1月22日、安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領との会談が行われましたが、日露間の懸案事項となっている北方領土問題については両者の見解が分かれ、大きな進展は見られませんでした。この一件を見るだけでも領土問題の難しさは十分に理解できますが、人類の歴史をたどれば、それはイコール征服と侵略の歴史。世界史上、もっとも広い範囲の領土を手に入れた征服者は誰だったのでしょうか? 『図解でわかる 14歳から知る影響と連鎖の全世界史』(太田出版/インフォビジュアル研究所、大角修・著)では、このように説明しています。
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12世紀、北方遊牧民の女真(じょしん)が宋の北部を奪い、そこに金王朝を建てました。南部に残った宋を南宋といいます。そのころ、中央アジアから西アジアにかけては強大なイスラム国群がありました。中央アジアのカラ・キタイ、西北インドのゴール朝、西アジアのホラズム・シャー朝、黒海南岸あたりからアナトリア半島にかけてのセルジューク朝などです。
そのアナトリア半島西部からバルカン半島にかけてはキリスト教東方教会のビザンツ帝国があり、当時は正統なローマ帝国とされました。ユダヤ・キリスト・イスラム3教の聖地エルサレムは、今のイラクあたりからクルド人のサラディーンが進攻して占領し、北アフリカにかけて広がるアイユーブ朝を建てました。そこに西ヨーロッパから進攻したのが十字軍です。
こうした状況のときに遊牧民の族長チンギス(1167~1227年)がモンゴルの諸部族を統一し、騎馬軍団を率いて東ヨーロッパに至る広範な地域を征服しました。モンゴルの帝王は、大族長という意味でハンとよばれます。征服事業はチンギスの死後も続き、13世紀にはユーラシア大陸の大半を版図に収める大モンゴル帝国が出現しました。人類史上最大の空前絶後の帝国です。
第5代クビライ・ハン(1215~1294年)は国号を「大元」と定め、都をモンゴル平原のカラコルムから大都(現在の北京)にうつしました。そして、中国の官制を採り入れた行政組織、チベット文字をもとにモンゴル語を表記する縦書き文字の制定、通貨の統一などの多くの改革をおこないます。また朝鮮半島の高麗を支配して1274年に日本に進攻、さらに南宋を滅ぼしたあとの1281年には南宋軍も加えて進攻しました。いわゆる元寇(文永・弘安の役)です。元軍は東南アジアのベトナムも攻撃しましたが、その拡大策はクビライの死によって終わりました。
また、フビライの即位を機にモンゴル帝国は分割され、ゆるやかに連合するようになりました。ハン国とはチンギスの子孫が皇帝になった国です。このモンゴル帝国は、東アジアの元ではチベット仏教を国教として道教・儒教の漢民族の地を統治し、他のハン国はイスラム教を受け継ぎました。インドのムガール朝もモンゴル系のイスラム王朝です。東ヨーロッパではロシアを支配し、その苛政が「タタール(モンゴル)のくびき」とよばれますが、ユーラシアの大半が帝国の版図になったことで東西の交易が発展しました。
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東は日本海から西は地中海まで、極東アジアからヨーロッパのかなりの部分を手に入れてしまったのですから、はるか昔のこととはいえ、驚かざるを得ません。こういった観点から歴史を学ぶことも、現代にも通じる領土問題を理解する一助となりそうです。
同書ではこの他、民族、気候、交通、文字、貿易、宗教、帝国、通信、武器、法律、資源、農業、工業、科学など、様々な角度から世界の繋がりを図解でわかりやすく解説しています。『図解でわかる 14歳から知る影響と連鎖の全世界史』(太田出版/インフォビジュアル研究所、大角修・著)は2019年1月17日発売。価格は1200円+税。
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・図解でわかる 14歳から知る影響と連鎖の全世界史-太田出版
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