都成竜馬六段が語る『3月のライオン』のリアル 「負ければこれが最後」

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将棋界に現れたニュースター・藤井聡太二冠の活躍により、将棋界、さらに将棋棋士たちに俄然注目が集まっています。漫画の中には将棋がテーマになった作品も多く存在しますが、プロ棋士たちは将棋マンガをどう見ているのでしょうか?

2000年に第25回小学生将棋名人戦で優勝して、谷川浩司九段の弟子となり、2013年にプロ入りする前の三段でありながら、新人王戦で優勝した実績を持つ都成竜馬六段は、『3月のライオン』(羽海野チカ/白泉社)の大ファン。2015年に将棋大賞名局賞特別賞を受賞し、NHK Eテレの『将棋フォーカス』では司会も務める都成六段は、『ケトルVOL.55』で、印象に残ったシーンについて、このように語っています。

〈幼い頃に交通事故で家族を失い、師匠でもある棋士に引き取られた主人公・桐山零。中学生でプロ棋士となり、その後、1年遅れで高校に編入するものの、学校では浮いた存在で、将棋でも本調子を出せないでいた。そうした中、順位戦で戦うことになった相手は松永正一七段。松永はこの一局に引退をかけていたが、無策でなおかつミスも犯し、結局は零が勝利する〉

「将棋の次に漫画が好きな私にとって、漫画は人生の教科書です。将棋を題材とした漫画の中でも、『3月のライオン』ほど感情移入した漫画はありません。こまやかな心情がとても丁寧に、瑞々しいタッチで描かれています。

中でも主人公と現役40年のベテラン棋士、松永正一七段の対局には心揺さぶられました。この一戦を語るには40年は早いと言われてしまいそうですが、私自身負ければこの一局が最後、という対局も経験しており、とても共感できるシーンでした」

藤井聡太二冠のデビュー戦の相手は、現役最高齢棋士(当時)の加藤一二三九段。将棋の内容のみならず、62歳差の対局が実現したことも大きな話題になりましたが、『3月のライオン』のリアルさは、現役棋士の心にも響くようです。

〈対局後、零を「幕を引く相手としてはこれ以上の者は無い」と評した松永。零から「将棋好きですか」と聞かれると、負ければ苦しいのに、それでも将棋をやめられなかったと、松永は複雑な胸中を明かしながら涙を流す〉

「コミカルな演出を織り交ぜながらも(実際に対局後に勝者と敗者が飲みに行くことはよくあります)、棋士の心情をリアルに描き出している名シーンだと思います。将棋の世界を知らない方にも、勝負の世界の厳しさ、美しさを感じてもらえれば。棋士は孤独。敗北とも向き合わなければならない。時には逃げ出したくなることもあるけれど、『3月のライオン』は、いつだって前に進む勇気を与えてくれます」

『3月のライオン』のコミックスには、監修を務めた先崎学九段のコラムも収録。現実の将棋界も大変興味深い状況ですが、マンガの世界から将棋に触れてみると、一層面白さが分かるかもしれません。

◆ケトルVOL.55(2020年8月17日発売)

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ケトル VOL.55-太田出版

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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