飯島愛のいた時代
第6回

期待される「キャラ」と「役割」

飯島愛のいた時代
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『日本エロ本全史』『日本AV全史』など、この国の近現代史の重要な裏面を追った著書を多く持つアダルトメディア研究家・安田理央による最新連載。前世紀最後のディケイド:90年代、それは以前の80年代とも、また以後到来した21世紀とも明らかに何かが異なる時代。その真っ只中で突如「飯島愛」という名と共に現れ、当時の人々から圧倒的な支持を得ながら、21世紀になってほどなく世を去ったひとりの女性がいた。そんな彼女と、彼女が生きた時代に何が起きていたのか。彼女の衝撃的な登場から30年以上を経た今、安田理央が丹念に辿っていきます。(毎月第1、3月曜日配信予定)
※本連載では過去文献からの引用箇所に一部、現在では不適切と思われる表現も含みますが、当時の状況を歴史的に記録・検証するという目的から、初出当時のまま掲載しています。

飯島愛が初めてヌードグラビアに登場したのは『オレンジ通信』1992年4月号だと書いたが、実はそれ以前にも彼女は「飯島愛」の名前で雑誌に掲載されていた。
それは『BART』(集英社)1992年1月27日号の「勇気の出る恋愛社会学 『実物恋愛図鑑』原寸大ラブ・ストーリー」という特集の中の1ページだった。様々な立場の女性が恋愛体験談を語るという企画で、飯島愛は「AVギャル」の肩書で最後に登場している。

オフィスErie所属。この春、AVデビューする新人だ。以前は年齢をいつわって銀座のクラブに勤めていたこともあるとか。写真を撮られるのも初めてで、毎日緊張の連続という。

という紹介文と「好きな男性のタイプ、健康的で海が似合う人、徳永英明のラブソングが似合う人も好き」「初体験、13歳。恋愛回数、本気で好きになったのは4回。初恋は幼稚園かな」といったプロフィールが書かれ、何かの撮影現場らしいスタジオでオールヌードで立っている写真が添えられている。
そして本文では『プラトニック・セックス』でも描かれるひとつ年上の彼氏「タカちゃん」との経験や、「恋愛って、SEXしてみなければわからないですよね」という恋愛観を語っている。

『BART』は1991年から2000年にかけて集英社から発行されていた雑誌で、『DAYS JAPAN』(講談社)、『マルコポーロ』(文藝春秋)、『Views』(講談社)といったこの時期に次々と創刊されたビジュアル・ニュース誌のひとつだ。ドイツの『シュテルン』誌とも提携し、国際派ジャーナリズム色も強かった。
そんな「硬い」雑誌に、この時点では無名の新人AV女優のひとりに過ぎなかった飯島愛が登場していたというのは、ちょっと意外でもある。

そして2月22日に『ギルガメッシュないと』出演した後は、3月8日発売の『オレンジ通信』巻頭グラビアを皮切りに、多くの雑誌に登場している。
「SexyWide 飯島愛」(『FRIDAY』3月27日号)、「深夜テレビを騒がすウワサのTバック美少女」(アサヒ芸能 4月2日号)「ギルガメッシュないとの美女軍団」(『週刊現代』4月18日号)「穴があったら入りたい。飯島愛」(『週刊プレイボーイ』4月21日号)、「まだまだ流出はしてません AV界の新アイドル 飯島愛」(『週刊ポスト』5月1日号)、「飯島愛18歳の『美神奔放』ヌード」(『FLASH』 5月5日号)「バストアイドルの秘密 乳房をめぐる果てしない戦略 飯島愛 バストをより大きく見せるワザはいろいろあるのだ」(『週刊SPA!』 5月20日号)、「ニューフェイス撮り下ろし 飯島愛18歳、青春まっただ中」(『週刊大衆』 5月25日号)……。

まさに週刊誌総ナメといった勢いだ。新人AV女優がここまで一般雑誌で取り上げられるというのは、異例としか言いようがない。当時のプロダクションの社長が、よほどマスコミ戦略に長けていたのだろうか。

この雑誌出演ラッシュの最中である4月25日にAVデビュー作である『激射の女神』(FOXY)が発売されているのだが、「AV界の新アイドル」とうたった週刊ポストの記事以外では、飯島愛がAVに出演しているというプロフィールは伏せられている。
『FRIDAY』3月27日号では、「もし、みんなが私のビデオを見てくれるんなら、AVに出てもいいかなって思っちゃう」などと、思わせぶりなことまで言っているのだが。
もともとプロダクション側が、AVにとどまらない活動をさせようと考えていたのか、単にAVのプロモーションのために出演させた『ギルガメッシュないと』で予想以上にブレイクしたため、方針を変更したのかはわからないが、売り出し方にブレがあることはデビュー当初から感じられる。

