転売ヤー、違法アップロードに先手を打て! 超人気アニメ『邪神ちゃんドロップキック』のプロデューサーが初めて明かす、型破り、でもファンの心を捉えて離さない宣伝ノウハウのすべてを一挙公開!!
クラウドファンディングやふるさと納税を用いたアニメ制作・違法アップローダーより早い公式切り抜き・転売ヤーよりも安いメルカリ販売・不適切アニメ認定に対する反撃など、大手メジャー作品がやらない施策を行うことで、人気作品に成長させた宣伝プロデューサー・栁瀬一樹さんによる新刊『宣伝は差異が全て 邪神ちゃんドロップキックからマーケティングを学ぶ』を、9月5日に刊行いたしました。
刊行を記念して、OHTABOOKSTANDにて、本文の一部を全3回にわたって公開します。
筆者挨拶
「私を雇ってほしい」「この商品を買ってほしい」など誰かに首を縦に振ってほしいことってありますよね。でも自分には自信がないからと最初から諦めたりしていませんか。
○今までゲームばっかりやっていたあなた!(私です)
面接の時には「趣味はゲームです」と言うより「私は空き時間の全てをゲームに注ぎ込んできたので、これからケータイでゲームが動くようになる未来が想像できます」と言った方が首を縦に振ってもらえます。(そうやってNTTドコモに入社しました)
○ライバルがたくさんいる激戦区で
自分のところの商品を売らねばならないあなた!(私です)
「おいしいかき氷です」と言うより「1杯1500円。会場で一番値段が高いです。その代わりいちご1・5パック使った日本で一番濃いかき氷を体験できます」と言った方が首を縦に振ってもらえます。(そうやって3000杯売りました)
コンテンツが溢れるこの世界。話を聴く側はたくさんの選択肢の中、「他と何が違うのかな?」ということにしか興味がありませんので、的確に差異を描いてあげれば、弱みすらも強みになります。
この本を書いているのは、「邪神ちゃんドロップキック」というあまりメジャーではないアニメ作品をクラウドファンディングやふるさと納税を用いたアニメ制作、違法アップローダーより早い公式切り抜き、転売ヤーよりも安いメルカリ販売など、あらゆる手段を使って人気作品に成長させた宣伝プロデューサーです。
私は宣伝の仕事をする中で「差異が宣伝の全てなのだ」ということに気がつきましたが、そこに至るまでの道のりは暗中模索で死屍累々。トライアンドエラーの多さには自信があります。
これらの膨大な失敗の中から、うまくいった事例とそのメカニズムをピックアップしてお伝えしますので、読者の皆さんはそのエッセンスを効率良く摂取して頂き、就職活動や日々のお仕事にお役立て下さい!
はじめに
邪神ちゃんドロップキックとは?
「邪神ちゃんドロップキック」は漫画家ユキヲ先生が描くギャグマンガです。女子大生花園ゆりねが召喚した悪魔「邪神ちゃん」が、魔界に帰るために必殺のドロップキックでゆりねを倒そうとするがいつも返り討ちにされるというドタバタコメディで、2018年から合計4回、37話がテレビアニメ化されました。YouTubeの映像が1億回以上視聴されたり、中国の配信サービスbilibiliでも1億回以上視聴されたりなど一部で話題の作品です。
このアニメ「邪神ちゃんドロップキック(以下「邪神ちゃん」)」が注目を浴びるようになったのは2022年の3期からで、ゲストキャラとして登場した初音ミクがネギを振っているシーンはYouTubeで1億回以上視聴されています。
他の作品が行わない変わった宣伝を行うことで知られており「違法より早い切り抜き」「違法アップロードの合法化」「公式が転売より安くメルカリ販売」「ふるさと納税でアニメ制作」「クラウドファンディングで1億円」など様々なエピソードを残しています。
本編はAmazon Prime Videoなどで配信しているので、ご覧になったことがない方はぜひご視聴ください。
始まりの地秋葉原、最初の敗北と凱旋
アニメ邪神ちゃんの宣伝は2018年に秋葉原で敗北したところから始まります。この施策を行った宣伝プロデューサーの私は、アニメ宣伝など1度もやったことのないただの素人でした。なぜそんな私がアニメ宣伝をすることになったのか? その経緯をご理解頂くためには、当時の地殻変動期とも言えるアニメビジネスの変化についてお話ししなくてはなりません。
皆さんは製作委員会という言葉を聞いたことがありますか?
