ジャッキー・チェンのスタントシーンでも屈指の名場面が、『プロジェクトA』(1983年)における時計台落下のスタントです。20m近い高さから垂直落下する驚きのスタントは、世界中の観客の度肝を抜きました。この元ネタとなったのが、ハロルド・ロイドの『要心無用』(1923年)のワンシーンです。
黒縁メガネをトレードマークに、サイレントの喜劇映画で活躍したロイドは、高所でのギャグを得意としていました。その代表作である『要心無用』では、デパートの宣伝のためにビルの壁をよじ登るシーンがあるのですが、ここでは当然、合成もスタントも使っていません。
そして、『プロジェクトA』の元ネタとなった時計台にぶら下がるシーンでは、時計の針にぶら下がっているロイドの足元の道路には、クルマがビュンビュン走る光景が見え、落っこちたら、まず無事には済まないであろうことがわかります。まさにジャッキー同様の決死のスタントです。このスタントは、ジャッキー以外の映画人にも大きな影響を与えており、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でも、これとそっくりなシーンが登場しています。
そんな姿を観て観客はハラハラしたわけですが、実はロイドも本当に必死だったらしく、手に時計の針が食い込むほど力を入れて掴み続けたために、その後もずっと痕が残っていたそうです。
幸いなことに、このときは大ケガをせずに済みましたが、別の作品である『化物屋敷』の撮影中には、爆薬を使ったシーンで右手の親指と人差し指を失っています。しかしロイドは、それでも危険なスタントをやめたりはせず、以降の撮影は義指を付けて行ったというからすごい! このあたりも、時計台から落下したあとに、撮り方が気に入らないからと再び同じスタントを繰り返したジャッキーに通じるところがあります。
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