4月のデビュー作に続いて5月9日に『同級生は甘ずっぱく濡れて』(VIP)、5月26日に『レイプされた女学生』(クリスタル映像)、6月12日に『愛が忙しい』(VIP)、6月25日に『乳ナース・暴淫暴食』(FOXY)と月2本ペースでAV作品はリリースされ、いずれも好セールスを記録。1992年のAV業界の台風の目となっていたわけだが、テレビや週刊誌といった一般メディアでも、飯島愛は注目される存在となっていた。

「人生相談」の回答者

常にどこかの雑誌で飯島愛のTバック姿は誌面を飾っていた。中でも『FLASH』は6月16日号「思わずオナって…飯島愛クン〝あふあふ〟アフレコ現場 ハードコア・アニメの主役に初挑戦…『声でワタシを想像して』と正しい見方をアドバイス』、6月30日号『人気爆発ギャルを撮り下ろし! 18歳の『甘美』飯島愛」、7月7日「Tバック娘・飯島愛の梅雨もぶっ飛ぶ大胆挑発ヒップ アフレコ初挑戦のアニメビデオ『妖獣戦線』の完成披露パーティで見せた嬉しい過激ポーズ」と、3週連続で取り上げるほどの入れ込みようだった。

こうした記事では飯島愛は、あくまでも「あっけらかんと明るくて、大胆過激な発言をしてくれる新しいタイプのお色気タレント」であり、マスコミがそうした存在として彼女を重宝していることが見て取れるのだが、『サンデー毎日』8月2日号での扱いはちょっと違った。「おもしろまじめ相談室」という企画に登場したのである。

巷では、人生相談が大流行しているそうだ。が、そもそも人生の行く末にかかわる深刻な悩みを抱えている時に、他人を頼ろうなんであま~いあま~い。
そこで当編集部では、日ごろ、まともな人生相談所では相手にされそうもない15のささやかな悩みを、17人のキッツーイ回答者の方々にお答えしてもらったのである。

回答者として登場しているのは、藤本義一、香山リカ、志茂田景樹、アグネス・チャン、田嶋陽子、立川談志など、錚々たる面々で、その中に飯島愛も含まれているのだ。
飯島愛が回答したのは、三十歳主婦からの「結婚して三年になるが夫婦生活が一度もない。夫はファミコンに夢中。自分から誘いをかけることには抵抗がある」という相談だ。
それに対して飯島愛はこう答えた。

この旦那さんは、何か恥ずかしい短所でもあるんじゃないでしょうか。自分に自信を持てないでいるんじゃないかなぁ。(中略)でも、これは奥さんが悪いわけじゃありませんよ。それだけは絶対に確かですね。
だから、ダイレクトに誘ってみればいいんじゃないですか? 本当に恥ずかしいかもしれないけど、「どうしてしてくれないの? 私、してほしいの」って言ってみたらいいですよ。(中略)でも私、こんな男は信じられませんね。私だったら結婚前に十分、相手のセックスを試してみるでしょうから、こんな男性とは大丈夫、絶対、結婚しません。

この手の記事の常として、どこまでが本人が本当に話したことなのかはわからないが、とりあえず「性には奔放だけど、ちゃんと相手のことは思いやり、そしてストレートな物言い」という自分が求められているキャラクターに、きちんと応えている回答だと言えよう。
おじさんばかりでは面白くないので、若い女の子も回答者の中に入れよう、というのが彼女がキャスティングされた理由だろうが、その役割をしっかり果たしている。

「役割」を演じる

『週刊ポスト』8月21日号のルー大柴の対談連載「ルー大柴の平成美女マッチ」に登場した時は、「彼から誕生日にバイブをもらう時代です」というタイトル通りに、「現代の若い女の子の性事情」を「おじさん」であるルー大柴に解説するという役割を担っている。

飯島 そうですよ。今の女の子って、誰もがお金を欲しいと思ってますよ。パトロンを持ちたがっている子もたくさんいるもの。でも、私はそこまでしたくなくて、ただクレジット・ローンとかがあったから、それを返そうと思って。
ルー それで裸になっちゃったのか。

(中略)
飯島 オナニーのこと。今の若い女の子って、当たり前のように、バイブレーターくらい持ってるんですよ。
ルー ウソだろう?
飯島 ホントですって。
ルー だけど、若い娘がバイブレーターなんて、どうやって手に入れるんだ。
飯島 大人のオモチャ屋さん。一人で行くのは恥ずかしいから、男の子に付き合ってもらったり。それと、今はパーティグッズを扱う店にも置いてありますよ。誕生日のプレゼントとかで、彼氏からもらってるみたい。