これは民法上は任意組合と言われるもので、1つの事業を行うために複数の出資者が集まって資金を出し合い、利益を分け合いリスクを分散しようという試みです。
もう少し具体的な例を挙げてみましょう。例えばあなたがブルーレイ・DVDなどのパッケージを販売するビデオメーカーだったとしましょう。最近はテレビアニメを1本作るのに3億円ほどかかりますので、ビデオメーカーが1社で3億円のお金を拠出しても、パッケージ販売だけでそれ以上の売上を期待するのは現実的ではありません。
それなら海外に作品を展開する商社・国内配信を行うプラットフォーマー・商品化を行うグッズメーカーなどとチームを組んでお金を出し合い、製作したアニメのビデオグラム化権だけを手に入れた方が事業のリスクが下がりますし、それぞれの分野のプロが集まるのでメディアミックス展開にも期待ができます。このことから現在ほとんどのテレビアニメは製作委員会方式で作られています。
ところが、スマートフォンの普及と配信サービスの普及に伴ってパッケージ市場は急激に縮小。パッケージ売上は2014年から7年連続の減少となりました。
パッケージが売れなさそうな作品にはビデオメーカーは出資をしないので、それまでは製作委員会の中心にいたはずのビデオメーカーが不在の委員会が登場するようになりました。
邪神ちゃんドロップキック製作委員会もその一つでした。製作委員会に参加する各社はお金だけではなく人も出します。それまで宣伝プロデューサーと呼ばれる役割は全国に販路を持つビデオメーカーの宣伝マンが行うケースが多かったのですが、邪神ちゃんチームにはビデオメーカーがいないので宣伝マンを外部から雇わねばなりません。
今でこそアニメ宣伝を専業とする会社もありますが当時はそんな会社はありませんでしたので、アニメ配信サービスの企画・プロモーションをしたことがある私に「栁瀬さんはなんかアニメ宣伝できそうだからやってみて」と白羽の矢が立ったのでした。
きっとこの本を読んでいる皆さんもアニメ宣伝などやったことがないと思いますので一緒に考えて頂きたいのですが、どうすればアニメを宣伝することができるのでしょうか?
わからないことはまず他の人たちが何をやっているかを調べるはずです。私も他のアニメ作品がどのような施策を行っているのかを調べました。多くの作品が秋葉原、新宿、池袋などの駅で屋外広告を行っていることがわかりましたので、なるほどこれが王道のやり方なのだなということを学びました。
みんながやっているのだから間違いないです。私はさっそくプロモーション映像を制作し、秋葉原駅のサイネージ広告枠を買ってそこに映像を流すことにしました。私にとっては初めての宣伝なのでその結果をこの目で見てみたいと思い、配信開始となる朝の秋葉原駅に出向きました。そこで直面したのは
誰一人映像など観ていない
というあまりにも厳しい現実でした。私は製作委員会に「何の成果も得られませんでした」と報告するより他なく、使ってしまったお金は戻ってこず、今後これに類することをいくらやってもなんにもならないだろうということを確信し、アニメ宣伝というものを根本的に見直さねばならないと思いました。
この時私の頭に浮かんでいたのは「アリババと40人の盗賊」です。アリババを殺しに来た男は家の扉にチョークで目印を付けた後に仲間を呼びに行きますが、戻ってくると近所の家中の扉にチョークで目印が付けられていてどこがアリババの家かわからないというあのお話です。
それと同じくマンガ・アニメ・ゲームといったコンテンツが溢れる秋葉原の駅前に1つアニメの映像を流したところでそれが目立つわけはなく、むしろ隠してあるとさえ言えるのです。
この時私は安易な前例主義は宣伝には通用しないということを知り、差異を生まねば宣伝にはならないということ、むしろ宣伝は差異が全てなのだということを学んだのでした。
それからというもの、邪神ちゃんチームは徹底して他の作品がやらないことを中心に宣伝を展開するようになりました。他社の成功事例を参照しないので、やること全てが未知の領域です。ファンの皆さんを「邪教徒」と呼んで薄暗い秋葉原の雑居ビルで怪しいサバトを開催したり、女子プロレスとコラボして後楽園ホールでドロップキックを放ったり、宣伝費で馬券を買ってお金を失ったり、それらの企画はほとんどが赤字になりましたが、こんなことをやる作品は他にはないので全ての施策がニュースになっていきます。
そしてニュースが世に出るたびに、着実に「邪神ちゃん運営は頭がおかしい」と言われるようになっていきました。頭がおかしいは褒め言葉です。なぜならばその言葉には「世間の常識や理(ことわり)からは外れたもの」というニュアンスが含まれており、それは私が目指す差異そのものだからです。
こうして邪神ちゃんは変わった宣伝手法でよく話題になる作品というブランドを築いていき、映像作品としてだけではなくコンテンツの展開も面白い作品として人気を獲得していきました。
そしてあの敗北から5年の歳月が経った2023年5月、ついに邪神ちゃんは秋葉原駅前をジャックすることに成功します。かつては誰も見向きもしなかった1枚のサイネージ広告とは異なり、巨大な壁面を彩る超大型の展示物たちに道ゆく人々は否応なしに目を留め、絶対邪神ちゃんを知らないであろう外国人観光客が「オー、ジャパニーズメイドー」と言いながら写真を撮ってくれます。地道に差異を生み続けた結果辿り着いたのは、まさかの大きさと物量で差異を生むという施策でしたが、あたかもその様子はまるでメジャー作品のようでした。