究極のインタビュー職人!? やきそばかおるの「会いに行ける偉人」がディープすぎる

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やきそばかおる。『水道橋博士のメルマ旬報』の「会いに行ける偉人」というコーナーで、「あまり著名ではないけれど、他人とちょっと違うことをしている人」に会い、インタビュー連載を続けているライターだ。

これまで「会いに行ける偉人」に登場したのは、頭の中がブスの事でいっぱいの女、世の人の性癖を集め続ける女性二人組、オダンゴヘアーマニア、背が低い女性マニア、カラス雑誌編集長、古墳にコーフンする女など、のべ35組。

こうしてただ列記すると「奇人変人大集合」のように見えてしまう。最近はテレビのバラエティー番組でも、普通とは少々変わった趣味を持つ人を登場させてせせら笑うような企画があるが、やきそばかおるの視点は、それとは正反対のものだ。

例えば、連載第4回の「頭の中が『ブス』の事で一杯の女」。

とある日曜日の朝、やきそばがTwitterを見ていたところ、ブスに関する考察ばかり延々とツイートしている人を見つけた。

「ブスは“面白いけどブス”と言われ 美人は“美人なのに面白い”と言われる」
「好きな男の子のやることなら全部かっこよく見えるのが恋で、可愛い女の子のやることなら全部可愛く見えるのが世間で、可愛くない女の子は視界にすら入らないのが男の子」

……といった言葉を休日の朝から延々とツイートしている女性「京子さん」に、やきそばは興味を持つ。普通のネット系ライターならば、ツイートをまとめて「ブス考察ツイートがヤバすぎる!」というような原稿を30分かそこらでササッと書いて、ハイおしまい、である。

ところがやきそばは、この人に会いに行ってしまうのだ。わざわざ会いに行き、1時間43分にもわたって話を聞き、記事に仕上げる。なぜそんな手間をかけるのか。これに対してやきそばは、

「パソコンだけで仕事していると、知り合いができないじゃないですか。このまま年を取ると悲惨な老後になってしまいそうなので、(インタビュー取材で)茶飲み友達を探しているんです」

と笑うが、理由はもちろんそれだけではないはずだ。

やきそばはインタビューの中で京子さんから

「ある年のクリスマスの日、サンタクロースからのプレゼントと共に手紙が置いてあったんです。正体はお母さん。妹に宛てた手紙には『かわいい○○ちゃんへ』っていう枕詞がついてあったのに、私の手紙には『やさしい京子ちゃんへ』って書いてあって、そのことに気付いた瞬間に『あ…』って思ったんです。

間違ってはいないけど、明らかな“差”を感じました。妹は親戚にも可愛がられていて、明らかに『可愛がられ度』が違ってたんです。私の方が可愛くないからだと思うようになり、そのまま今に至っています」

という話を聞き出している。ツイートをまとめただけでは知ることのできないエピソードによって、これまで京子さんが放ってきたブスツイートの重みが全く異なってくる。

こうして、会いに行く事でしか引き出せない「偉人」の魅力を、やきそばは毎号記事にしているのだが、ではどのようにして偉人を見つけているのだろうか。

「京子さんのようにTwitterで出会う人もいれば、友達の友達もいますし、『性癖を集め続ける女性』なんかはデザインフェスタで見つけました。変わったことしているので『取材させてください』と声をかけたんです」

やきそばは『メルマ旬報』のみならず、ほかの媒体でもインタビューを積極的に行っており、この2年間に限ってもその相手は200組を超える。なぜそこまでインタビューにこだわるのか。その原点は、20代で上京して間もない頃に観た、笑福亭鶴瓶の独演会『鶴瓶噺』だ。

『鶴瓶噺』に、ステージ上に書かれた25人の無名の人の名前から観客が1人を選び、鶴瓶がその人物のおもしろエピソードを話すというコーナーがある。全く知らない人の話を鶴瓶がかくもおもしろおかしく紹介する様子を、やきそばは「これこそが究極の“話”」だと感じたのだ。

誰もが知っている有名人についての話であれば興味をもって読んでくれるが、決して有名とはいえない人の話を、魅力たっぷりに紹介するやきそばの記事は、「究極のインタビュー」と言っても過言ではないだろう。

そんなやきそばの最終目標は、1000人にインタビューすることだという。

「(週刊文春に連載中の)『阿川佐和子のこの人に会いたい』は、もう1000回を越えているんです。僕がインタビューを始めた年齢と、阿川さんが連載を始めたときの年齢が同じくらいなので、目標にしたいですね。そして……いつか、阿川さんにインタビューされたいんです。そのためにはもっと有名にならないと。なんか発明でもしようかな」

とやきそばは笑うが、「会いに行ける偉人」を続けていけば、阿川佐和子から声がかかる日も遠くないだろう。

最後に、やきそばにとってインタビューとは何か、尋ねたところ

「聞いた話に、自分にしかかけられないマジックをかけて、よりおもしろく、楽しく読んでもらえるような記事にできるよう心がけています」

との答えが返ってきた。

やきそばかおるの魔法は、とどまるところを知らなそうだ。

【関連リンク】
水道橋博士のメルマ旬報(月額500円)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。