飯島愛のいた時代
第2回

1992年は飯島愛の年だった

飯島愛のいた時代
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『日本エロ本全史』『日本AV全史』など、この国の近現代史の重要な裏面を追った著書を多く持つアダルトメディア研究家・安田理央による最新連載。前世紀最後のディケイド:90年代、それは以前の80年代とも、また以後到来した21世紀とも明らかに何かが異なる時代。その真っ只中で突如「飯島愛」という名と共に現れ、当時の人々から圧倒的な支持を得ながら、21世紀になってほどなく世を去ったひとりの女性がいた。そんな彼女と、彼女が生きた時代に何が起きていたのか。彼女の衝撃的な登場から30年以上を経た今、安田理央が丹念に辿っていきます。(毎月第1、3月曜日配信予定)
※本連載では過去文献からの引用箇所に一部、現在では不適切と思われる表現も含みますが、当時の状況を歴史的に記録・検証するという目的から、初出当時のまま掲載しています。

すべてのメーカーで年間ランキング1位

AV業界にとって、1992年は飯島愛の年だった。そう断言してもいいほどに、飯島愛の人気は凄まじいものがあった。
アダルトビデオ専門問屋のピーターパンが『ビデオ・ザ・ワールド』で連載していた「ピーターパン通信」は、扱っている商品の売れ行きなどから、毎月のトレンドなどをレポートするコーナーだが、1993年3月号では、1992年の総括を行っている。

まぁ、みなさんお考えになっていたとは思いますが、ブッチギリで飯島愛ちゃんで決まりです。販売実績面のみの評価によってベスト10を決めようものなら、ベスト10どころかベスト20全てが彼女の作品になってしまうでしょう。現在、AV業界では、2,000本を超えればヒット作品と言える状況ですが、彼女の作品はおしなべて6~7,000本を超えているのではないかと推測されます。この数字を見て頂いても、いかに彼女は「別格」かということがお分かり頂けると思います。

この年、飯島愛がいかに圧倒的な売上を記録していたことが問屋という現場の声から伝わってくる。
今度は『オレンジ通信』1993年2月号に掲載された「1992メーカー別BEST10」を見てみよう。これは各メーカーに1992年度の売上上位10位の作品をあげてもらったものだ。

KUKIでは1位『義姉の生下着3』、2位『TバックQUEEN』3位『女教師快楽遊戯 奥までびしょ濡れ』と上位3位を飯島愛出演作が独占。
クリスタル映像では1位『ママはモンゼツ』、4位『東京ドロンパ娘 スペシャルバニーガール』が、VIPでは1位『奥様は19歳』、3位『花嫁の下半身修行』、6位『愛が忙しい』、そしてステラでは『大制服バイブル第2章』が1位になっている。

つまり飯島愛出演作を発売したメーカーでは全て1位を獲得。他の作品も軒並み上位にランクインということだ。デビュー作『激射の女神 愛のベイサイドクラブ』をリリースしたFOXY(大陸書房)は倒産してしまっているので、ここでは未掲載だが、間違いなく1位であっただろう。各メーカーのコメントでも当然のように飯島愛旋風に触れている。

不景気と囁かれながらも、飯島効果といったところでしょうか、Tバック系女優は売れる売れる。(KUKI)

AVクイーン桜樹ルイの引退の後、92後半を盛り上げてくれた飯島愛の大活躍!(VIP)

「潰れるぞ、潰れるぞ」と、一部で噂があったらしいですけど、なーんてことはありません、平穏無事に過ごしてしますよ。さて、92年間ベスト10を出してみましたが、流石の愛ちゃん、文句なしの1位でした。(クリスタル映像)

このコメントにもあるように、クリスタル映像は、それまでドル箱監督であった村西とおるが独立してダイヤモンド映像を設立したために、不振にあえぎ、倒産寸前にまで追い詰められていたのが、飯島愛の大ヒットで息を吹き返したと言われている。

そしてクリスタル映像はこの後も飯島愛の出演作を連発していく。一方、村西とおるのダイヤモンド映像はクリスタル映像の復活と入れ替わるように破綻してしまうのだがら、なんとも皮肉なものである。

『週刊SPA!』(扶桑社)で浅草キッドや漫画家のとがしやすたか、ライターのカーツ佐藤らが、1992年度のAV、風俗、深夜TV、雑誌、写真集などあらゆるジャンルの「エッチ」メディアから選出する「92年エッチベスト10」という企画(1992年12月16日号)の総合ベスト1位でも、飯島愛が選ばれている。

