アイドルも、プロレスもゼロから始める二刀流生活/『プロレスとアイドル』より

カルチャー
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東京女子プロレスで活躍する選手、SKE48・荒井優希、アップアップガールズ(プロレス)の伊藤麻希、瑞希、そして渡辺未詩の4名に密着取材した書籍『プロレスとアイドル 東京女子プロレスで交錯するドキュメント』が、1月25日(木)に太田出版より刊行されました。

現アイドル&元アイドルが、なぜレスラーになったのか……。「令和の女子プロレス」を象徴する4人の成長物語を、週刊プロレスで記者を務めていた小島和宏がとことん深掘りする1冊です。 OHTABOOKSTANDでは本書の発売を記念して、全5回にわたって本文の一部を試し読み公開します。第3回目は、本書より、第2章冒頭を特別にご紹介します。

第2章 渡辺未詩

 アイドルも、プロレスもゼロから始める二刀流生活 唯一無二の世界観で夢を叶えるトップランナー

高木三四郎「大社長」の恐るべし行動力

 アップアップガールズ(プロレス)。

 アイドルとして日本武道館ライブ、プロレスラーとして日本武道館でのメインイベントを目指す、という「二刀流」育成のプロジェクトは2017年にスタートした。

 そこには荒井優希がリングに上がるきっかけとなった『豆腐プロレス』が深く関係してきている。つまり、放送から7年経って、あのころ高木三四郎が夢想したプランが東京女子プロレスのリングで結実した、ということになる。

 地上波で女子プロレスのドラマが毎週、放送されるというニュースに高木三四郎は激しく反応していた。一般層への波及はもちろん、そのタイミングでテレビ朝日の土曜深夜枠はドラマ『豆腐プロレス』、『タイガーマスクW』、『ワールドプロレスリング』とプロレス関連コンテンツが立て続けに放送されるラインナップとなっていたため、プロレスファンの目にも届くという手応えもあった。

 あるアイドル雑誌でぼくは高木三四郎、宝城カイリ(現WWEスーパースターのカイリ・セイン)と一緒に『豆腐プロレス』に関する座談会に参加したのだが、その席で高木三四郎の想いが爆発した。

「せっかくメンバーがプロレスの練習をしているのに、どうして48グループはプロレス興行に乗り出さないのか? 歌とプロレスをパッケージにした興行で地方を回れば、なかなかコンサートに行けない地域もカバーできるし、ファンからも支持される。いいことしかないと思うんだけど、どうしてやらないんだろう?」

 たしかに商機ではあった、と思う。

 たとえば「プロレス選抜」として16人のメンバーを選ぶ。それだけ人数がいれば、シングルマッチ2試合、タッグマッチ3試合が組める。全5試合もあれば、興行としては十分すぎるボリュームだ。そこに歌のコーナーを挿入すれば、かなり楽しめるパッケージになる。当時、AKB48グループのコンサートはアリーナクラスの会場で行なわれることが当たり前だったので、大都市以外ではなかなか開催されることがなかった。そんな地域のライブに飢えているファンへの救済措置にもなるわけで、たしかにいいことずくめだ(もっともファンは推しメンがプロレスに関わることで怪我をしたり、肉体がごつくなってしまうのではないか、という危機感を抱いていたようだが……)。

 実際に『豆腐プロレス』のリアル興行は後楽園ホールと愛知県体育館で開催されただけで、地方巡業などは実現しなかった。

 すごいのは高木三四郎の行動力である。雑誌の対談で「こうなったら面白い!」と話が異様に盛りあがることはよくあるのだが、たいがいはその場だけの話で終わってしまう。

 ただ、さすがは「大社長」と呼ばれる男。48グループがやらないのなら、とそのプランを現実のものにしよう、と動き出したのだ。

 こういうケースは過去にも見てきた。雑誌の企画で高木三四郎と一緒にAKB48グループの選抜総選挙を生観戦し、そのまま深夜まで語り尽くす、ということを3年ぐらい続けてきた。たしか日本武道館での総選挙が終わったあと「会場にプロレスのTシャツを着ているファンが何人もいた。あの人たちを取り戻さなくてはいけない。よしっ、ウチも総選挙をやろう!」と言い出した。ネタとしては面白いな、と思っていたら、なんと翌週には総選挙開催の記者会見を開いていた。

 即断即決、即行動!

