アイドルとプロレスの親和性を実証するための10年間/『プロレスとアイドル』より

カルチャー
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東京女子プロレスで活躍する選手、SKE48・荒井優希、アップアップガールズ(プロレス)の伊藤麻希、瑞希、そして渡辺未詩の4名に密着取材した書籍『プロレスとアイドル 東京女子プロレスで交錯するドキュメント』が、1月25日(木)に太田出版より刊行されました。

現アイドル&元アイドルが、なぜレスラーになったのか……。「令和の女子プロレス」を象徴する4人の成長物語を、週刊プロレスで記者を務めていた小島和宏がとことん深掘りする1冊です。

OHTABOOKSTANDでは本書の発売を記念して、全5回にわたって本文の一部を試し読み公開します。第1回目は、本書より、はじめにを特別にご紹介します。

はじめに アイドルとプロレスの親和性を実証するための10年間

 アイドルとプロレス。

 一見、無関係のように思えて、じつは極めて親和性の高いジャンルである。

 ぼくは1990年代に『週刊プロレス』の記者としてプロレスを、2010年代以降はアイドルを取材対象として精力的に追いかけてきた。幸いにもどちらのジャンルでも、大きなブームが巻き起こる瞬間に立ち会うことができたけれども、それだけに一度は東京ドームまで到達した女子プロレスが長らく人気低迷状態に陥っていたことが、ずっと胸につかえていた。

 2010年代、AKB48グループの快進撃で幕を開けた空前のアイドルブームでは、かつてプロレスファンだった人たちが大量にアイドルの現場に流入してくる、という面白い現象が起きた。

 格闘技ブームに押されて、プロレスが「冬の時代」に陥ってしまったとき、格闘技に興味を持てない人たちは行き場を失った。プロレスに近い楽しみ方ができるエンターテインメントを探していたらアイドルに出逢ってしまった、というケースはびっくりするほど多い。

 ぼくは中学生のころから、プロレスとアイドルの「兼ヲタ」だったので、その流れにすんなりと乗れた。同じような人たちと雑誌でアイドルについてプロレス的に語る記事を書いていたら、それが想像以上の反響を呼び、編集部から「かつての『週プロ』のテイストでアイドルのライブレポートを書いてもらえないか?」というオファーを受けて、そのまんまの記事を出したら、もともとプロレスファンだった読者に好評を博し、いつしか「活字アイドル」がぼくの本業になっていった。

 思わぬ波及効果で、そんな記事を読んだ人たちが、またプロレスの会場に戻っていく、という動きも見られた。ありがたいことではあったが、本心をいえば、いままでプロレスに興味がなかった生粋のアイドルファンをプロレス会場に呼び寄せることができれば、というのがこの仕事をしていく上での悲願だった。少しでも新規ファンを開拓したい。その受け皿として女子プロレスは最適だと思っていたのだが、そう易々と事は進まなかった。

 そんなタイミングで旗揚げしたのが東京女子プロレスだった。これまで新団体を旗揚げするとなったら、他団体から選手を引き抜いたり、かつて活躍していた選手を復帰させたりして人材を確保するのが定石だったが、東京女子プロレスは違った。ゼロから新しいものを創っていく、という心意気。そして、アイドルやタレントからの転身組がたくさんいることに興味を持った。

 実際、旗揚げ当初、何回か会場に足を運んでいるのだが、そのまま定期的に取材するまでには至らなかった。皮肉なことに、ちょうどアイドルの取材が最高潮に忙しい時期で、東京女子プロレスの興行がおもに開催される週末は、アイドルのライブやイベントでほぼスケジュールが埋まっており、会場に足を運ぶことすら難しくなってしまったのだ。

 さらに大きなネックがあった。取材をしたところで、記事を掲載してくれる媒体がなかった。本当にびっくりするぐらい「女子プロレス? ダメダメ」と門前払いされまくった。女子プロレスが好きな編集者すら「趣味と仕事は別。読者のニーズがないから、載せるのは厳しいんですよ」。これが冬の時代の悲しき実情、である。

 しばらくは傍観者として、東京女子プロレスを眺めてきたのだが、はじめて後楽園ホールに進出する際、お声がけいただいた。まだまだ完成形とはいえなかったが、パッケージとしてかなり面白い興行だった。

 試合後、別の取材ですぐに移動しなくてはならなかったので、電話で高木三四郎大社長に感想を伝えた。

「めちゃくちゃ面白かったです。東京女子プロレスの目指している方向性は正しい!」

 素直に口にした褒め言葉のつもりだったが、電話口の高木三四郎は一瞬、沈黙し、珍しく声を荒げて、こう言った。

「正しい? 我々はね、間違ったことをしているなんて、一度も思ったことはないですよ!」

 ハッとした。

 新しい女子プロレスの在り方に理解を示している、というのが自分のスタンスだと思っていたのだが、無意識のうちにかつての全日本女子プロレス的なスタイルこそが王道であり、それ以外のやり方は異形なものとして評価していた。そうでなかったら、わざわざ東京女子プロレスに対して「正しい」などという評価はしないだろう。