佐藤 Tバックですかね、今年は。
とがし イコール飯島愛。
水道橋 飯島愛はいいですよ。完全にアイドル的スタンスだけど、ビデオ観ると、これがまた……。

ちなみに総合ランキングの2位以下は、こんな感じになっている。ここから時代背景を感じとって欲しい。

2位 『プラトニック・アニマル』(代々木忠監督の著書)
3位 細川ふみえ
4位 キスOK(風俗)
5位 ランジェリー・パブ
6位 お立ち台パンチラ
7位 マドンナ
8位 女子高生
9位 『キール・ロワイヤル』(島田陽子のヘアヌード写真集)
10位 S&Mクラブ

「AV」と「TV、週刊誌」の狭間で

AV女優としての飯島愛がこれほどまでに人気を得た理由としては、やはりテレビ番組『ギルガメッシュないと』出演によって知名度が高かったことがあげられるだろう。彼女を語る時には、必ずと言っていいほどに『ギルガメッシュないと』について触れられている。
『ビデオ・ザ・ワールド』の作品レビューでも、こんな具合だ。

飯島愛っていうコが可愛いゾ。深夜TVのお色気番組(古くてスイマセン)に出てるコということでH方面期待せずに見はじめたが、これがなかなか。(1992年7月号『レイプされた女学生』ハニー白熊のレビューより)

飯島愛といえばテレビ東京「ギルガメッシュないと」のレギュラーでもあるし、毎週のようにどこかしらの週刊誌のグラビアに顔を出していて、そんじょそこいらのちょっとしたアイドル歌手なんかよりも全然知名度はあるんだろうけど、だからといって白石ひとみとかその他イロイロいる芳友舎系の高飛車AVギャルのようにクソつまらんヘッポコ高級ドラマ路線でオヤジユーザーの怒りを買ったりせず、B級モデルもそこのけのハメ撮りだの野外だの逆ソープだのをやってるあたりに偉さというか大器の片鱗というか究極のエロモデル的人気の可能性を感じるのである。(1992年10月号『必殺のケイレン』藤木ただしのレビューより)

しかしここの所の飯島愛の作品みていてどーしてここまで人気が出たんだろうと首をかしげてしまう。TVの影響なんですかねえ。(1992年11月号『奥さまは19歳』斉藤修のレビューより)

前述の「ピーターパン通信」でも、度々飯島愛人気の理由を分析している。

ちゅうことで、今年度上半期のAVモデル人気ナンバー1はダントツで飯島愛ちゃんでしょう。マスメディアの力は凄いもんで、本チャンのAV作品がリリースされる前から、テレビ東京の深夜番組「ギルガメッシュナイト」(※原文ママ)に出演してTバックギャルとして名前を売りこみ、まず英知出版系のソフトイメージアダルトでカマしてからAV作品がリリースと、人気AVギャルの、まさに王道を歩んできているわけなのだ。本人結構キャバい雰囲気(失礼)なのに制服系は似合うし、もちろんキャバい恰好させても似合うし、コケティッシュというか漂うエッチっぽさというか、天性のAV資質が感じられる。(1992年9月号)

さて、アダルトコーナーの中にあってやはりダントツ1番人気は「飯島愛」ちゃん。うちのデータでも今年の4月からず~っとNo.1状態。(中略)やっぱりTVかなあ、Tバックギャルとしてギルがメッチュナイト(※原文ママ)に登場以来、他のテレビ番組、週刊誌などなどマスコミ関係をいろいろにぎわしているからなあ。マスコミへの露出度がこんなにも人気に影響するっていうことを改めて思い知りましたね。(1992年12月号)

これらの文章でも触れられているように、飯島愛は『ギルガメッシュないと』以外にも、早くから週刊誌などで取り上げられることが多かった。『週刊ポスト』にも、AVデビュー作が発売されると同時にモノクロのグラビアページに「AV界の新アイドル」として登場し、ヌードを披露している。

