「悩みも不満もひとりで飲み込むしかない」都市生活者たちの憂鬱グルメ小説『お口に合いませんでした』発売記念 オルタナ旧市街インタビュー!

お知らせ
スポンサーリンク

オルタナ旧市街による人気の“憂鬱グルメ”連載『お口に合いませんでした』が待望の書籍化! 10月29日(火)より発売開始となりました。外食の“おいしい”が当たり前となった今、“おいしくなかった”食事の記憶から都市生活のままならなさをリアルに描いた渾身の意欲作です。

本書の発売を記念して、著者・オルタナ旧市街に担当編集が本作の校了直後にインタビューを実施。「おいしくないごはん」を通じて描いた都市生活者たちの小さな悩みや憂鬱について、著者の思いを聞きました。

初の小説は「うっすらお金がない人ばかり」

──まずは校了おつかれさまでした。初めての小説を書き上げて、手応えはどうですか?

連載してたときは締切もあったんで、うまく作り込めなかった部分を単行本の作業でゆっくり作り込めました。達成感はありますね。

──これまではエッセイが多かったと思うのですが、今回はフィクションということで難しさもありました?

自分の分身のような登場人物たちが多かったので全然違うってほどではなかったです。むしろ、自分が思ってもいないことを登場人物に話してもらうのは面白かったですね。「フライド(ポテト)と偏見」に出てくる刺々しい女の子は、友達から聞いた話を参考に書きました。生きているうちにいろんな嫌なことがありすぎて、愛想を捨ててハリネズミみたいになっちゃう不器用な女の子。あと「終末にはうってつけの食事」の主人公なんかは、昔バイト先にいた先輩のことを思い出しながら書きました。登場人物たちは、自分に近しい要素に加えて、“これまでに出会った忘れられない人”のエッセンスが少しずつ反映されているような気がしますね。

──そういうキャラクターたちがひとつのマンションを舞台に、交わらないんだけどすれ違ってはいるという距離感が絶妙で面白いなと思いました。なんとなく、みんな冷めた距離感で接してますよね。

まさに今回、小説で書いたような規模のワンルームマンションで起きる人間関係を描いたつもりです。自分が住んでいたマンションをそのままモデルにしているんですけど「この人は何階に住んでいる人だな」「この人はいつもこの時間に出かけていくな」とわかるくらいの距離感。同じマンションに住んでいるから、家賃も生活水準もだいたい同じくらい。だから贅沢はできないし、おいしくないごはんを食べてもお口直しができないんですよね。

──たしかに、ある程度の収入があればおいしくないご飯を食べてしまってもいいお店でお口直しができますもんね。

そうですね。小説に出てくる人はみんな、うっすらお金がない人ばかりなんで。

サインを書くオルタナ旧市街
サインを書くオルタナ旧市街

大きな悩みはないけれど、なんとなく憂鬱

──マンションに住んでいる登場人物たちも出会いを求めて延々とマッチングアプリをやっていたり、クリーンな企業に勤めているけど先行きが見えなかったり、それぞれに不満を抱えている。些細なことなんだけど、放っておくと澱のように溜まっていく不満というか。

重大な悩みってそれだけで物語になるけれど、普段生きてるなかで抱える悩みって、他人からしたらどうでもいいことも多いじゃないですか。「ああ〜、そういうのあるよね」みたいな。でも、そういうどうでもいい悩みを物語にしたいと思って書きました。エッセイを書いているときもそういうことは考えていたんですけど、小説に出てくる彼らの悩みも全然たいしたことじゃないと思うんですよね。でもなんとなく憂鬱、みたいな。ひとり暮らしって、どこかにやるせなさあるんですよね。

──たしかに、なんの悩みもないひとり暮らしってなかなかないですよね。

あんまりないと思いますよ。『お口に合いませんでした』って控え目なタイトルのとおり、微妙な塩梅の、控えめな悩みや憂鬱は一冊を通して通底しています。

──別に大きな不満はないけどどこか憂鬱、ってすごく今っぽいなと思うんです。

社会全体で言ったら、彼らは相対的に「恵まれている」と言われる層の人たちなんですよ。フードデリバリーを注文するくらいの余裕はあるし、郊外の北欧家具店にも行けるし、外食もできる。でも彼らにも悩みがあるし、人には人の憂鬱がある。そこを忘れないでおきたいと思ったんですよね。

──「ごはんがおいしくなかった」なんてかなり小さい痛みですしね。

本当にレベルの低い痛みですよ(笑)。明日には忘れているような痛みなんですけど、なんかその積み重ねが生活だよなって思います。特にここの人たちは全員ひとりで淡々と暮らしてるので、痛みを分け合えない寂しさ、自分ひとりで引き受けていくしかない絶望感がある。

──たしかに。「愚者のためのクレープ」で遊園地に出かけた男性も父にメールを送るか逡巡するし、「Girl meats Boy」の夏井さんも肉寿司のエピソードをお客さんに話したいのに、連絡できない。

誰かに言えば笑い話になるようなことばかりですけど、ひとりで暮らすってこういう寂しさがあるよなって思いました。

──ひとりで憂鬱を飲み込むしかない。

自分がそういうタイプなんですよね。なにか悩みがあっても友達にLINEしたりしないし、寂しくてもひとりで帰る。誰かに話したいって一瞬思うけど、そこから生まれる後々のコミュニケーションのことを考えるとやっぱダルいんですよ(笑)。「夜遅くなっちゃうし」とか「明日は仕事もあるし」とか、だんだん億劫になってくるんですよね。そうやってちょっとずつ閉じていくんだな、と自分でも思いました。

──めっちゃわかります。そのぶんクライマックスで鍵を握る101号室の女性のような、鈍感さや図太さをもった人に憧れますよね。

彼女は一見線が細そうに見えてめちゃくちゃ図太いですからね。結局ああいう人がサバイブしていけるんだと思います。バイト先のクレーマーから身を隠せるし、ちょっとズレた自分の味覚を100パーセント信じ切れる。そういう図太さには、ちょっとだけ憧れますね。

一部書店では特典小冊子『不届き者たち』の配布も
一部書店では特典小冊子『不届き者たち』の配布も

* * *

オルタナ旧市街さんによる新刊『お口に合いませんでした』は、全国書店やAmazon・楽天などの通販サイト、電子書籍ストアで発売中。なお、当サイト・OHTABOOKSTANDでは試し読みや特別記事も公開しています。ぜひ、SNSでハッシュタグ「#お口に合いませんでした」をつけてご感想をお寄せ下さい!

関連商品