音楽好きならば、「メジャー・レーベル」と「インディー・レーベル」という言葉を耳にしたことがあるだろう。一昔前、それこそ昭和の価値観では、インディー=マイナー&アングラというイメージもあった。しかし、ここ20年以上にわたって、クオリティ面でも売上げや人気の高さにおいても、メジャー所属アーティストを上回るアーティストは多数出現している。
資本力、プロモーションや流通のネットワーク、会社の規模や成り立ち、また対小売店への販売条件(返品可能or買い切り)など、違いももちろんあるが、メジャー・レーベルと提携を結んで運営を続けるインディー・レーベルもあるし、各インディーズレーベル特有の持ち味やDIY精神などに価値を見出したりする熱心なリスナーは別として、一般的なリスナー視点では、限りなくインディーとメジャーの違いというのは見えづらくなっている。
一方、アーティストにとってはどうだろうか。秋田出身、平成生まれの女性シンガー・ソングライター、THE SxPLAY(ザ・スプレイ)は「インディーズに自由を求めた」と語る。かつてTHE SxPLAYは、“菅原紗由理”として2009年にメジャー・デビューし、ミニアルバム『キミに贈る歌』が配信サイトで100万ダウンロードというヒットを記録しているが、2013年に菅原紗由理としての活動を終了。2014年、アーティスト名をTHE SxPLAYに改名し、インディーズからアーティスト活動をスタートさせた。
彼女いわく、デビュー前は「とにかくデビューしたい」という思いが先立ち、自分が表現したいことは何なのかというのは、突き詰めていなかったそうだ。しかし、メジャーでの活動で自身に求められた枠組みに制約を感じ、逆に「歌いたいことが見えてきた」という。
「私がメジャーデビューした頃に、たまたま“着うたブーム”があって。自分が意図したわけではなく、たまたまそれに乗っかることができました。ただ、知らぬ間に“恋愛曲を歌うシンガー”としての自分像ができてしまっていて。でも、よくよく考えたら私、そんなに「逢いたくて~、せつないわ~」という感じでもなくて。2012年頃から、ふつふつと自分のなかで“こういうものをやってみたい”というものが芽生えてきました」と、当時の違和感と“クリエイターとしての自我”の目覚めを赤裸々に語ってくれた。
「これはまだ誰にも言ってないことなんですけれど、THE SxPLAYになりたての頃は菅原紗由理の頃の曲が聴けなくて。自分の中で“THE SxPLAYでやってやる!”と奮い立っている前のめり感もあったので。でも、今は“あの時の自分はも頑張ってたな”と以前の曲も冷静に聴けるようになりました。
メジャーの頃はいろいろな人に助けてもらったり、守られながら音楽をやっていた部分もありました。今はひとりでやることも多くて、自由なぶん分からないことだらけで“本当に自分はダメダメだな”と思うこともあるんですけれど、自分で音楽を作り出せているな、という実感はあります」
現在はバンド・サウンド志向が高まり、サポートのバックバンドのメンバーも固定化。年間40本のライブ活動などでメンバーとの時間を積み重ねているそうで、「用意された中で“はい、どうぞ”と言われて歌うんじゃなくて、“こうじゃないでしょ、ああでしょ”とか意見をぶつけ合いながら、このバンドメンバーで一緒に歩んでいるんだ」と、充実感もあるようだ。
THE SxPLAYのサウンドを一聴すれば、誰もが彼女のシンガーとしてのとびぬけた魅力を瞬時に理解できるだろう。音楽的野心が芽生える前に、“圧倒的な歌い手”としての才能でメジャーデビューのチャンスを掴んだ彼女。傍目から見ると、お膳立てされた環境にん乗っかることも悪くない気がするが、そこで自問自答し、自分に正直でありたいという気持ちを大切にする。
思わず「まじめですね」と訊いてみると、「そうですか?」と笑われてしまったが、曲を世に出す際に意識していることの一つとして「自分の中で、歌っていて嘘っぽいな、とひっかかるアンテナがあって、ひっかかるものは外す」という言葉からも、やはり「本当のことを歌っていきたい」という思いが強いのだろう。
アーティストとしての活動を通して生まれた葛藤や、自らを突き動かす湧き立つような表現欲求が、見事に花開いた開放感でいっぱいなのが、11月25日に発売されたセカンド・ミニアルバム『Butterfly Effect』だ。
インディーズ・デビュー以前より、サウンドプロデュースを一緒に手掛けるBENNIE KのYUKIは、もともとTHE SxPLAYが10代の頃に憧れた人でもあり、メジャー時代の仕事を通して出会いがあったそうで、「願えば叶うことばかりじゃないけれど、叶うこともある」と実感するような出来事もあるそうだ。
タイトルに冠したバタフライ・エフェクト(ちょっとした出来事がだんだん大きな現象に変化していく、の意)のように「ちょっとしたこともいつか繋がるんだ、と自分に言い聞かせながらやっていることが多いので、もし自分の答えが出せなくて悩んでいる人がいても、時には立ち止まることで新しい自分が生まれるし、自分のいつかに繋がるんだよ」という想いや、皆の悩みの答えを引き出せる作品になったら……という気持ちで制作したそうだ。実際、背中をそっと押してくれるような歌詞の数々と、美しいメロディが詰まっており、繊細ながらもポップで、アリーナで鳴ってもおかしくないスケール感の楽曲もある。
インタビュー中もゾンビ映画からグザヴィエ・ドラン監督の話、P!nkやパラモア、コールドプレイにマライア・キャリーと、さまざまなアーティストや作品にまつわる話が飛び出した。つきせぬ好奇心で吸収したさまざまな作品からの影響も、きっと彼女の今後に素敵な形で繋がっていくのだろう。
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