昨年始めたYouTubeチャンネル「パリコダマ」で、ホフディランの小宮山雄飛さんとともに両国の町中華を訪れた。強烈に印象的な店だった。駅からすぐの路地裏にある創業約60年の老舗中華料理店。この店が好きな理由は、安くてうまいからだけではない。なんというか、メニュー構成や出てくる料理につっこみどころが多い。それをもつまみにしながら飲むのがまた楽しい。
年末が近づいてくると、仕事においてもその1年をふり返るような企画やアンケートが多くなる。僕の場合は、「今年行って良かった酒場、美味しかったつまみは?」といった内容を聞かれることが多い。
生意気なことに「順位づけ」と「点数づけ」のある仕事は基本お断りさせてもらっていて、それは自分が飲食店に優劣をつけるなどおこがましいからだ。けれども、強く印象に残った店やつまみは当然ある。その日の自分の体調や、一緒に飲んでいた人たち、はたまた天候や時間帯などさまざまな要素が絡み合ってくるもので、あくまで個人的な思い出というだけのものだが、先日聞かれたあるアンケートで答えた昨年の5軒が、順不同で以下だった。
・小田原「潮若丸」の「湘南しらすせんべい」
・京都「いなせや」の「春巻き」
・伊勢「海山」の「さめのたれ」
・上野シタマチクリスマス「Wrang Wong Jowo」の「ナシチャンプル」
・両国「餃子会館 磐梯山」の「玉子チャーハン」
潮若丸といなせやについては、すでに当連載に書かせてもらった。伊勢の海山は、昨年上梓した本『ごりやく酒 神社で一拝、酒場で一杯』に詳しい。Wrang Wong Jowoは上野のクリスマスイベントに出展していたジャワ料理店で、気に入って期間中に2度も行ってしまった。ただ実店舗が小岩にあるらしく、今年はぜひ飲みにいきたいと思っていて、詳細はそれからこの連載でお伝えしたい。
さて、残り1店である磐梯山。昨年始めたYouTubeチャンネル「パリコダマ」で、ビッグゲスト、ホフディランの小宮山雄飛さんとともに初めて訪れたら、ここが強烈に印象的な店だった。

JR両国駅からすぐの路地裏にある昭和39(1964)年創業の老舗中華料理店。2階に広々とした座敷席もあるが現在はあまり使われておらず、テーブルが3つとカウンターが10席ほどの、こぢんまりとした1階部分がメイン。
僕が磐梯山を好きな理由は、安くてうまいからだけではない。なんというか、メニュー構成や出てくる料理につっこみどころが多い。というと失礼になってしまうかもしれないけれど、どういう経緯でこのスタイルに落ち着いたんだろう? と想像する余地が大いにある店で、それをもつまみにしながら飲むのが楽しいのだ。
たとえばメニュー。当然餃子がメイン。1皿5個が税込450円で、2枚ならダブル、3枚ならトリプルと頼む(通ぶっているわけではなく、メニューにそう書いてある)。
この餃子が小ぶりで軽快なタイプで、皮はもちもちしつつ、焼き目はカリッと香ばしい。餡は野菜の旨味中心の優しい味つけ。ニラの風味が酒も米も呼ぶ。酢と醤油を好みで合わせたたれに自家製のラー油を注ぎ、それにどっぷりとつければ、無限に食べられてしまいそうなちょうど良さだ。
実際、餃子は女性なら30分以内に50個、男性なら1時間以内に100個食べると無料になるというチャレンジメニューもあって、達成した猛者たちのサインが壁のあちこちに貼られている。ちなみにこのチャレンジは、近くに相撲部屋の多い両国という場所がら、若手力士の応援の意味も込めて、初代店主が始めたのだそう。
「瓶ビール」が小瓶(440円)、中瓶(580円)、大瓶(720円)と3種そろっているからその日の気分でスタイルを組み立てられ、グラスに注いだそれを餃子の相棒にちびちびとやる時間は、かなり幸福度が高い。酒類は他に、日本酒、紹興酒、ウーロンハイなどもあって、しっかりと酒飲みにも対応してくれているのが嬉しい。
残るメニュー構成が独特だ。当然「ライス」はあって、これと餃子1、2枚を食べてさっと帰ってゆくお客も多い。店名を冠した、肉と野菜たっぷりの「磐梯ラーメン」他、麺類が5種類。その他にメニュー表に並ぶのは「もやし炒め」「レバニラ炒め」「レバ塩炒め」「冷やしトマト」「冷やしきゅうり」「キムチ」、以上。必要最低限というほどありふれたラインナップではないし、最終的にこの構成にたどり着いた経緯に思いを馳せると、勝手な想像がふくらむ。
「もやし炒め」(420円)は、たっぷりのもやしと少々のニラを炒めたシンプルな一品ながら、そこに熟練の技が光る。「レバ塩炒め」(700円)は、レバーをはるかに超える驚くべき量のスライス玉ねぎと炒めたもので、シャキシャキと甘い玉ねぎにレバーの旨味がいきわたる、ここにしかない料理だ。
一見ちょっとしたメニューの「冷やしトマト」(420円)が、仕入れにこだわりがあるのだろう、なぜこんなにも? というくらいフルーティで華やかな味わい。添えられたマヨネーズや塩と合わせるとまた酒がすすむ。「キムチ」(420円)もかなり変わっていて、白菜の葉の白い部分だけを短冊型にトリミングし、整然と並べて盛り付けられている。柔らかい葉の部分も好きな僕は半信半疑で食べたが、これが妙にいいものを食べているようで気分があがる。柔らかい葉はきっと、他の料理に使われているのだろう。
なかでも最も驚いたのが「玉子チャーハン」(520円)だ。先程のメニュー表にはなかったが、実は壁メニューとして存在する。これが名は体を表すの究極で、具材が潔く玉子のみ。刻んだネギすらも見当たらない(よ〜く見たけど、たぶん)。専用の器ではなくラーメン丼にこんもりと盛り付けられた見た目とあいまって、かなり独特の存在感だ。
れんげですくって口に運ぶと、その食感はパラパラともしっとりとも違い、ふわっふわ。噛みしめれば甘い米の香り、玉子のコク、油の香ばしさや絶妙な塩気がハーモニーを奏でる。あまりにもシンプル。であるがゆえ、あるひとつの到達点にたどり着いているチャーハンと言えるだろう。あのグルメ番長、雄飛さんに「東京一かもしれない」とさえ言わしめたのだから間違いない。
チャーハンにはスープがセットでついてきて、これがまたいい。一般的な中華スープではなく、真っ白な鶏白湯スープ。麺類メニューに「白湯ラーメン」があるのでその流用と思われるが、とろりとした濃厚さがチャーハンとよく合う。チャーハンもスープも実はちびちびとつまめるものの代表格だから、好きな酒と組み合わせれば、幸福のゴールデントライアングルの完成だ。
路地裏の小さな町中華にだって、こんなにおもしろい体験が待っていて、それが無限に広がっているのが大衆酒場の楽しさ。今年もどんな店とつまみに出会えるか、とても楽しみだ。

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『酒場と生活』毎月第1・3木曜更新。次回第40回は2026年1月22日(木)17時公開予定です。
筆者について
1978年、東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。酒好きが高じ、2000年代より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター、スズキナオとのユニット「酒の穴」名義をはじめ、共著も多数。








