あらゆる地球上の生命が海から生まれたことは、みなさまもご存知の通り。我々人類も、元は海中の魚が陸に上がり、両生類、そして哺乳類へと進化したとされているが、一方で意外と知られていないのが、「いかにして植物は海から陸に上がったのか」ということだ。湖や海の中に住む藻の仲間が、どうやって陸上植物へと進化したのか? この地球史上の大問題に着手したのが、東京工業大学の太田啓之教授の研究グループだ。
「我々が思っている以上に、陸上は生物の生育環境としてはシビアな場所。突然の乾燥や強光、場合によっては凍結することすらあります。そんな過酷な場所へ、水中のような安定した環境から生育環境を変えるには、非常に強いストレスが伴うはずなんです。この環境変化による強いストレスをどう植物が克服したのか。それがずっと謎でした」
そこで太田教授は、藻類や種子植物の遺伝子と、藻類と陸上植物の中間的存在であるクレブソルミディウムの遺伝子を比較し、クレブソルミディウムは陸上植物にしかないと思われていた遺伝子やタンパク質を持つことが判明。これまで陸上植物限定だった遺伝子を、藻類ながらも持っているクレブソルミディウムは、陸上植物の祖である可能性が非常に高いと考えられたのだ。
これは、水辺にいた魚類が陸に上がって両生類へと進化したのと同様、水辺に生えていた藻が次第に乾燥や高温、光にも耐えられる車軸藻類となり、やがて陸上植物へと進化していったということ。しかしこの研究には、どんな意味があるのだろう?
「まず、車軸藻類には、細胞に油をためる種類のものがあります。この植物の大量生育が可能になれば、バイオマス燃料のエネルギーとして活用することもできるかもしれません。もう1つには、これまで植物は動物と比べて起源などがあまり研究されてきませんでした。この発見を機に、植物の進化にもより関心を持ってくれる人が増え、より陸上植物の研究が発展していけばうれしいですね」
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