稀代の知識人・丸屋九兵衛が恒例のトークショーを開催 ~今回も反差別&濃厚オタトーク満載の内容に

カルチャー
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11/24(金)に渋谷区のレッドブル・スタジオ東京ホールにて、音楽ウェブサイト『bmr』編集長であり、幅広い分野において評論活動を行なう博覧強記の怪人・丸屋九兵衛のトークライブが開催された。

◆『Soul Food Assassins』アメリカ黒人史解読:映画『ドリーム』と『ゲット・アウト』に見る差別の昔と今

イベントの第一部は、世のブラック・カルチャー・リテラシーを底上げすべく企画されたトークライブ・シリーズ『Soul Food Assassins(ソウルフード・アサシンズ)』。今回もTwitterでウィットに富んだ反差別的発言を繰り返し、レイシスト諸兄を怒らせまくる丸屋氏らしい内容となった。

冒頭で丸屋氏は、英語文化研究者で翻訳家としても知られる越智道雄氏の著書『カリフォルニアからアメリカを知るための56章』(明石書店)を紹介。「私の言いたい事を沢山書かれていた。しかもオーティス・レディング、ノトーリアスB.I.G、スタートレックなどを引き合いに出している。私の話を聞くよりこの本を読んだ方がいい」と激賞した。越智氏は、なんと現在81歳。年を重ねてもフレッシュな視点を失う事のない姿勢に、丸屋は深く感銘を受けている様子だった。

◆映画『ドリーム』を通じて知るアメリカにおけるアフリカ系差別

さて今回『Soul Food Assassins(ソウルフード・アサシンズ)』のテーマとなったのは、アフリカ系アメリカ人への差別を扱った2本の映画。最初に扱う『ドリーム』は、公民権運動真っ只中の時代を舞台にNASAで働いていたアフリカ系女性たちを描いた作品だ。ご存知の通り、アフリカ系や女性への差別をテーマとした大ヒット作だが、作中のNASAにアフリカ系男性の職員がいないことに気づいた方は、それほど多くないはず。丸屋は、その理由を「アメリカでは黒人男性よりも黒人女性に寛容な傾向があるんです。これは大英帝国以来の分割統治の手法なんですよね」と語った。

続いて丸屋が注目したのが、主人公の上司である白人が、<カラード(=アフリカ系)女性用トイレ>の表示板をハンマーで破壊し、<女性用トイレ>へと変えるシーン。実はこのエピソードは史実には存在しないのだとか。丸屋は「この手の映画にフィクションシーンが不必要だとは思わない」と前置きした上で、「アメリカではこうしたアフリカ系を白人が救うフィクション描写が『White Privilege(=白人特権)』的であるとして、批判の対象となっている」と指摘。さらに「先住民が存在したアメリカ、中国人が発明した火薬、羅針盤、アフリカ系アメリカ人が創り上げたロックンロールなど、白人はなんでも自分たちが<発見/発明>したことにしてしまう」と続けた。

◆「リスペクト系レイシズム」とは?~仰ぎ見るのは蔑むのと変わらない

表面上はポリティカリー・コレクトネスに配慮しているものの、どこか心がこもっていない映像描写に注目した丸屋は、続いて映画『ゲットアウト』を引き合いに、アフリカ系への差別について語っていく。同作はアメリカのお笑いコンビ「キー&ピール」のジョーダン・ピールが初メガホンをとった傑作ホラーサスペンス映画。白人女性と付き合っている黒人男性が、恋人の実家で遭遇する様々な出来事を描いた物語だ。

ネタバレを避けるため、これ以上のストーリー解説は割愛するが、『ゲットアウト』が描いているのは<リスペクト系レイシズム>。「ゲットアウトに出てくる白人は黒人を蔑視はしてない。それどころか仰ぎ見ているが、それは蔑むのと同じく、カリカチュアでしかない」と丸屋は語った。そう、特定のマイノリティを紋切り型に賞賛することもまた差別なのだ。

最後に丸屋は、<リスペクト系レイシズム>についての参考図書として、エリート白人高校に進学した先住民高校生が書いた『はみだしインディアンのホントにホントの物語』の一節を紹介。先住民ファッションに身を包んだ金持ち白人を見た作者は同書の中で、このように思いを吐露している。

「うへ、こいつコレクターだぜ。インディアンは、こういうやつらに会うと、自分たちが陳列台にピンで止められた虫みたいな気分になる」—『はみだしインディアンのホントにホントの物語』(SUPER!YA)