深夜のテレビ番組「ギルガメッシュないと」の「Tバックギャル」でデビュー。ボディコンのイケイケ娘として、オシリをペロリと見せながら、肝心な部分は見せないはずだった……。それが、4月25日には、AVデビューを果たす。一体、どうなってんの?
「テレビでは、イケイケのノリでも脱がない。ビデオでは、セーラー服とか美少女を演じながら、裸にもなるし、セックスもするのヨ」
見るからにエッチなボディコンギャルが、テレビではマル秘部分を作る。まるで脱ぎそうにない少女が、ビデオではホントになっちゃう。このギャップ、知っててやってるなら、実にしたたか。脱ぎだけが売り物の、AV女優とはちょっと違う。
しかし、このひとり2役でたまには失敗も。
「ファンの集いで、セーラー服の私しか知らない男の子が、実物を見て、『サギだぁ』だって」(笑)
一人で二度美味しい懐かしのキャラメルみたいだけど、味わい深そうなオンナだなぁ。(『週刊ポスト』1992年5月1日号)

AV女優から芸能人へ転身して最も成功した例として語られることの多い飯島愛だが、むしろ「芸能人AV女優」の先駆けと言ったほうがいいのかもしれない。

『プラトニック・セックス』には、飯島愛がAVデビューを決意し、最初の撮影を終えて、そのプロモーションとして、挨拶まわりにテレビ局に連れて行かれるという下りがある。そこでプロデューサーに気に入られた彼女は、突然深夜番組への出演が決まる。親バレを嫌った愛は出演を渋るが、事務所の社長は「これも宣伝のうちなんだから頼むよ。愛だって売れた方がいいだろ、自分のビデオ」と言われ、押し切られてしまう。
2時間遅刻していった『ギルガメッシュないと』の収録だったが、なぜかレギュラーとして出演が決まり、「Tバックニュースキャスター」飯島愛が誕生することとなる。

つまり、実際にはAV出演が先にあり、そのプロモーションのつもりで『ギルガメッシュないと』に出演したのだが、AVデビュー作が販売されるよりも先にテレビ放映があったため、テレビの視聴者やAVユーザーから見ると、「テレビのあのコがAVデビュー」というように感じられたわけだ。そして当時はAV側も、そういう売出し方をしている。早くからテレビや週刊誌などの一般マスコミへアピールしていることを考えると、事務所としては最初から、そうした売り出し方を考えていたのかもしれないが。

とにかく、1992年のAV業界が飯島愛一色になるほど彼女の人気が爆発していたというのは、紛れもない事実だ。
しかし『オレンジ通信』1993年2月号で発表された「1992年度AVアイドル賞」を受賞したのは、1991年にデビューし、お嬢様的なムードで人気を集めた白石ひとみだった。
1986年からスタートした『オレンジ通信』の年間AVアイドル賞(ごく初期は「モデルBEST10」)は、読者投票で選ばれ、同誌が休刊する2009年まで続いた由緒ある賞であり、当時のAV業界で最も権威のある賞と言っても過言ではない。1992年度の2位以下にランキングされているのは、浅倉舞、朝岡実嶺、早乙女美紀、橘ますみ、佐伯祐里、伊藤真紀、沢口梨々子、小林愛美、鈴木奈緒。

飯島愛の名前は、10位内になかった。作品賞にも彼女の出演作は一本も入っていなかった。前述のとおり、同じ号に掲載された「1992メーカー別BEST10」では、圧倒的な売上を見せているのにも関わらず、である。

筆者について

安田理央

やすだ・りお 。1967年埼玉県生まれ。ライター、アダルトメディア研究家。美学校考現学研究室卒。主にアダルト産業をテーマに執筆。特にエロとデジタルメディアの関わりや、アダルトメディアの歴史の研究をライフワークとしている。 AV監督やカメラマン、漫画原作者、イベント司会者などとしても活動。主な著書に『痴女の誕生―アダルトメディアは女性をどう描いてきたのか』『巨乳の誕 生―大きなおっぱいはどう呼ばれてきたのか』、『日本エロ本全史』 (以上、太田出版)、『AV女優、のち』(KADOKAWA)、『ヘアヌードの誕生 芸術と猥褻のはざまで陰毛は揺れる』(イーストプレス)、『日本AV全史』(ケンエレブックス)、『エロメディア大全』(三才ブックス)などがある。

  1. 第0回 : 飯島愛のいた時代「はじめにーー90年代に何が起きていたか」
  2. 第1回 : “ノスタルジックで清楚な美少女”ー初期の飯島愛
  3. 第2回 : 1992年は飯島愛の年だった
連載「飯島愛のいた時代」
  1. 第0回 : 飯島愛のいた時代「はじめにーー90年代に何が起きていたか」
  2. 第1回 : “ノスタルジックで清楚な美少女”ー初期の飯島愛
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