日本では近年、大学進学率が50%を突破し、「大卒=高収入」というモデルは崩れつつある。そういった状況は中国にもあるようで、大学を卒業しながら低賃金の仕事に甘んじる「蟻族」という若者が問題になっている。日本よりも大学進学率が低い中国で、なぜそのような現象が起きているのか? 『図解でわかる 14歳から知っておきたい中国』(太田出版/北村豊・監修/インフォビジュアル研究所)では、このように説明している。
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かつての中国では、大卒者はエリートとして将来を約束されていました。しかし、1998年に大学の規模を拡大する政策が実施され、大学の数も定員数も増大。その結果、98年に90万人に満たなかった卒業生の数は、2016年には760万人に膨れ上がるまでになりました。
しかも、職を求めるのは大卒者だけではありません。再就職先を探す一般労働者や、海外留学からの帰国者も、膨大な数にのぼります。さらに中国の産業界は、エリート意識の強い大卒者が希望するホワイトカラー(頭脳労働者)より、即戦力になるブルーカラー(生産現場の労働者)をより多く必要としているのが現状です。その結果、仕事はあっても、学生の希望と企業側が求める人材との間にミスマッチが生じているため、就職できない若者が増加し、社会問題ともなっています。
その代表的な例が「蟻族」です。地方出身者は、都市部の大学に通っている間は都市戸籍が与えられますが、卒業して都会で職が得られなければ、農村戸籍に戻ってしまいます。それでも田舎に帰らず、都会で集団生活を送るのが、蟻族と呼ばれる高学歴の若者たちです。都市戸籍をもたない彼らは、非正規雇用の安い仕事に甘んじて暮らしをしのいでいます。
また、就職をあきらめ、実家に戻って親のすねをかじる「傍老族」、日本でいうところのパラサイトシングルも増えています。経済力のある親の資金で海外留学する若者も多く、近年は特にアメリカへの留学生が急増しています。
一方、就職できた若者も、これで安泰というわけではありません。新卒者の初任給は、大都市でも平均5000元(約8万5000円)に届かないのが現状です。そのため、より給与の高い職を求めて転職を繰り返す若者も少なくありません。
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幼い頃から勉強を続け、高い学費を払って大学に通っても、辿り着いた先が低賃金労働ではやりきれないのは日本人も中国人も同じ。高い教育が生活の安定に繋がらないのなら、我々はいったい何に身を委ねれば良いのだろうか……。なお同書ではこのほか、大国・中国がかかえる社会問題、現代中国の普通の暮らし、中国社会の基礎となる中国共産党などをわかりやすく図解と文章で解説している。
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