平成の30年間で1度は消えかけ、そしてまた復活したのが「レコード」。CDに取って代わられ、iPodが登場し、ダウンロードやストリーミングが当たり前になり……と、音楽を聴く形態が次々と変わるなか、音楽好きの間ではアナログレコードの良さが再認識されています。ただ問題なのは、なかなか手が届かないような値段のレコードもあること。コレクター垂涎のレア盤の中には、1枚で数万円の品もありますが、どうしてそこまで値段が跳ね上がるのでしょうか?
その理由を知るには、レコードの仕入れ方法を知る必要があります。渋谷が「レコードの街」と言われていた当時、1982年から渋谷に店を構える「Hi-Fi Record Store」でバイト経験のある、ヒックスヴィルの木暮晋也さんに、貴重なエピソードを語っていただきました。なんでも彼は、1990年にアメリカへ買い付けをしに行ったことがあるそうな。グーグルマップなんてなかった当時のレコ屋巡りは、超絶過酷な旅だった模様です。
「レンタカーを借りて大きな街を転々とし、車に詰められるだけレコードを詰めました。シアトルを出発点にし、行き先は大学があるような大きな街。各地の宿泊先でイエローページを開き、現地で購入した地図と住所を照らし合わせ、夜な夜なレコ屋の場所をマーキングしていったのを覚えてます」
しかも仕入れ先のアメリカのレコード屋というのは、それぞれが広大な店舗面積を持つのが特徴。骨の折れる作業だったことは言うまでもありません。
「どのお店も渋谷のレコファンくらいの大きさはありました(※レコファン渋谷BEAM店の面積=800平方メートル)。だから、1店舗につき2時間くらい費やしてチェックするんです。そこで100枚くらい購入してから次の店に行く。ときどき店員から『昨日マンハッタンレコード(渋谷にあるライバル店)が来ていた』なんて聞かされて、カスカスの状態にがっかりすることもありましたよ。滞在したのは2ヶ月間。レコード屋が休業日に入る日曜を除き、毎日午前中から19時くらいまで掘ってました」
日本のコレクターにとって垂涎の的となる「レア盤」を求めたアメリカ一周の旅。日本で需要があるからといって、必ずしもアメリカでも同じくらいの値段がついているわけではないようです。むしろ、1ドルコーナーに眠る代物ほど日本での需要があった、というのだから驚きです。
「日本でよく売れるレコードというのは、アメリカでほとんど生産されなかったような代物が多い。だから本当に欲しいモノは1ドルのコーナーに紛れてて、しかもアメリカ全土を回っても1枚しかなかったりするんです」
買う側からすると、レア盤の値段に「なんで!?」と思っちゃうこともしばしば。しかし、その1枚に出会うために費やした労力を考えると、その価格にも納得です。
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