丸屋は一貫して「多数派がどのような思いでアウトプットしたかは問題ではなく、少数派がどう感じるかこそを重視すべきである」と主張してきた。残念ながら我々は、一切の悪意なく、無意識に差別をしていることがある。だからこそ常に自分を省みなくてはならないのだ。今回の『Soul Food Assassins(ソウルフード・アサシンズ)』は、そのことを改めて実感させてくれた。

【Q-B-CONTINUED】マイティ・ソーにお仕置き!北欧神話の秋、ラグナロクの夜

毎回非常に倫理的な内容となる第一部『Soul Food Assassins(ソウルフード・アサシンズ)』とは打って変わって、続く第二部『Q-B-CONTINUED』は、丸屋のオタク的側面を全面に押し出した内容となった。ここからは、大学講師の顔も持つ芸人のサンキュータツオが登場し、スペシャルホストとして暴走する丸屋に切れ味鋭いツッコミを入れていく。

◆「ラグナロク」を「バトルロイヤル」と訳してしまったのは客を舐めすぎ

今回のテーマは<北欧神話>。映画『マイティ・ソー』シリーズの最新作『Thor: Ragnarok(ソー・ラグナロク)』に、『マイティ・ソー バトルロイヤル』という邦題がつけられ(てしまっ)たことに憤慨した丸屋が、日本における北欧神話リテラシーを上げるべく立ち上がった形だ。

ちなみに「ラグナロク」は、北欧神話の世界における<終末の日>のことで、ファンタジー界では知ってて当たり前な超常識ワード。丸屋は憤りつつ「とにかく日本の映画界は客のリテラシーを舐めすぎ」と語っていた。

さて丸屋が北欧神話と出会ったのは、わずか9歳の時なのだとか。感慨深げに「講談社少年少女世界文学全集に収録されていた北欧神話の暗くて重くて悲しいところに惹かれていったんです」と少年時代を振り返る丸屋に対して、サンキュータツオが「9歳にして厨二病が始まったんですね」とツッコむと、会場内は笑いに包まれた。

◆北欧神話の神さまの話~丸屋が一番好きな北欧神話の神は「ロキ」

続いて丸屋は北欧神話の神の名を挙げ、ユーモアを交えつつ解説を加えていく。例えばマイティ・ソーのモデルとなった「トール」は、怒りっぽいけど気が優しくて、ちょっと頭が悪いのだとか。非常に笑えるエピソードが多いため、主に平民たちに愛されていたトールだが、いつのまにか戦士が崇拝されていたことで「オーディン」に、主神(※AKBで言えばセンター)の座を奪われる。これは戦士の発言力が高まった結果なのだそうだが、元々脇役として設計されたにも関わらず、信者の地位向上によってセンターに抜擢されたという事情があるオーディンは、恨みがましかったり、人を見る目がなかったりと、非常に人間的な要素を持っているという。

話題は、オーディン、戦士の天国「ワルハラ」、美しい兄妹神「フレイ」と「フレイヤ」、義理堅く公明正大な戦争の神「ティル」、人を見る目がある神々の門番「ヘイムダル」を経て、丸屋が「ありとあらゆる神の中で一番好き」だと語る「ロキ」へと移っていく。

そもそもロキは、神ではなく、神の敵である巨人だが、オーディンに貸しを作ることで、義兄弟の契りまで結び、神として扱われるようになったのだとか。その特徴は、顔が良く、弁が立ち、性格が悪いこと。その性格のせいで、時にピンチに陥るロキだが、その度に優れた才能で切り抜けていく典型的なトリックスターなのだそうだ。「私はロキになりたかった」とまで語る丸屋にとって、おそらくロキは目指すべき人物(?)像であるのだろう。言われてみれば、丸屋とロキは、ちょっと似たところがあるかもしれない。

そんなこんなで、今回も特大ボリューム&特濃の内容となった丸屋九兵衛トークライブ。次回は、2018年1月14日に開催されるとのことで、『Soul Food Assassins(ソウルフード・アサシンズ)』は「2パック・シャクールとブラックパンサー」、『Q-B-CONTINUED』は「大英帝国の爪痕」がテーマとなる模様だ。

ちなみに丸屋は、12月22日に新刊『丸屋九兵衛が選ぶ、2パックの決めゼリフ』、そして12月29日には2パックの詩集『コンクリートに咲いたバラ』の新訳版を出版予定とのこと。次回のトークライブ参加する方は、この年末年始に一読しておこう。

【関連リンク】
丸屋九兵衛ドットコム
丸屋九兵衛 (@QB_MARUYA) | Twitter

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。