鬼才・丸屋九兵衛が、大炎上したダウンタウン・浜田の「黒塗り」問題を解説

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エキサイトカフェ(東京都港区)にて、音楽ウェブサイト『bmr』編集長にして、幅広い領域において評論活動を行う日本サブカルチャー界のトリックスター・丸屋九兵衛によるトークライブが開催された。

丸屋が隔月ペースで開催しているこのイベントは二部構成。第一部【Soul Food Assassins】では、主にアフリカ系アメリカ人をとりまく文化や出来事について、第二部【Q-B-CONTINUED】ではオタク周辺のカルチャーについて、濃ゆ~い講義を行っている。今回は、3月25日(日)に白金高輪のエキサイトカフェにて行われた最新回の模様をかいつまんでお届けしよう。

【Soul Food Assassins】黒塗り総決算! ブラックフェイスとホワイトウォッシュの彼方に

今回の【Soul Food Assassins】のテーマは、先日ダウンタウンの浜田雅功氏がネット炎上するきっかけともなった「ブラックフェイス」、つまり顔の黒塗り。では「ブラックフェイス」の何が問題なのだろうか?

■加害者が忘れても被害者は忘れない〜差別エンターテイメント「ミンストレル・ショー」とは?

かつてアフリカ系人種は、「低能、怠惰、堕落」の代名詞とされ、今以上に過酷な差別を受けてきた。しかも支配者である白人たちは、こうした恐るべき偏見を、なんと娯楽化してしまった。それが19世紀半ばから20世紀初頭のアメリカで人気を博していた悪趣味エンターテイメント「ミンストレル・ショー」だ。

そのメインの演目は、黒人奴隷が働く大規模農場を舞台とした喜劇ミュージカル。顔を黒塗りにした白人役者が、誇張された黒人訛りで話し、愚かな振る舞いをするという、これ以上ないくらいに差別的な内容だったという。

■悪意がなくとも、やってはいけないことがある

とは言え、ミンストレル・ショーの人気は1920年ごろを境に急速に衰えていき、1964年の公民権法成立以降は完全に市民権を失っている。そうした事実から「昔の話でしょう」と考える方々もいるだろう。しかしちょっと待ってほしい。部外者である我々日本人が、差別を受けていた当事者や子孫たちに対して、「過ぎたことは水に流すべき」などと言って良いものだろうか? そんなはずがない。

丸屋は自らの心情を例に、次のように語る。

「おかしいと思われるかもしれないが、私は京都の人間なので、沢山の京都人を殺した新撰組を腹立たしく思っている。私の母も新撰組は嫌いなんです」(丸屋)

さらに丸屋は、浜田の黒塗りについて「差別しようという意図はないと思う」とフォローした上で、「私は『笑わせる』のは好きだが『笑われる』のは好きではない。異人種のコメディアンが、黒人のイメージを使って『笑わせている』のは、黒人側からしたら『笑われている』ことになる。『自分たちをおもちゃにしやがって』という話にもなるんです」と熱弁した。

丸屋はいつになく険しい表情を浮かべながら、こんな言葉でトークショーのラストを締めくくった。

「差別はそこらじゅうに転がっているものです。誰の中にだってレイシズムはある。つまり我々は皆レイシストなんです。そこに敏感になるところから全てが始まる。自分がレイシストであることを認められないのが、最悪のレイシストだと思う」(丸屋)

我々は知らず識らずのうちに差別的な言動を取っていることがある。もし、それを誰かに指摘された時には、「差別とは言えない」と強弁したり、「そんなつもりはない」と不貞腐れたりすることをやめ、差別される側の気持ちを真剣に想像してみようではないか。そして間違っていたと感じたら、素直に謝って、以後繰り返さないようにすれば良い。それほど難しいことではないはずだ。

【Q-B-CONTINUED vol.22】コスプレと仮面の世界史! ルートヴィヒからRPGまで

後半の【Q-B-CONTINUED】のテーマは、「コスプレと仮面の世界史」。緑のマント、短剣風のペーパーナイフ、さらに母親のハンドバッグを解体して自作した鞘を装着し、母校・早稲田大学の入学式に臨んだというOG(オリジナル・ギャングスター)ならぬOC(オリジナル・コスプレイヤー)丸屋が、世界各地のコスプレの歴史を語るという内容となった。

■世紀の道楽者ルードヴィヒ二世はコスプレイヤーだった

アニメ系のコスプレ・カルチャーが最初に開花したのは日本だが、丸屋はさらに時を遡り、19世紀のバイエルン王ルードヴィヒ二世(1845年〜1886年)を<近代コスプレの元祖>と位置づけている。

このルードヴィヒは、恋人(※男性)と船遊びに興じるために、壮麗な宮殿の一角に「ヴィーナスの洞窟」と呼ばれる人工鍾乳洞を作ってしまった生粋の遊び人。そんなルードヴィヒの「遊び」には、当然(?)コスプレも含まれており、とりわけアーサー王伝説に登場する「白鳥の騎士」ことローエングリンの扮装を愛していたという。

さらにルードヴィヒはコスプレのみに飽き足らず、お気に入りの騎士伝説のオペラ化プロジェクトを始動させるのだが、その際に重用したのが、かのリヒャルト・ワーグナー。当時のワーグナーは浪費が祟って、非常に評判の悪い人物に成り下がっていたが、ルードヴィヒの庇護の下で『ニーベルングの指環』や『パルジファル』と言ったオペラを完成させ、汚名返上を果たすこととなった。

■「狂王」として疎まれた生前、「ウチらの王様」として愛される死後

そんなこんなでルードヴィヒは、コスプレ、音楽、建築など個人的趣味に、国が傾くほどの莫大な予算をつぎ込んでいったため、周囲からは「狂王」と呼ばれるまでに疎まれ、最終的には追放され非業の死を遂げている。

しかし長い時を経た現在、彼が作らせたノイシュバンシュタイン城(※1)が、バイエルン随一の観光資源となっていることも手伝って、今やバイエルンの人々はルードヴィヒを「ウンゼルキニ」(※2)と呼び慕っていると言う。コスプレと騎士伝説を愛した夢見がちな王様は、その豪快な浪費によって150年後の領民たちの生活を潤し、名誉を回復したというわけだ。

※1英訳すると「New “Swan” Stone」城。
※2バイエルン訛りのドイツ語で『ウチらの王様』の意

丸屋は「仮装の意義は『反転』であり、日常からの脱却である」と語る。ルードヴィヒに限らず、古来より人はコスプレによって、厳しい現実からひととき自らを解放してきた。ストレスを溜め込んでるあなた! この機会にコスプレにトライしてみては?

【関連リンク】
丸屋九兵衛ドットコム
丸屋九兵衛 (@QB_MARUYA)|-Twitter

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。