現在発売中の雑誌『ケトル』は、特集のテーマとして「学者」をピックアップ。「火星のレントゲン写真」「働かない働きアリ」「不老不死」「好かれる匂い」など、興味深い研究に取り組んでいる学者と、その研究成果を紹介している。今回紹介するのは、「カワイイ」について。広島大学大学院の入戸野宏准教授によれば、「カワイイ写真で集中力がアップ」するそうだ。
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仕事の合間にこっそりカワイイ動物画像を見る──そんな人には朗報だが、入戸野先生の研究によれば、「人はカワイイものを見ると集中力が上がる」ことが明らかになったのだという。でもそれってどういうこと?
「多くの人はカワイイものを見ると、頭で考えるより先に0.5秒で笑顔になります。一方、風景写真やコップなどの写真を見ても表情筋は変化しません。カワイイは、対象が持っている性質ではなくて、見る人の内部で生じる感情なんです。カワイイものに出会うと『しっかり見よう』という気持ちなりますね。その結果、注意が狭い範囲に集まり、その集中状態がカワイイものを見た後にもしばらく持続するんです」
実験では、被験者に仔犬や仔猫のカワイイ写真を見せたあと、小さな部品をピンセットでつまむゲームや、数字の羅列から特定の数を見つける作業を実施。すると写真を見る前に比べ成功率は上昇し、「カワイイ」以外の写真では成績に変化はなかった。
「日本発の研究であることを強調したくて、タイトルにあえて『Kawaii』と入れました。科学論文としてはおそらく世界初でしょう」と語る入戸野先生だが、元々は1人の女性学生の発案でスタートしたこの「カワイイ研究」について、「何を『カワイイ』と思うかは人それぞれ。『まともな研究になるのか』と最初は心配でした」と思っていたとか。
この研究により、オフィスに「カワイイ」ものを飾ることは、仕事に役立つことが証明されたわけだが、気をつけなくてはいけないのは、集中力が高まるのはカワイイものを「見た後」だということ。「カワイイものが常に視界にある状況では、逆に気を取られて注意力が散漫になる」(入戸野先生)ので、そこは注意が必要だ。
◆ケトル VOL.010(12月15日発売/太田出版)
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