本棚を見ているうち、ふっと欲しくなる本と出会う。そんな「偶然」が書店の魅力。都内には、大手書店とは違った驚きの出会いをくれる個性的な本屋さんが存在します。ここで紹介する本屋さんは、当然どこもこだわりがあるお店ばかり。ベストセラーを平積みにするわけではなく、それぞれの視点で、そこにしかない品ぞろえを実現しています。
さらに、その中に共通点を見出すとすれば、いずれも「人」が介在することで、訪れたお客さんにサプライズを提供していることでしょう。あなたのために選書してくれる双子のライオン堂さんやSNOW SHOVELINGさん。お客さんのおすすめと出会えるブックマンションさんや胡桃堂喫茶店さん。そしてSNSからも店主の人柄が垣間見え、お店に行ったことがなくてもファンになってしまうTitleさん。
ネット書店が人工知能のアルゴリズムでおすすめをしてくれるなら、これらのお店のセレクトには、本を選んでくれた人の体温のようなものを感じることができます。それはウェブサービスでは再現することが難しい魅力。だから、こうしたお店で出会った本は大切に読みたくなるし、また訪れたくなるのです。
●双子のライオン堂 (東京都港区赤坂6-5-2)
5坪ほどの空間に作家や文化人によるおすすめの選書が並ぶ「選書専門店」。選書は店内だけに限らず、本棚の写真を送ると店主の竹田信弥さんがセレクトした本が届く選書配本サービス「本棚からの便り」も行っています。「本棚をプロファイリングして、その人が読みそうな本ではなく、いつか必要になりそうな本を送ります。普段は出会えない本との未知との遭遇を楽しめます。
●SNOW SHOVELING (東京都世田谷区深沢4-35-7深沢ビル2 F)
村上春樹を愛する店主の中村秀一さんが、駒沢公園の近く、深沢不動交差点そばという駅から離れた場所で営む書店。「友人宅のような雰囲気で、あえて本棚はジャンル別に整理していません。自由な探索を楽しんでもらいたい」と中村さん。本との偶然の出会いを大切にし、カバーを隠した文庫本を販売するほか、中村さんがカウンセリングして選書してくれるオンラインサービス「レコメン堂」も実施中です。
●ブックマンション (東京都武蔵野市吉祥寺本町2-13–1)
2019年7月にクラウドファンディングで誕生した「本屋をシェアする書店」。店内に78の貸し本棚があり、月単位で借りた人が本を置くことができるます。店主は三鷹の「無人古本屋」のオーナーでもある中西功さん。小学4年生から有名作家まで借りている本棚を見ていると、まるで誰かの頭の中を覗いているかのような気分になり、新刊書店でも古本屋でもない、本との新しい出会いのかたちがここにあります。
●胡桃堂喫茶店 (東京都国分寺市本町2-17-3)
カフェを併設する書店が増える中、カフェが書店も始めた珍しいケース。本担当スタッフ・吉田奈都子さんが選んだ新刊・古本のほか、近隣のお客さんが持ち込んだ本が並ぶ「もちよりブックス」も魅力的。「必ずしも読書家でない人たちに対して、本屋が何をできるかよく考えます。人を通して本と出会ったりその逆だったり、まちとの関わりが育つ過程に本の力を借りています」と店主の影山知明さんは語っています。
●Title (東京都杉並区桃井1-5-2)
池袋リブロの書店員だった辻山良雄さんが2016年1月にオープン。駅から離れた立地ながら、辻山さんが選び抜いた1万冊を目当てに遠方からも読書好きが通います。3万以上のフォロワーを抱えるTwitterも人気で、辻山さんが自身の感想と共に本を紹介する投稿を見ているだけでも新たな出会いが。ここからTitleを知った人も多く、オンラインショップには北海道から沖縄まで注文が寄せられます。
◆ケトルVol.55(2020年8月17日発売)
【関連リンク】
・ケトル VOL.55-太田出版
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