芸能人は誰かに追いかけられるのが宿命ですが、ひとたびカメラの前を離れれば“ただの人”。プライベートでは誰かのファンであることには変わりありません。ここ数年、作品の映像化が続いているいくえみ綾さんは、芸能人にもファンが多い漫画家。インスピレーションを受けた女優は数知れません。
『潔く深く』で瀬戸カンナ役を演じた長澤まさみさんもその一人。2009年に第33回講談社漫画賞少女部門を受賞した同作は、長澤さんと岡田将生さんのW主演で2013年に映画化されましたが、長澤さんはいくえみさんの作品に心を奪われたそうです。
「いくえみ先生の作品で夢中になった1作を選ぶとしたら、映画化の際に出演させていただいたご縁もあって、どうしても『潔く柔く』は外せないですね。映画で役を演じたのは7年ほど前。もうずいぶん時間が経ってしまったように感じますが、漫画を最初に手に取ったのは、知人のおすすめがきっかけでした。
いざ読んでみると、物語の進み方にリアルな感情が伴い、登場人物の行動に無理がない。登場人物それぞれの目線から織りなされる物語にハッとさせられ、心に残るセリフにドキドキしてしまう。そんないくえみ先生の描写に自然と引き込まれていき、読み終わる頃にはもうすっかり作品の虜になっていたのを覚えています」
“どの登場人物も甲乙付け難いほど魅力的”“すべての登場人物に、いくえみ先生の愛が吹き込まれている”と、人物描写の巧みさを絶賛する長澤さん。『潔く深く』は、彼女にとってとても大切な作品だそうです。
「作品を読んだり、役を演じたり、いくえみ先生の世界の中に浸ると、素直に生き抜くことの尊さみたいなものも感じることができるんです。人は性格があって感情を伴う生き物。そのことで、計画的に物事をこなすのが難しい場合もありますよね。だけどカンナをはじめとした登場人物は、感情や行動にウソがない。そんな登場人物たちに出会い、『潔く柔く』を読み返すたび、私自身も柔らかく、強く、朗らかに、優しくありたいと思わせてくれる大切な作品です」
一方、漫画が大好きで、「人生の大事なことは漫画に教えてもらったと言い切れるくらい、漫画を愛しています」というのが、ともさかりえさん。色々な作品に夢中になってきた彼女が選ぶ1作は、『バラ色の明日』だそうです。
「登場人物の陰影が美しくて、どのストーリーも好き。切なくて、でもたまらなく幸せで。胸の裏側を撫でられるような不思議な感覚になります。いくえみさんの漫画は描写が映像的というか、読んでいると登場人物が動き出して、その声が聞こえてくるようでワクワクするのですが、どなたかが、素敵に映像化してくださらないかと密かに願い続けています。
(中略)何度も何度も読み返していますが、いつ読んでも、初めて読んだときのように胸が熱くなる。人生の中で、そんなふうに感じられる漫画に出会えたことは、本当に幸せなこと。私にとって永遠に愛おしい作品だなと思います」
ここまで言うのであれば、是非ともさかさん主演で……と期待してしまいますが、彼女の“いくえみ愛”は本物。こんなエピソードも紹介しています。
「ある巻末にいくえみさんのインタビューが掲載されていて。そこに、私が出演していた『すいか』というドラマについて語ってくださっている部分があるんです。その作品で私が漫画家の役を演じていたというご縁もあり、そのキャラクターや役名についてコメントしてくださっているのですが……いくえみさんの口から『ともさかりえ』という言葉が出てきたという事実に、もう感動で倒れそうになりました(笑)。憧れの人に認識してもらっていたなんて、嬉しいやら照れくさいやら、1人で大興奮したことを覚えています」
こういった感動や興奮が、また優れた作品を生んでいくのが創作やエンターテイメントの魅力。コロナ禍はエンタメ界にも甚大な影響を与えていますが、優れた作品が生み出すパワーを信じるしかなさそうです。
◆ケトルVOL.57(2020年12月15日発売)
【関連リンク】
・ケトル VOL.57-太田出版
【関連記事】
・市川紗椰、尾崎世界観、立川談慶、やついいちろうがコロナで感じた「これが好き」
・小沢健二 都会的で詩的な世界観を読み解く文学作品6選
・世界のネコ好き歓喜!? ネコたちが世界に広がった経路が明らかに
・伊丹十三監督 洋食好きに衝撃を与えたバターとチーズのシンプルな一品