アイドル、アニメ、漫画、ゲーム──。ジャンルは違えどオタクたちに共通するのは、誠心誠意、全身全霊で愛を注ぐこと。ときに金銭面の負担をも承知で恋に身を焦がす。だが、その実態は一人ひとり違って一様に語れるものではない。
そんなオタク女子それぞれの金銭事情を赤裸々に明かした1冊の本が、ネットを中心にじわじわと話題を集めている。その名も『浪費図鑑 -悪友たちのないしょ話-』。今年8月の発売前に既に重版が決まり、Amazonの予約数で一時上位にも名を連ねた。
手掛けたのは、もぐもぐ、ひらりさ、かん、ユッケのアラサーオタク女子4人のサークル「劇団雌猫」。昨年末から販売している「インターネットで言えない話」をコンセプトにした同人誌『悪友』シリーズを、コミックマーケットやネット通販で即完売させてきた。『浪費図鑑』は、この『悪友 vol.1 浪費』をもとに作られた商業デビュー作なのだ。
9月30日、「劇団雌猫」は『悪友』の“イベント版”ともいえる「レ・レ・レンアイ~オタクに恋は難しい?」を東京・阿佐ヶ谷ロフトAで開催した。その名の通り、テーマは『悪友vol.2 恋愛』にちなんだ「恋愛」。当日券が販売されないほどの人気で、キャパ100人ほどの会場は多くの女性で埋め尽くされた。
オープニングトークは、「劇団雌猫」のメンバーたちそれぞれの“初恋の人”を語ることでスタート。多くの共感で会場に一体感が生まれたところで、「推しへの愛に乾杯!」という掛け声とともに全3部構成のイベントが開幕した。
第1部は、メンバーによって制作の経緯をはじめ、『悪友vol.2』に寄稿された作品について語られた。中でも会場が盛り上がりを見せたのは、『悪友vol.2』の中の「性欲をシン・ゴジラで断ち切った女」の著者からの手紙。後日談として、恋愛で異性に「キモイ」と思われているのでないかというコンプレックスを解消できた喜ばしい報告だったのだが、「結局のところ、私がビッチという極端な方向に走ってしまったのも、ひとえに男性と適切な距離感で恋愛をすることへの凄まじいまでの羞恥があるからでした。」「自意識の塊のような私にとって、人と関わる日々は、恥の連続であります。」など、 太宰治の『人間失格』を彷彿とさせる淡々と自己を客観的に分析した文章に、会場が沸き立つことになった。
第2部では、『悪友vol.2』に掲載された「ときメモで離婚を決意した女」のコヨーテさん、「初彼が犬夜叉の女」のエゾオオカミさんが登壇した。
コヨーテさんは、人気恋愛シミュレーションゲーム「ときめきメモリアル Girl’s Side 3rd Story」に、結婚生活4年くらいで別居していたときに出会ったという。もともと存在は知っていたが、当時は熱中することはなかった。しかし、「やってみたら1週間ずっとやっていました」とハマってしまったというのだ。それも、10代20代からではなく30代から、強面の不良キャラである桜井琥一(こういち)というに夢中になった。
以来、同作のSNSのコミュニティに入ってファンと交流したり、ファンイベントに参加。そこで、コヨーテさんはファンたちが人生を楽しく過ごしている姿に感化され、最終的に離婚決断の背中を押してもらったという。
ゲームではキャラクターとの会話の選択肢次第で好印象を得られるか否かが決まる。実生活においても、「男性の気持ちを配慮した会話につながった」と、思わぬメリットを感じたという。メンバーに今後の恋愛について問われると、「三次元のことを考えるときつい。私は苦手です」と本音を吐露。とはいえ、そのハツラツとした笑顔からは、今の充実ぶりが十分に伝わってきた。
続いて、「犬夜叉が初彼の女」のエゾオオカミさん。犬夜叉とは、1996年から2008年まで『週刊サンデー』で連載されていた高橋留美子による人気漫画『犬夜叉』の主人公。エゾオオカミさんは、最初は犬夜叉の異母兄・殺生丸が好きだったという。「自分が寄り添うイメージが沸きやすいから、闇を抱えているような孤独な男性が好き」。そんな理由から彼に魅了されていた。では、なぜ犬夜叉が“初彼”となったのか。
SNSが普及していなかった当時、小学生だったエゾオオカミさんは、同作の話がしたくて、特定のキャラクターになりきる「なりきりチャット」に勤しんでいた。そこで、同作に登場するキャラクター“桔梗”になりきり、その過程で仲良くなったのが、小学6年生の“かごめ(同作の登場人物)”と、エゾオオカミさんと同じ年の“犬夜叉”だった。
「いつもグループチャットで、3人一緒にワイワイしていました。そのうち、私が犬夜叉のことを好きになっていて、犬夜叉も桔梗を気にかけてくれるようになりました。でもある日、かごめも犬夜叉のことが好きだということを知ったんです。それなのに、かごめは『犬夜叉は桔梗のことが好きだよ』と言ってくれました」(エゾオオカミさん)
そうした甘酸っぱい三角関係の末に三人が出した結論は、「かごめは犬夜叉の妹、桔梗は犬夜叉の彼女」というアクロバティックなものだったそう。しかし、その後、犬夜叉とは疎遠に……。もし今、当時の犬夜叉に会ったらどんなことを伝えるか問われると、はにかみながらこう語った。
「リアルで会うのは恥ずかしいですね。やりとりしているときに、少しでも桔梗っぽさを出すために、実家が一般家庭だけど神社だとか、長い黒髪で乾かすのが大変だとか設定に忠実だったから嘘をついていたから。でも、ネット上で会えたら『今、ハマってるもの何?』って聞いて、また恋人同士になっても面白いかもしれませんて聞きたい」(同前)
第3部では、メンバーが会場のアンケートをもとにトークを繰り広げた。よく芸能人の彼女が業界人ではない場合、「一般女性」と報じられるが、まさにその“ご本人”が会場にいたようだ。彼女曰く、芸能人である彼のTwitter公式アカウントの投稿にファンを装ってコメントを送ると、自身のLINEに返事が返って来るというのだ。恋人ならではの特別扱いに、会場は驚きとともに嫉妬の炎に包まれた。ほかにも、イベントならではの“ネットでは言えない”濃い内容が繰り広げられた。
次回は11月15日、「よいこのK‐POP(仮)」を開催予定。「劇団雌猫」とK‐POPを学び、新しい扉が開ける内容となるという。また、同人誌の新刊発売も告知され、テーマが「東京」であると明かされた。地方出身者や東京出身者など、それぞれの視点で語られるという。
推しへのひたむきな愛ゆえに、恍惚、自虐、葛藤など様々な表情を見せるオタク女子たち。そこには感情を揺さぶられるドラマがある。ますます目が離せなくなりそうだ。
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