ノーラン監督が明かした自身の手の内 映画作りはマジックと同じ?

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2020年日本公開の洋画では一二を争うヒットとなった『TENET テネット』が公開中のクリストファー・ノーラン監督は、リアルを追求したド派手な演出とともに、難解な作風でも有名。『TENET』公開後には、“一度観ただけでは分からない”という感想も少なからず寄せられました。そんなノーランが、自身の手の内をさらけ出した重要作が、2006年公開の『プレステージ』です。

クリストファー・プリーストの小説『奇術師』を映画化した『プレステージ』は、過去の因縁によって競い合う2人のマジシャンを描いた歴史サスペンスで、公開当時は衝撃的な結末が大いに話題となりました。俳優陣も豪華で、『バットマンビギンズ』のクリスチャン・ベールやマイケル・ケインを再び起用しただけでなく、ヒュー・ジャックマンやスカーレット・ヨハンソンのほか、デヴィッド・ボウイまで出演しています。

同作はマジックを題材にしながら、ノーランの作劇術に言及した映画と観ることもできます。劇中の説明によると、マジックには3つの段階があり、最初は「確認」(Pledge)。タネも仕掛けもないと観客に見せる段階です。次は「展開」(Turn)。その何でもないものが消えるなど、驚くことをしてみせます。しかし、それだけでは十分ではなく、すべてを元に戻してみせることで、人はその「偉業」(Prestige)に拍手喝采するというのです。

これをノーラン映画に当てはめると、こうなります。CGという誰もが分かるトリックに頼らないことで、観客に映画がリアルだと感じさせる(確認)。それを複雑な筋運びで語ることで、観客を混乱させる(展開)。そして最後にショッキングなオチを用意して拍手喝采させる(偉業)。

そこで肝心なことは、マジシャンがトリックを明かさないように、必ず〝謎〞を残しておくこと。実際、ノーランは『インセプション』の結末の意味を問われたときにも、「映画で答えは出している」とだけ語っています。すべてを見ているはずなのに、それでも謎が残るから、観客は感動する──。『プレステージ』でノーランは、こっそり自身の手の内を明かしているのです。

◆ケトルVOL.56(2020年10月15日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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