現在、日本の書道文化のユネスコ無形文化遺産登録を目指し、日本書道ユネスコ登録推進協議会が国に働きかけを行っている。しかし、「書き初めはおろか、書道なんて中学生以来やってない。」という方も多いはず。書道は授業でやっていた最も身近な日本の芸術文化だが、なぜ多くの人が苦手意識を持ってしまうのか? 「わよう書道会」代表の書家・うどよし氏が解説する。
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美術館の書展に足を運ぶと、つながっている漢字や平仮名が多く、敷居の高さを感じたことはないでしょうか。解説の学芸員さんに「書は見たままを感じて下さい」と、現代アートのような鑑賞方法を指南されると言う話をよく耳にします。中には「せっかくの文字芸術なのだから、文字をつなげず読めるように日本語で書いてくれたら、書の内容と筆字を鑑賞できるのに…」と思う人もいるかもしれません。そういう思いに応えるために“和様(わよう)”という新しい書道スタイルを提唱しています。
和様のルールは、非常に単純で次の3つだけです。
・日本語で書く。
・続け字、崩し字不可
・楷書不可
特に、古い外国語の漢文やかな書の最大の特徴である「続け字、崩し字不可」、さらに「楷書不可」というルールは、書道的には、非常に大きなインパクトがあります。書家からすれば、お得意の筆法である続け字、崩し字が封じられるため、“手足をもがれた状態”のように感じる書家もいるほどです。
実は、和様のルールに「続け字、崩し字不可」を明記した理由は、過去の日本の書道史にあります。
今の書道は、江戸時代までの御家流から、明治以降は、古い外国語(漢文)や古い日本語(かな書)が中心となって、現在に至ります(「書道」という単語も明治生まれ)。そんな中、日本語の書表現の必要性が強く意識され始めたのは、昭和初期。しかし、漢文やかな書中心で発展した書道の審査では、書かれた文章内容は重視されませんでした。
つまり、日本語の書表現は、一般人に読める書道に縛られる必要性はありません。審査員からの芸術的評価を得るにつれ、漢文・かな書で使われる崩し字、続け字が日本語の書道に浸透していきました。その結果、一般人には読めない崩し字、続け字ありの書表現になりました。
和様では、その歴史を繰り返さないために「続け字、崩し字不可」という厳しいルールを設けました。書家側は「続け字、崩し字不可」のルールだと“手足をもがれた状態”とデメリットであることを前述しました。これは、古い外国語や古い日本語を書くことが“目的”で、それを達成する“手段”として、従来の書道をやっている人に限られます。
一方、 書の“目的”が、書を通じて、より多くの人に言葉を伝えたい、その書表現を見てもらいたいという書家にとって、その書表現の”手段”を和様にすることは、より多くの鑑賞者、理解者が増える可能性があります。つまり、多くの人に鑑賞してもらいたいと思う書家にとって、和様は、言葉という書の特徴を最大限に活かせるメリットとなります。
従来の書道は「50歳で次世代を担う若手」と言われるほど、上が詰まっています。しかし、和様は、従来の書道に比べると、まだまだ発展途上。つまり、現在の書道も素人も、同じスタートライン。優しく言えば、全員に活躍のチャンスがあると言えます。
その和様の書作品の発表の場として、和様だけの公募書展として初開催されるのが、2017年1月13日からの「和様の書展」です。「日本の書道」のユネスコ登録を目指す日本の書道にとっても、現在の日本語を書表現する和様の公募書展が、初開催されることは、追い風になると思います。
この和様の書展は“お笑いのグランプリ”のような受賞者にチャンスが生まれる登竜門の書展に育てて行きます。そのため、最も重要な書展の要素の1つである審査を、従来の書展とは大きく変えました。
従来の書展の審査員は、団体内で一定の賞歴を重ねた各専門の書家です。しかし、和様の書展では、書の利用(採用)者側となるビジネスのプロ、一般企業(一部個人)が行います。企業は、単独で受賞作1点を決め、賞と副賞を提供します。副賞が出る書展も非常に珍しいので、従来の書展に比べると、出品者の創作のモチベーションは上がると思います。それ以上に、受賞者が企業との接点を作るチャンスができることは、副賞以上の価値があると思います。
また、審査結果は公開されるため、出品者は、利用者(企業)が好む作品の傾向が具体的に掴め、今後の創作の参考にできます。このように出品者が個別の審査情報を得られる書展はあまりありません。
審査員には、書道関係以外に、食品、酒造、フォント会社、包装容器、化粧品、出版社、また、個人では、吉本興業顧問、落語家など15の賞+15の副賞が用意されるとのこと。副賞は、淡路麺業(兵庫県)の「生パスタ&ソースセット1万円相当分」ほか、化粧筆、化粧品、書籍、筆ペンetc.、中には、雑誌掲載権や題字採用権といった、受賞=活躍できる副賞も用意していただきました。(審査員も可能な限り募集するとのこと)
出品作品の締め切りは12月5日(月)必着まで募集中。応募要項などは以下のURLからダウンロードが可能です(出品には出品料等、費用がかかります)。作品の参考資料になるように、前回の作品集(700円税別)や和様に適した和紙(国産)の販売も行っています。
タイトル:「和様の書展」
会期:2017年1月13日(金)~15日(日)
会場:東京芸術劇場(池袋)
JR・東京メトロ・東武東上線・西武池袋線 池袋駅西口より徒歩2分。
駅地下通路2b出口と直結。
【関連リンク】
・和様の書展
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