資本主義国の日本では、個人が土地や家を所有することが可能だが、社会主義国の中国は、土地所有のルールが日本とは大きく異なっている。日本の不動産物件や土地を“爆買い”する中国人のニュースがしばしば報じられるが、彼らの故郷・中国の土地所有事情はどうなっているのか? 『図解でわかる 14歳から知っておきたい中国』(太田出版/北村豊・監修/インフォビジュアル研究所)では、このように説明している。
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社会主義国である中国では、土地や家の所有のあり方が、日本とは異なります。そもそも社会主義は、一部の資本家が富を独占する資本主義に対し、すべての人が平等であることを目指したものでした。そのため土地は個人のものではなく、人民のもの、つまり国の財産だととらえられています。ただし、中国では都市の土地は国家所有、農村の土地は集団所有であり、これが両者の土地政策に大差をもたらしています。
国の成立当初から、中国の人々は何らかの単位(組織)に属することで、国によって管理されていました。土地や家もこうした単位を通して、国民に提供されていました。都市住民の場合、政府機関や国有企業など、自分の勤め先から住宅の分配を受けていました。こうした従業員宿舎は、中国語で「公房」と呼ばれます。
一方、農村部では、村民委員会が土地の所有権をもち、農民たちは委員会から居住用の土地を借りて、家を建てることができました。集団所有の土地に建てられたこれらの家は「小産権房」と呼ばれます。
◆急速に進んだ住宅の私有化
このように都市と農村とでは土地政策が異なりますが、どちらも自分の住む場所を自由に選ぶことができず、個人による住宅の売買や賃貸は禁じられていました。
しかし、1978年に始まった改革開放政策のもとで、住宅を商品化する政策が推し進められ、中国の住宅事情は一変します。住宅の商品化とは、住宅を売買し、個人が所有できるようにすることです。これにより、都市住民は自分が住む公房を単位から買い取って、私有化できるようになりました。
1998年には、従来の住宅分配制度が停止され、住宅私有化に拍車がかかります。ただし住宅は自分のものになっても、土地は国のもの。個人が得られるのは、あくまで土地の使用権ですが、買い取った住宅は、自由に売却できるようになりました。
一方、農村部の小産権房は、売却や賃貸は可能ですが、売却できる相手は同じ村落に属する農民のみに制限されています。にもかかわらず、村民委員会によって不法に売買され、農村の都市化が進みました。
一方で国主導の都市化も進められ、政府は補償金を払って農地を収用してきました。しかしその過程で、各地で農民の居住地が「城中村」として都市の中に取り残されることになりました。ここでは農業を営まなくなった農民たちが、安普請の集合住宅を出稼ぎ労働者に安く貸して生計を立てており、スラム化が懸念されています。
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海外の土地や物件を買い漁る背景には、こういった複雑なルールが存在することもありそう。日本では、30年近く前に起こった土地バブルの負の遺産がいまだに残っているが、現在不動産バブルまっただ中の中国がどのような道をたどるのか、注意深く見守ることになりそうだ。なお同書ではこのほか、大国・中国がかかえる社会問題、現代中国の普通の暮らし、中国社会の基礎となる中国共産党などをわかりやすく図解と文章で解説している。
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