【#わたしの大好き】ポストをのぞいて

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雑誌『ケトル』は、6月号として「みんなの大好き」特集を制作中。みんなの大好きをつくる方々と、各々が好きなものに焦点を当てた内容になります。そして現在、note公式アカウントでは、特集「みんなの大好き」にちなんで「#わたしの大好き」をテーマに1000〜1500字のコラム・エッセイを募集中。新型コロナウイルスによって、人と人だけではなく様々なものと距離を取らざるを得ない日々が続きますが、「いまは触れらないが、収束後は……」「外では難しいが、今は家の中で楽しんでいる」「あらためて自分にとって大切なものだと気づいた」など、大好きなものや、愛が深まったものへの想いを寄稿いただいてます。今回はその中から、よしさんの原稿を紹介させてください。

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学生のころ、海外に留学をしていた。メールやLINEで「手紙を送ったよ」と言われると、すぐに寮のポストをのぞきにいっては友人に笑われていた。エアーメールだから、昔のように1か月以上かかるわけでもないけれど、それでも1週間くらいはかかる。
半日以上の時差があり、言葉に苦労する日々の中で、毎日LINEをやり取りしている家族や当時の恋人からの手紙であっても、すぐに読めるメッセージとは違うなにか心を浮き立たせてくれるものがあった。

実家に暮らしていると、私宛の手紙は、食卓の私の席に置かれる。
いかんせん、こんなことになるまでは夜遅くまで働いていたから、日中に届く手紙をポストからひっぱりだす楽しみはすっかりなくなってしまったけれど、家族が寝静まったあと小さな電球の明かりで、請求書だとか明細書とかダイレクトメールの間に手書きのはがきや封筒を見つけると、外で張りつめてい身体と心がふっと軽くなる気がする。
かつて一緒に過ごしていた友人の筆跡は、年月とともに往々にして変わるけれど、それでも根っこの部分では変わらない何かがあって、送り主を見なくてもだれからの手紙かすぐにわかる。
普段なら家に帰ってすぐにはずすアクセサリーやらストールやらも、取る時間が惜しくて、封を開けて薄明りの中読み始める。

もらった手紙は捨てることができないもので、郵送で送られてくるはがきや封筒に入った手紙はもちろんそうだし、荷物の中に入っているちょっとしたメモ書きや、頂きものに添えられたフセンの走り書きも捨てがたい。
内容もいろいろで、便箋10枚余にわたって自分の思想を語ったものもあるし、なんの変哲もない青いブロックのフセンだけれども、一生わたしを励ましてくれるだろう言葉が書かれたものもある。

捨てることのできないはがきの中には、出しそびれた手紙もある。観光地で買ったはがきで、切手を手に入れることができずにそのまま持ち帰ってしまったもの、住所を調べないとと思ったままになってしまったもの。
出すタイミングを逸した手紙というものはなんとなく間抜けで照れくさく、かといって捨てづらくて、机の片隅にそっと積み上がっている。

留学中、手紙を待ちぼうける私を笑った友人は、あんまりに私が手紙に熱心なのを見て、自分もよく家族や友人に手紙を送るようになっていた。
いつのまにか彼女も、ポストをのぞき込む仲間になっていて、なかなか届かなかった手紙が今日きたんです、と嬉しそうに笑っていた。

ずっと遠方にいた彼女とは、ぽつり、ぽつりと文通を続けていて、もしかしたらSNSでメッセージを送るよりもよく、手紙をやりとりしている。
いつでもちょっとスパイスの効いたかわいいはがきを送ってくるから、文面も筆跡もみなくても、彼女からの手紙だとすぐわかる。

こんな状況になるちょっと前、ようやく私たちは気軽に会える距離に住むことになった。彼女の引っ越しが決まったとき、私はとてもはしゃいだ。なかなか外出もままならない、と決まったときは腹立たしかった。

先日、彼女から手紙が届いた。新しい住所になってから初めての手紙だ。「こんな時は、はがきがむき出しなのはよくないかと思って」と、丁寧にはがきを封筒に入れて送ってくれた。中の絵はがきはいつもと変わらず、スパイスの効いたかわいさだった。

実は、彼女に出しそびれている手紙がある。
明日は手紙を書こう。間抜けだし、照れくさいけれど、出しそびれた手紙も一緒に入れよう。
きっと彼女はポストをのぞき込んでいるはずだ。
ちょっとくらい恥ずかしくたって、どんな状況でも私もあなたを想っている、ということがすこしでもたくさん伝われば、それがいい。

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いただいた言葉の一つ一つが、また誰かの文化との出会いになれば幸いです。お好きなものについてぜひご寄稿ください。宜しくお願い申し上げます。

【Twitterでも #わたしの大好き を教えてください】
コラム/エッセイと同テーマ「#わたしの大好き」でTwitterでも想いをつぶやいていただけると嬉しいです。#わたしの大好き とともにTwitterでつぶやかれた言葉を誌面に載せさせていただければと存じます。

※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。