 ぼくは激しく恥じた。

 もっと真正面から東京女子プロレスと向き合おう、と思ったが、前述の理由から足繁く会場に足を運ぶことは難しく、ビッグマッチぐらいしか顔を出すことはできなかったのだが、2017年に『アイドル×プロレス』(ワニブックス)という本を出版するときには高木大社長にご登場いただき、東京女子プロレスのこと、当時、オーディションがはじまったばかりだったアップアップガールズ(プロレス)のことを熱く語っていただいた。

 当時はアイドル本の企画が通りやすかったから、こうやって、うまいこと女子プロレスを絡めていったり、アイドル雑誌ではアイドルと女子プロレスラーの対談を何度も組んだ。女子プロレスの企画は通らなくても、対談の相手がトップアイドルだったら話は違った。そうやってアイドルブームに乗じて、女子プロレスを世間に向けて発信することぐらいしか、ぼくにはできなかった。

 しかし、状況は一変する。

 突然、襲いかかってきたコロナ禍により、エンターテインメント業界は大打撃を受けた。

予定されていたコンサートやイベントはすべて延期となり、その延期したスケジュールすらもパンデミックで中止に塗り替えられた。

 何年ものあいだ、あんなに忙しかった週末が2020年3月から、まったくの暇になってしまったのだ。

 そんなときでも、プロレス界だけは動いていた。無観客ながらも試合を再開し、配信で中継していたのだ。そしてSKE48から荒井優希が東京女子プロレスに参戦。彼女について書いてほしい、というオファーが舞い込むようになった。

 女子プロレスの記事はちょっと……という媒体も気がつけば、すっかり減っていた。女子プロレスを取り巻く状況は、令和になって大きく変わった。週末が暇になったぼくは東京女子プロレスの会場に足繁く通うようになった。「アイドルとプロレス」について書いてきたぼくにとって、いま書かなくてはならないテーマが東京女子プロレスのリングには山ほど詰まっていた。旗揚げから8年以上経ってしまったが、ようやく、ぼくはこのリングにたどり着いた。

 じつは2023年1月からWebで女子プロレスの連載を月イチでスタートさせる予定だった。当初はあらゆる団体のあらゆる選手をインタビューで毎月、掘り下げていく企画で、第1回目はぼくのたっての希望でアップアップガールズ(プロレス)の渡辺未詩に登場してもらっている。

 だが、この連載企画は続かなかった。いや、月イチで女子プロレスについて書く枠は残っているのだが、東京女子プロレスの、もっといえば荒井優希のいまを追いかけていくことでいっぱいいっぱいになり、完全にそちらに舵を切ることになったからだ。

 それでも書ききれないことが多すぎて、ならば、と動き出したのがこの書籍の企画だった。ここ数年、ほぼ毎年のように平成初期のプロレスについてまとめた書籍を出版してきた。そんな本が書けるのは、あのころ、『週刊プロレス』誌上で毎週、何十ページと記事を作り、毎日のように取材してきた、という財産が残っているからだ。

 じゃあ、彼女たちのことも30年後に本を書けばいいのか? となると、さすがにそれは違う。いま本にして、たくさんの人に読んでもらいたいし、2024年というのは、その絶好のタイミングだと肌で感じてもいた。

 最初はもっとたくさんの選手が出てくる一冊にするつもりだったのだが、その結果、やっぱり書きたいことが書ききれなかった、となってしまったら本末転倒だ。

 そこで現アイドル、元アイドルというバックボーンを持つ選手だけに絞りこんだ。

 伊藤麻希

 瑞希

 渡辺未詩

 荒井優希

 多くの選手をぼくは東京女子プロレスより前に、アイドルの現場で知っている。そんなことも含めて現在・過去・未来を深掘りしていこう、と。できることならば、いま、女子プロレスに興味がない人たちにも刺さるドキュメントにしたい。

 それでも、この4人に絞りこむことは偏っているとは思うのだが、あの日、あの場所でこの4人の「ゼロ地点」を目撃してしまったことで迷いはなくなった。この本の物語はその日……2023年2月21日から幕を開ける。

* * *

小島和宏著の『プロレスとアイドル』は東京女子プロレスで活躍する選手、荒井優希、伊藤麻希、瑞希、渡辺未詩のアイドル&プロレス人生をとことん深掘りした1冊になっています。現アイドル&元アイドルが、なぜレスラーになったのか……。令和の女子プロレス”を象徴する4人の成長物語をお楽しみください。

『プロレスとアイドル』刊行記念! 瑞希選手・渡辺未詩選手によるサイン会開催!!

『プロレスとアイドル』の刊行を記念して明日(2/29)に本書に登場する選手たちから直々にサインをいただけるイベントが開催されます!イベント限定のブロマイドを入手する機会や選手との3ショット撮影も行えます。当日券もありますので、お時間ある方は是非お越しください!

■場所:書泉ブックタワー(秋葉原)9F
   〒101-0025 東京都千代田区神田佐久間町1-11-1
■日時:2024年2月29日(木)18:30~
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