コメディからラブロマンスまで 映画で確立された新時代のゾンビ像

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1968年公開の映画『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(ジョージ・A・ロメロ監督)が大ヒットして、その存在が知られた「ゾンビ」。その後、マイケル・ジャクソンの『スリラー』のPVに”起用”され、世界的なブームとなったゾンビは、90年代に入ってブームが一段落します。

しかしTVゲーム『バイオハザード』によって再び息を吹き返し、2002年に大きな転換期を迎えます。ミラ・ジョボビッチ主演のハリウッド映画版『バイオハザード』の公開、そしてゾンビの概念そのものを更新した画期的なイギリス映画『28日後…』が公開されたのです。

映画版『バイオハザード』は、ハリウッド映画としては低予算といえる33億円で制作されたものの、興行収入が100億円を超える大ヒットを記録。ミラ自身がゲーム版のファンだったことから出演を決めたように、ゲームによってゾンビ好きの裾野が広がり、ゾンビはビジネスになると証明したのです。
 
一方、『トレイン・スポッティング』などで知られるダニー・ボイルが監督した『28日後…』は、「ゾンビはふらふら歩くもの」という常識を覆し、全速力で獲物を追いかける新たなゾンビ像を作り上げました。ボイル自身は「ウィルスによって凶暴化する人々を描いたパニック映画を作ったつもりだった」と発言していますが、理性を失くして人々を襲う感染者たちの恐ろしさに、観客の誰もが新しい時代のゾンビの誕生を見たわけです。

これら一般の観客にも届く数々のヒット作が生まれたことで、ゾンビはもはやホラー映画に限定された特殊な存在ではなくなりました。例えば2004年の『ショーン・オブ・ザ・デッド』は、イギリスで発生したゾンビパニックに慌てふためく人々を風刺的に描いたコメディ映画ですが、監督のエドガー・ライトがロメロ信者だったこともあり、家族を助けに戻ると襲われるといった“ゾンビあるある”な場面や、ゾンビが人間の体を引き裂いて内臓を食らうといった定番のグロ描写もしっかり押さえ、従来のゾンビファンからも絶賛されました。

また、2006年にはゲーム『バイオハザード』を生み出したカプコンが、『デッドライジング』を発表しています。こちらはゾンビと対峙する恐怖感よりも、ゾンビの大群を蹴散らしていく爽快感を強調したことで、ゾンビゲームの新たな魅力を開拓しました。

さらに2013 年になると、ゾンビと人間の女性の恋模様を描いた前代未聞の恋愛映画『ウォーム・ボディーズ』も公開されます。ゾンビに元恋人を食べられてしまった女性と、元恋人の脳みそを食べたことで彼女に恋してしまったゾンビの交流を描いた同作は、設定こそ異色であるものの、ギャグ映画では決してなく、至って真面目なラブロマンス映画として制作され、こちらもスマッシュヒットを記録します。

続いて総製作費が2億ドルという超大作ゾンビ映画『ワールド・ウォーZ 』がブラッド・ピット主演で公開され、5億4000 万ドルを稼ぎ出した一方、アメリカの連続ドラマ『ウォーキング・デッド』は、伝統の「歩くゾンビ」に徹底してこだわって描くことで、昔ながらのゾンビ映画と現代のゾンビ作品との橋渡し役のような役割を担っています。もはや「ゾンビ」は多様な形式で描かれる一大ジャンルとなったのです。

◆ケトル VOL.38(2017年8月16日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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