起しようとすると、取り合ってもらえないケースがあまりにも多くあった。

 私の地域と同じように、圧倒的なエビデンスが示されているにもかかわらず、従来の時間割を変えようとしない地域は数えきれないほどあった。子育て、教育、公衆衛生をテーマに取材してきたジャーナリストとして、私はここに自分が取り組むべき新たなテーマを見出したのだった。

 2016年9月、学校の始業時刻を朝遅くすべき理由について書いた私の論説が、「ロサンゼルス・タイムズ」紙に掲載された。この論説には大きな反響が寄せられ、翌週末には読者の声が紙面に掲載されるほどだった。さらにこの記事は、高校生の子を持つアンソニー・ポータンティーノ州上院議員の目にも留まった。2017年初頭、彼はカリフォルニア州の中学校・高校に健康的な始業時刻を求める法案を提出した。私はその立法の道のりに深く関わることになり、数年にわたるプロセスを経て、全米で初となる法律の成立へとつながっていった(詳しくは第15章を参照)。

 私は、提言者としての新しい役割と、ジャーナリストとしての自分のあいだを行き来しながら、この物語をたどっていった。始業時刻を遅らせる改革を最初に実施した高校だけでなく、さらにその前へ―10代の睡眠をめぐる最初期の研究にまで、調査の視野を広げていった。そして行き着いたのが、かつて存在した、きわめて異例のサマーキャンプだった。「スタンフォード睡眠サマーキャンプ」(Stanford Summer Sleep Camp)だ。

 知識を深めるにつれて、10代たちの睡眠を助けるための工夫を、実際に取り入れられるようになっていった。その結果10代たちだけでなく、私自身の睡眠も改善していった。

 本書では、私がこれまでに得た知見を凝縮した。50人を超える研究者や専門家へのインタビュー、そして約200本に及ぶ研究論文、報告書、書籍など、多岐にわたる資料をもとにまとめた。

 内容は、大きく3つの部に分けて構成した。

 第1部では、睡眠の基礎と10代の時期にその重要性がなぜ高まるのかについて、背景と文脈を解説。スタンフォード睡眠サマーキャンプの物語や、睡眠研究における重要な出来事を紹介するとともに、学校の始業時刻がなぜこれほど早く設定されてきたのか、その理由にも迫った。

 第2部では、10代の睡眠が、精神的健康、リスク行動、学業成績、スポーツ、運転など、生活のさまざまな重要な側面にどのような影響を及ぼしているのかを掘り下げる。あわせて、睡眠をめぐる格差にも目を向け、性別やジェンダー、性的アイデンティティ、社会経済的状況、人種や民族性といった要因が、どのように関わっているのかを明らかにする。

 第3部では、10代の睡眠を改善するための戦略と、実践的なアドバイスに焦点を当てる。家庭で実際に取り入れられる具体的な提案に加え、学校の始業時刻を変えるための参考資料やヒントも紹介する。さらに、カリフォルニア州で学校の始業時刻に関する法律が成立するまでの舞台裏を内側から描くとともに、テクノロジーの利用と睡眠の関係を扱った一章も設けている。

                  ★★★

 この本を執筆中、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こった。世界中で人々の生活がまったく変わってしまい、学校は突如としてオンライン学習への移行を強いられた。しかしあらゆる混乱のなかで、多くの10代には予期せぬ光明がもたらされた。朝遅くまで寝る機会が増えたのである。通学がなくなっただけでなく、授業開始時刻が遅くにずれることも多かったので、10代たちはそれに合わせて目覚ましをセットできるようになった。

 学校は始業時刻を変更できるだけでなく、迅速に実行できることが、疑いようもなく明らかになった。そして、変化したこの新しい現実の中で、10代たちには、睡眠がもたらす情緒的なレジリエンス(回復力)が、これまで以上に必要であることも明白であった。

 対面授業が再開された後も、始業時刻を遅らせたまま維持した学校は少なくない。そうした学校は、10代の生徒たちが以前から必要としていた、より睡眠に配慮した時間割を提供し続けたのである。そして今、カリフォルニア州の新たな法律が施行を目前に控える中、州内の300万人を超える10代および前プレティーン思春期の10代たちも、同様の時間割を享受することになる。2022年7月1日現在、州の公立高校の始業時刻は午前時分以前としてはならず、中学校の始業時刻は午前8時以前としてはならない(詳細は第15章を参照)。

                   ★★★

 10代たちは、睡眠が足りなくても何とかやり過ごすことはできる。必要に迫られれば、私たち大人 と同じように、そうしてしまうのである。しかし、その代償は小さくない。前述したとおり、重大な影響が生じるのである。それがどんなものか本書で詳しく知ってほしい。

 反対に、十分な睡眠を取れている10代は、より幸福で健康的であり、学業面でも良好な成果を上げる。情緒的なレジリエンスも高く、ともに生活しやすい存在でもある。私たちは皆、睡眠不足でないときのほうが、よりよく機能するのである。

 スタンフォード大学医学部で睡眠障害の治療を専門とする臨床教授、ラファエル・ペラヨ医師は、最 近の講演で次のように要約している。「睡眠は、私たちが持つ最も強力で、最も自然なセルフケアの形なのです」

 本書が、10代がより多く、より良い睡眠を取ってもらえるための情報と手段を、本書で学んでほしい。また、本書を通じて、自分自身の睡眠習慣を見直すきっかけを得る読者も少なくないはずである。

 本書が、睡眠をめぐる旅路の道しるべとなることを願う。

書誌情報

『子供睡眠不足社会 親と学校に何ができるのか』
著=リサ・L・ルイス、訳=永盛鷹司
予価:2800円+税
ISBN:978-4-7783-4124-4
仕様:四六判/316ページ(予定)  
発売:2026年3月23日(月)

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