目標の数字の羅列がいかに不毛か 「数字の追求」と「戦略」の違いは?

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成長や業務改善を目指す企業が必ずやる取り組みが、あらゆる観点から数字を徹底的に洗い出すこと。売り上げ、収支、伸び率……数字ほど客観的な経営判断の材料はないが、しばしば陥りがちなのが、「数字の追求」と「戦略」とを見誤ってしまうことだ。『ノルマは逆効果 ~なぜ、あの組織のメンバーは自ら動けるのか~』(藤田勝利・著/太田出版)では、「サッカー」という非常に分かりやすい例えで、目標の数字を羅列することがいかに不毛なのかを解説している。

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私は、ある企業の役員会で、経営幹部の方と会話をして愕然としたことがあります。事業への投資を決める重要な会議の場で、「やる」「やらない」の議論が延々と続いていました。そこで私から、「経営層でもう一度、この事業の『戦略』的な意図について、共有しましょう」と提言し、会議を仕切り直そうとしたところ、一人の参加者から、「戦略はここに書いてありますよ」といって見せられた(放り投げられた)一枚の紙が、5年間の収支目標のエクセルシートでした。

その経営幹部の方は、有名大学卒で、もちろん大変優秀なビジネスパーソンです。それなのに、いわば「数字の羅列」を「戦略」だと堂々と明言するその感覚に正直驚かされました。戦略とは本来、「(多数ある選択肢の中から)狙うべき『的』を決めて、その的に自社の『強み』となる資源をぶつけていく」活動の総称です。「的」と「強み」の二つの話題が、戦略を語るときには不可欠です。この選び抜かれた「的」に「強み」をぶつけることで、自社独自の価値が生み出されるからです。

戦略は、組織のモットーやスローガンでも、もちろん目標数字の羅列でもなく、「成功への道筋」を合理的に示すものでなければなりません。例えば、サッカーチームの監督で、

「今日は、前半で2点、後半で3点奪って、絶対に勝つぞ! いいな!」

という指示を繰り返すだけの人と、

「相手は強いが、このポジションの選手間の連携は極めて弱いことがわかっている。そこを、攻めよう。ここに、うちの武器である○○のスピードを生かして攻め込む時間を増やそう。特に相手の足が止まり始める後半15分以降が狙い目だ。その時間、特に集中して狙いに行こう」

と説明する人とでは、どちらの監督についていきたいでしょうか。当然、後者の方です。彼は、戦略という言葉を使っていなくても、戦略を語っています。戦略を語るから、チームメンバーの「成功(勝利)に向けたイメージ」が統一されていきます。統一されるから、相互協力が生まれてくるのです。

「サッカーとビジネスは違う」と簡単に片付けることはできません。上記のサッカーの例で言う「相手の弱点」が、ビジネスでは「満たされていない顧客のニーズ」と置き換えられます。サッカー界よりも、経営に関する知識が豊富な人材が多いはずのビジネス界(企業)で、前者のような「監督」が圧倒的に多いことが異常です。これも、「ノルマ数字」に慣れすぎた管理職が多すぎるデメリットの一つです。

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急成長する会社の創業者の中には、傍目には荒唐無稽にも思える業務拡大計画をぶち上げて社員を鼓舞する例が少なくないが、これはまさに「前半で2点、後半で3点……」という“ダメ監督”以外の何ものでもない。細かい数字を羅列する人間は優秀なように見られがちだが、「数字」と「戦略」はまったく別物だということは、深く心に刻んでおいたほうが良さそうだ。

◆『ノルマは逆効果』藤田勝利(2019年2月19日発売/太田出版)

【関連リンク】
ノルマは逆効果 ~なぜ、あの組織のメンバーは自ら動けるのか~

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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