今日もTバックなのかと聞かれると「ハイ、そうですよ。今日は黒なの。見ますか?」と、ショートパンツの裾をめくって黒いTバックを見せるなどの、あっけらかんとしたサービス精神や、ルー大柴に電話番号を聞かれると、「私の部屋、電話がないんです。でもポケベルを持ってるから、そこにメッセージを入れて下さい」と、さらりとかわすなどの、コケティッシュなしたたかさは、「おやじ週刊誌」的には大好物なキャラだろう。
しかし、その一方で、妙に醒めた一面も見せている。

ルー で、愛チャン自身はこれから、どうするんだ。今や愛チャンもアイドル並みの売れっ子だ。やりたいことは何でもできるゾ。
飯島 私なんてダメですよ。たまたま、Tバックブームのおかげで話題になって、周囲の人が助けてくれたから、ちょっと売れただけだもん。

どこか達観したかのようなこうした発言は、初期の取材でも、繰り返し登場している。
『ギルガメッシュないと』に出演していた頃に心境を、本人は『プラトニック・セックス』の中で、こう綴っている。

深夜だし、どうせAVなんてすぐやめちゃうからいいや。親にばれたくないけど、もう何年も会っていないし、日焼けしちゃってるし、昔と比べたら相当変わっている。ばれないんだったらいいや。
そう思ってテレビに出続けた。
開き直ると簡単だ。どうせやめると思っているから、本音でしゃべる。視聴者やテレビの人間にとってみれば、これほど面白いことはなかったのかもしれない。下世話な話でも下ネタでも、振られれば何でもしゃべった。もし、「芸能界で成功してやろう」なんて気持ちを少しでも持っていたら、もっと自分を繕ったり、よそゆきの自分で勝負するんだろうけど、元よりそんな気持ちはない。素人が、素人丸出しのまま、好き勝手に仕事をしていた。素人だから、何をやっても許される。何をいっても許される。私はただ、思ったことを口にするだけでいい。

本人が感じ取っていたように、こうしたスタンスが、マスコミにも視聴者にも、新鮮で面白く受け取られたのだろう。

もうひとつ、ルー大柴対談の中で興味深いのが、コンピューターグラフィックに関する発言だ。
ルー大柴に「夢はないのか」と聞かれた飯島愛はこう答える。

飯島 希望としては、ニューヨークに留学したい。音楽とコンピューターグラフィックを勉強したいんです。向こうで働きながら、貧乏してもいいから勉強してみたいんです。

コンピューターグラフィックに対しての憧れは、後に何度となく語られるのだが、デビュー1年目のこの時期に、既にこうした発言が残されていることは覚えておきたい。

筆者について

安田理央

やすだ・りお 。1967年埼玉県生まれ。ライター、アダルトメディア研究家。美学校考現学研究室卒。主にアダルト産業をテーマに執筆。特にエロとデジタルメディアの関わりや、アダルトメディアの歴史の研究をライフワークとしている。 AV監督やカメラマン、漫画原作者、イベント司会者などとしても活動。主な著書に『痴女の誕生―アダルトメディアは女性をどう描いてきたのか』『巨乳の誕 生―大きなおっぱいはどう呼ばれてきたのか』、『日本エロ本全史』 (以上、太田出版)、『AV女優、のち』(KADOKAWA)、『ヘアヌードの誕生 芸術と猥褻のはざまで陰毛は揺れる』(イーストプレス)、『日本AV全史』(ケンエレブックス)、『エロメディア大全』(三才ブックス)などがある。

  1. 第0回 : はじめにー90年代に何が起きていたか
  2. 第1回 : “ノスタルジックで清楚な美少女”ー初期の飯島愛
  3. 第2回 : 1992年は飯島愛の年だった
  4. 第3回 : ランキングから消える飯島愛の「変化」
  5. 第4回 : 「AV業界」との複雑な関係
  6. 第5回 : 『ギルガメッシュないと』が生んだスター
  7. 第6回 : 期待される「キャラ」と「役割」
連載「飯島愛のいた時代」
  1. 第0回 : はじめにー90年代に何が起きていたか
  2. 第1回 : “ノスタルジックで清楚な美少女”ー初期の飯島愛
  3. 第2回 : 1992年は飯島愛の年だった
  4. 第3回 : ランキングから消える飯島愛の「変化」
  5. 第4回 : 「AV業界」との複雑な関係
  6. 第5回 : 『ギルガメッシュないと』が生んだスター
  7. 第6回 : 期待される「キャラ」と「役割」
  8. 連載「飯島愛のいた時代」記事一覧
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