映画やドラマなど、多くの作品が映像化されているいくえみ綾さんの作品は、恋愛にまつわる細やかな感情を鮮やかに描いたものばかり。胸キュン必至の名シーンに欠かせないのがハグとキスです。そこで、それぞれの持つ意味や効果を公認心理士の山名裕子さんに伺い、ベストハグ&キスを選んでみました。
ハグやキスといった愛情表現は動機と仕方によって様々な意味を持つことがあります。例えば『ベイビーブルー』で梅太郎が、別れ際に駄々をこねる晴美を抱きしめたシーン。山名さんは梅太郎のハグの仕方をこう指摘します。
「腕を広げる行動は相手に心を開いていることと寂しさを表すもの。一見、晴美を癒しているようですが、ハグを受け入れられることで、梅太郎自身も肯定され、癒されているのです」
薬子を力づくにギューッとする『POPS』の三島にキュンとするのは彼女が「やめて~」と照れ隠しの否定をしても離さない、その力が男性らしさを表しているからです。そして山名さんが選んだベストハグは『私・空・あなた・私』でイズミがれもんを抱いて眠るシーン。
「不遇なれもんを守ってあげたいという、親心・兄心に近い保護本能のハグです」
叶わぬ恋心への切ない気持ちを超越した安堵は何にも勝る特別な感情かもしれません。
相手を安心させる効力は、キスにもあります。『太陽が見ている(かもしれないから)』の楡もまた、日帆に会いに行く岬に対し、自分の不安をかき消すためのキスをします。似た意味を持ちつつ胸キュン度が高いのは、『潔く柔く』でキヨ(小峰清正)が一恵にキスするシーン。不意打ちのキスによるビックリは、恋愛のドキドキへと変化します。
「死んだ春田という共通の痛みを持つ相手と心の繋がりを感じ、やっと一緒になれる安心感や感謝など、好きという単純な気持ち以外でも様々な感情が愛おしさとなって表れたキスです」
これを上回ってベスト認定されたのは『I LOVE HER』の名場面であり、教師の新ちゃん(新堂央人)が花とのデート帰りに玄関前でキスするシーン。
「マイナスとプラスの変化が大きいことで、物事が強く印象付けられることをゲインロス効果といいますが、諦めモードからのキスはまさにそれ。また、ロミオとジュリエット効果といって教師と生徒という関係やライバル出現などの障害があるほど幸福度が高まります」
自分の好きという感情を表現する前に、女の子の気持ちを察して安心させる。そういう、言葉だけでなく行動で示すという男らしさも、いくえみ男子の持つ魅力なのです。
◆ケトルVOL.57(2020年12月15日発売)
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