イカそーめん、イカフライ、するめ、イカ刺し、イカの塩辛……かつては日本人に一番食べられていた水産物・イカ(現在1位はサケで、イカは2位)は、美味しいだけではなく、何と空も飛べるらしい。一部の漁師や海洋生物研究者の間ではよく知られていたこの事実だが、イカが水面から飛び出して着水するまでの一連の行動を世界で初めて解明したのが、北海道大学の山本潤助教の研究チーム。イカはどのように空を飛んでいるのか?
「今回観察されたイカはアカイカ科(スルメイカの仲間)で、おそらくアカイカかトビイカ。このイカの飛行行動は4つの段階があります。最初は外套膜(イカの内臓を包む筋肉の膜。刺身になる部分)を収縮させて、漏斗(イカが墨を吐き出す部位)から水を勢いよく噴出して水面から飛び出す『飛び出し』。次は、水を噴射し続けて加速する『噴射』。このとき、イカはヒレと腕を鳥の“翼”のように拡げるのです」(山本助教。以下同)
さらに、水の噴射が終わった後、拡がった腕とヒレに発生する揚力を利用して空中を移動する「滑空」。最後に、ヒレを外套膜に巻きつけて、腕をたたんで体を小さくしながら、進行方向に向かってやや下がった姿勢を取る「着水」が、イカの飛行の4段階。イカは、空中に3秒ほど滞在するそうだが、まだ謎はたくさん残っているそうだ。
「イカの飛行は、海中の捕食者から逃げるための行動と考えられますが、逆にイカが飛ぶことで海鳥などに捕食される機会が上がるはず。イカは飛行によって海鳥に食べられているのか。それとも、海鳥からも逃げることができるのか。このテーマについては目下研究中で、近々論文を発表する予定です」
もともとは飛行行動が専門ではなく、スルメイカの幼生(卵から孵ったばかりの赤ちゃん)について研究していたという山本さん。身近な生物にも関わらず、イカの全貌はいまだに驚くほど解明されておらず、例えば、卵から孵った後、スルメイカが何を食べて成長するのかも解明されていないため、「人間の手だけでは、イカを卵から成体へと成長させることすらできない」のが現状なのだそうだ。
◆ケトル VOL.12(2013年4月13日発売/太田出版)
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