未知なるものを取り上げ続けてきた雑誌『ムー』は、まもなく創刊40年を迎えますが、その躍進の背景には、1980年代に起こった空前のオカルトブームがありました。80年代と言えば、日本では昭和から平成へと時代が変わった時期ですが、どれほどオカルトが一般的だったのでしょうか。
1981年4月にスペースシャトルの1号機「コロンビア」が打ち上げに成功すると、宇宙開発時代の到来が現実味を増していきます。それと関連するようにアメリカのレーガン大統領(当時)が、通称「スターウォーズ計画」と呼ばれた戦略防衛構想を発表します。これは核兵器に変わる抑止力として、大気圏外に打ち上げた軍事衛星からのレーザー攻撃を計画したもの。こうした宇宙の政治利用は、宇宙が夢と希望のフロンティアであると同時に、新たな戦争の火種になり得るものという認識を人々に広めていくことにもなりました。
ハリウッド映画でも1982年には異星人をテーマにした両極端な作品が公開されました。異星人との友情を描いた『E.T.』と、異星人を人類が理解できない恐怖の対象として描く『遊星からの物体X』です。このように80年代は未知のものに対する期待と不安が共存しており、それによって人々はいっそうムー的なものに関心を寄せていったのです。
自由な知の復権を唱えた「ニューアカデミズム」がブームになったのもこの時代でした。特にチベット密教を学んだ宗教学者・中沢新一氏に代表されるように、西洋の科学中心主義へのカウンターとして、東洋思想への注目が集まります。人々は科学の力によって宇宙のような「外の世界」に探究心を向けると同時に、精神や霊魂といった「内なる世界」についても追求していくようになりました。
こうしたトレンドの変化はバブル景気にも後押しされ、自己啓発や人格改造など心理学の手法を使ったセミナーの数々がビジネスマンの能力開発講座として活況を呈していきます。かつては「オカルト」とされていたのものが、社会に容認されていった時代だったのです。
◆ケトル VOL.43(2018年6月15日発売)
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