池や湖とは違い、海には大きな流れがあることはご存知の通り。だが、海の深層には、そのような表層の流れとはまったく別の流れも存在する。深海の水はこの流れにのって1000年ほどの時をかけて、世界中の海をゆっくりと巡っていると言われ、この地球規模の循環のことを研究者たちは「海洋深層循環」と呼んでいる。この循環について今年、世界で最も現実の海流に近いモデルを作り上げたのが、東京大学の岡顕准教授だ。
「冷たい水ほど重くなって沈むので、それが深層の水となります。深層の水は表層の温かい水と混ざり、軽くなって上昇し、海洋深層循環が生まれます。その循環の強さは、深層の冷たい水と表層の温かい水との混ざり具合に大きく左右されるのです」
このため、海洋深層循環をシミュレーションするには、深層と表層の混ざり具合についての情報が必要となる。そこで岡先生は、海底から離れた場所で起こる乱流に着目し、東京大学の丹羽淑博准教授に共同研究を依頼。深層の海水の循環だけでなく、“海水の年齢”を示す「水塊年齢」の分布の再現にも成功した。ところで、この海洋深層循環の研究は、どんなことに役立つのだろう?
「海洋深層循環は、ベルトコンベアのように炭素や栄養塩など様々なモノを運ぶ役割を果たしています。なかでも重要なのが『熱を運ぶ』という役割で、これが気候に大きな影響を与えている。ヤンガー・ドリアス期と呼ばれる今から約1万年前に起こった気候の寒冷化も、海洋深層循環が止まったために起こったと考えられています」
かつて日本でも大ヒットしたハリウッド映画『デイ・アフター・トゥモロー』は、海流の突然の変化で地球上に氷河期が訪れる…という内容だったが、これはまさにこの現象がモチーフ。岡先生は
「あれはあくまで映画での話なので、大氷河期が突然訪れることはないと思いますが、今後、海流の影響で気温が何度か上下する可能性はかなり高い。今回のモデルは、将来の気候の変化をより正確に計算するための重要な一歩となると考えています」
と、研究成果について語っている。
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