 これぐらいのスピード感がないとエンタメ業界のトレンドに追いつけない。その時と同じで、アイドルとプロレスを融合させた企画は対談のネタでは終わらず、結構なスピードで進行していった。

 2017年にぼくは『アイドル×プロレス』(ワニブックス刊)という本を書いた。ある意味、今回の本のルーツとなる存在で、平成末期のアイドルとプロレスのリアルな関係性をまとめた一冊。この時点では、まだ本当のアイドルがプロレスのリングに登場するような展開とはなっていなかったのだが、いずれそうなる、という話をしてほしくて高木三四郎に登場のオファーを出そうとしていた。

 まさに企画書を送ろうと思っていたタイミングで、逆にDDTからプレスリリースが届いた。それこそがアップアップガールズ(プロレス)のオーディション開催のお知らせだったのだ。

 急きょ、対談の内容は「アップアップガールズ(プロレス)とはなにか?」に変更。立ち上げ直前の生々しい野望が本にしっかりと残されている。

 そのころ、女子プロレスはようやく冬の時代を抜け出し、やっと上向きになりはじめていた。だが、大きな問題として横たわっていたのは人材難。女子プロレスラーになりたい、と志望する「なり手」が絶望的に足りなかった。

 そんな状況を打破するためにアップアップガールズ(プロレス)は始動した。名のあるアイドルグループのオーディションには何百人もの応募がある。しかし、当たり前の話だが、そのほとんどは落選してしまう。そういう子たちに「アイドルとプロレス、両方やってみませんか?」というアプローチをすれば、普通に練習生を募集するより、何十倍、何百倍の効果があるのではないか?

 夢は大きく広がり「ユニットとして東京女子プロレスのリングに参戦してもらいますけど、最初からたくさん合格者が出たら、いきなり団体として活動させて、東京女子プロレスと全面対抗戦をやるのも面白いかも!」、「プロレスラーとしてよりアイドルとして早くブレイクしたら、新しいファン層を獲得できる。ヒット曲が出て、Mステに出演できたら、悲願の金曜8時にプロレスが復活しますよ!」などと飛躍していったが、当時のアイドルブームの規模を考えたら、あながち夢物語では終わらないかも、という無限の可能性を感じずにはいられなかった。

 そして、そのオーディションに参加していたのが渡辺未詩、だった。

ももクロが与えてくれたプロレスへの「太鼓判」

 当時、渡辺未詩は高校3年生だった。

「そろそろ進路を決めなくてはいけない時期だったんですけど、アイドルが大好きで、アイドルになりたいという夢を諦めきれなくて、オーディションに応募しました。プロレスですか? まったく興味ありませんでした(苦笑)。あくまでもアイドルになりたかっただけなんですよ」

 これはおそらく多くの志願者が同じ気持ちだったのではないか?

 アイドルになりたい。

 その条件としてプロレス“も”やる、という項目がある。ちょっとひっかかるけれども、まずはアイドルになるきっかけをつかみたい……そもそもプロレスのテレビ中継が深夜に以降したことで、女子高生がたまたま試合をテレビで目撃する、というケースは皆無に等しくなった。PPVや配信などプロレスというコンテンツがマニア向けにどんどん特化していったことで、そういう傾向は年々、強くなっていった。女子高生・渡辺未詩がプロレスに興味がなかったのは当たり前の話なのだ。

 しかし、どう考えてもプロレスとは無縁ではいられないことに不安はなかったのだろうか?

「もちろん不安はあったんですけど、私、ももクロ(ももいろクローバーZ)さんが大好きでコンサートとかも見ていて。ももクロさんのコンサートってプロレスラーの方が結構、出てきたじゃないですか? それ以外にもプロレスとの関わりが多かったので、そうか、ももクロさんがこんなにもこだわっているってことは、きっとアイドルとプロレスって近しいものがあるんだろうなって。そう思ったのでプロレスに対する不安感はグッと軽くなりましたね」

 ももいろクローバーZは、無名時代からありとあらゆるところにプロレスのエッセンスを注入し、それがおじさんたちの郷愁を誘い、もともとアイドルに興味のなかった人たちを大量に獲得することに成功していた。

 小ネタはもちろんのこと、ビッグマッチと称する大箱でのコンサートにはプロレスラーがゲスト出演することが多々あった。武藤敬司、天龍源一郎、新日本プロレスからCHAOSの面々などが登場し、初の東京ドーム公演には蝶野正洋withTEAM2000がサプライズ乱入。さらにはプロレス会場以外での降臨は異例中の異例だったグレート・ムタまで毒霧を噴きながら見参している(なぜか飯塚高史も準レギュラー的に神出鬼没)。  それらの演出を見ていた渡辺未詩は「あぁ、みなさんプロレスをやっている大きな人たちなんだな」という認識しかなく、どれだけのレジェンドなのかは、当時、知る由もなかったという。しかし、プロレスラーの起用が新規ファンの獲得や満足感につながっていることは認識していたが、まさかアイドル志望の女子高生から、プロレスに対する不安感までも取り除いていたとは……ももクロとプロレスによる意外過ぎる波及効果がこんなところにもあった。

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小島和宏著の『プロレスとアイドル』は東京女子プロレスで活躍する選手、荒井優希、伊藤麻希、瑞希、渡辺未詩のアイドル&プロレス人生をとことん深掘りした1冊になっています。現アイドル&元アイドルが、なぜレスラーになったのか……。令和の女子プロレス”を象徴する4人の成長物語をお楽しみください。

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