連載完結から30年が経っても読み継がれている名作が、横山光輝の『三国志』。しかし中国の歴史ものを読み慣れていない人が「横山三国志」を読む際に、よく難しいと感じる点に名前の表記があります。
たとえば、蜀の武将である「馬超」。蜀にはほかにも「馬良」や「馬謖」といった兄弟もいるのですが、馬超はこの2人とは関係ありません。ではたまたま名字が「馬」で一緒なだけと理解しようとすると、馬超が「孟起」とも呼ばれていることが判明して、ますます混乱してしまいます。いったい、昔の中国人はどこまでが名字で、どこまで名前なのでしょうか?
それを説明するために、主人公である劉備玄徳に登場してもらいましょう。劉備は漢帝国の皇帝の家系「劉氏」の子孫であることから、すっかり落ちぶれてしまった国を再興する使命に生きることを決意しますが、昔の中国では、この「劉」という部分が名字、「備」が名前です。では「玄徳」は何なのかというと、ここがややこしいところなのですが、これは「字(あざな)」といい、昔の中国で男子が成人した際に付けられる呼び名なのです。
当時の中国では、人を名前だけで呼ぶことは無礼なこととされ、通常、親類や目上の人以外は「劉玄徳」と「名字+字」で呼ぶか、「劉備」と「名字+名前」で呼ぶことが一般的でした。しかし横山三国志では、「劉備玄徳」とフルネームで名乗ったり、「玄徳」と字だけで呼ばれることが少なくありません。
その理由は、横山三国志のベースとなった吉川英治の小説版『三国志』にあります。吉川三国志では、昔の中国人の人名ルールが日本人に馴染みのないものであることから、名字+名前に見えるように劉備と呼んだり、玄徳と呼んだり、あるいはフルネームで呼んだりするかたちを採用したのです。横山三国志でもそれが踏襲されているわけです。
ちなみに字には兄弟関係を示す記号が含まれることもあり、たとえば「伯」という字が長男、「仲」という字が次男を表します。三国志の中では、孫策と孫権の孫兄弟がこれにあたり、フルネームはそれぞれ「孫策伯符」「孫権仲謀」です。ほかにも「孟」という字も長男を表し、「曹操孟徳」が長男であることがわかります。
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