京都の繁華街といえば河原町付近がまず思い浮かぶ。これまで京都駅前は飲み歩き向きの街ではないイメージを持っていたが、飲める店はきちんとあることが今回わかった。一帯を散歩しながら、角打ち、老舗、元八百屋だった酒場など気になるお店はたくさんあったが、同行の全員の意見が一致して入ったのは外観が街の書店であるような一軒だった。
酒漫画の金字塔『酒のほそ道』の膨大なエピソードのなかから僕とスズキナオさんが116個の名言をピックアップし、解説した本『そこそこでいいんだよ 「酒のほそ道」の名言』が、昨年の12月に発売された。
その発売記念としてこの2月、京都と大阪で3日連続のトークイベントが行われ、酒ほその作者であるラズウェル細木先生と、ナオさん、僕が出演することになった。ということはつまり、そのメンバーを中心とした2泊3日の関西飲み歩きツアーも自動的に敢行されることになるわけで、それが今回も楽しすぎた。
初日夕方のイベント会場は、京都の老舗書店「大垣書店」が運営するカフェ&イベントスペース「SLow Page イオンモールKYOTO店」。京都駅南口からすぐの場所だ。
関西飲み歴も長くなってきたが、京都の繁華街といえば、駅前よりもそこから少し移動した河原町付近がまず思い浮かぶ。逆にこのあたりは、駅前に観光ホテル、その先は住宅街という静かなエリアで、飲み歩き向きの街ではないイメージを持っていた。が、そこは日本を代表する巨大ターミナル駅。そんなのは僕の浅はかな考えで、飲める店はきちんとあることが、今回わかった。
浮き足立ってだいぶ早めに京都に着き、まずは行きの新幹線内で検索し、昼の12時から営業していることがわかっていた大衆酒場「食楽部屋みなみ」で飲みはじめる。そこへラズウェル先生、本連載の担当で『そこそこでいいんだよ』の編集もしてくださった森山裕之さん、それからスズキナオさんと、続々とメンバーが集まりだす。人生で何度味わっても飽きない、多幸感がぐんぐん高まる時間だ。
やがて次に移動しようということになり、店選びを関西在住のナオさんにお任せする。「このあたりはなにもないようで、実はちらほらと角打ちや渋い立ち飲み屋が点在しているんですよ」とのことで、一帯を散歩しながら、入る店を決める流れだ。
角打ちなら、店内中央に重厚感のある立ち飲みカウンターがしつらえてある酒屋の「酒楽座いのうえ」、創業が明治だという老舗「かわしろ商店」。立ち飲みなら以前行って感激した「いなせや」もあるし、入り口のビニールシートの向こうにぼうっと人々の盛り上がりが見える、もともとは八百屋だったという「畑商店」の味わいもかなり気になった。なかでもナオさんが「ここもおもしろいですよ」と教えてくれた一軒で全員の意見が一致し、入ってみることに。
心惹かれた理由は、まずその外観。一見、街に古くからある書店のようだ。というか看板にも大きく「BOOKS ENDO」と書いてある。しかしながらさらによく見てみると、店頭にふたつある立て看板にはそれぞれ「立ち呑み Stand BAL ENDO」「IZAKAYA ENDO」の文字。どうやら世にも珍しい、書店と酒場のハイブリッド店であるらしい。

店内はさらに興味深い。いわゆる小型書店サイズで、左側の壁には本棚が確かにある。が、右側は立ち飲みカウンター、奥は厨房になっていて、中央にテーブル席がどーんとあって、完全に飲み屋のほうがメインのようだ。不揃いな家庭用のダイニングテーブルにクロス、椅子などが並ぶ様は、手作り感があって楽しい。我々が席に着かせてもらうと、それぞれの前にていねいにコースターと紙製の敷物が並べられるが、よく見るとそれがA4のコピー用紙なのもたまらない。
圧巻はメニューだ。品数がかなり縦横無尽で膨大。本日のおすすめボードだけ見ても、「粕汁」「松前漬け」「まぐろ中トロ切り落とし」「万願寺じゃこ山椒煮」「生ゆばおぼろ」「カレイ煮付け」「黒鯛造り」と充実しすぎている。レギュラーメニューも、「ポテトサラダ」「ベーコンエッグ」「ハムカツ」などの王道もあれば、「ハッシュドポテト」「カマンベールフライ」「カニクリームコロッケ」などのポップな洋食系もあり、「焼そば/うどん」「たこ焼き」「インスタントラーメン」といった主食類もある。というか、とても一度で全容を把握できる量ではなく、とにかくなんでもありだ。しかも安い。
おでんも名物のようで、大根、厚揚げ、焼き豆腐、国産牛すじを頼んでみる。牛すじが税込150円で。あとはひとつ100円。酒は「チューハイ」(390円)をもらって、京都の2軒目に乾杯!
するとこのおでんが、風味豊かなだしと、びしっと決まった塩気、それが具材によ〜く染み込み、驚くほどうまい。そのハイレベルな味わいと、半分書店な店内の雰囲気とが相まって、なんだか無性に笑える。なんていい酒場だ。
当然のことながらこの店の成り立ちが気になり、手の空いたタイミングを見計らってご主人にお話を聞いてみる。とても謙虚でにこやかな方で、きっと常連以外の客はたいてい似たような質問をするだろうに、ていねいに答えてくれた。
それによれば、BOOKS ENDOが酒場営業を始めたのはおよそ10年前。出版業界の不況や、オンライン書店の一般化による影響で減ってしまった売り上げをどうにかせねばと考えたご主人。もともと料理が好きだったこともあって、なんとまさかの居酒屋営業を始めることを思いついたのだとか。
素人の僕からすれば、そんなシンプルな理由で仕込みや提供をまかなえるメニュー数とはとても思えないけれど、もはやこちらが本業ということなのだろう。それでも、定期的に注文が入って配達している新刊、雑誌などはまだあるらしいから、やっぱり書店でもあるのだ。
料理好きと聞いて納得な気の利いたつまみ類も多く、続いて「自家製塩昆布(ちりめん山椒入)」(300円)、「万願寺じゃこ山椒煮」(250円)、「粕汁」(330円)を注文。
山椒がぴりりと利いた深い味わいの塩昆布がとても良い酒のつまみで、こういうものは市販品を買ってくるイメージしかなかったが、自家製とは嬉しい。万願寺じゃこもとてもいい味加減だし、白みそを多めに使うのがポイントだというかす汁の優しくも深い味わいにもうっとりした。
この日はそろそろイベントの時間が迫りはじめたため、ひとり2杯ほどずつの酒で失礼することにしたが、営業時間は17時から21時20分まで。次回はオープン時間を待って訪れ、気になる料理をあれこれ頼んでゆっくりじっくり堪能したいと思える、強烈に記憶に残る酒場だった。

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次回第45回は2026年4月2日(木)17時公開予定です。
筆者について
1978年、東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。酒好きが高じ、2000年代より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター、スズキナオとのユニット「酒の穴」名義をはじめ、共著も多数。







