ユリ・ゲラー 名声を高めた伝説と“本物の超能力者”ゆえの悩み

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アメリカ政府が“本気で”超能力を研究していた──その全貌を明らかにしたノンフィクション『アメリカ超能力研究の真実――国家機密プログラムの全貌』(アニー・ジェイコブセン・著/加藤万里子・訳/太田出版)が、3月16日に発売された。同書によれば、日本でも一世を風靡した超能力者・ユリ・ゲラーは、イスラエルの諜報機関「モサド」と深く関係しており、アメリカのCIA(中央情報局)もゲラーに興味を持っていたという。ゲラーは果たして本当に超能力者だったのか? 同書よりゲラーの“悩み”を紹介しよう。

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彼の名前を国際的に知らしめたのは、なんと言っても1970年秋に起きたあの出来事だろう。そのとき、ゲラーはテルアヴィヴのツァヴダ劇場でテレパシーを実演していたが、急に具合が悪くなり、立っていられなくなった。「どなたか医者はいませんか?」。ゲラーは観客に呼びかけた。ひとりの男が進み出て、彼の体温や脈拍を調べた。驚いたことに、脈が1分間に160回から170回も打っていた。

ゲラーはパフォーマンスを中断したことを観客に詫びた。それから、きっぱりとこう発表した。突然具合が悪くなったのは、歴史的なことが起ころうとしているか、起きたところだからだ。当時のイスラエルの不倶戴天の敵、ガマル・アブダル・ナセル・エジプト大統領が「たった今死んだか、もうじき死ぬ」。

客席にいたルース・ヘファーというジャーナリストは、外へ駆け出して公衆電話に飛びつくと、イスラエル・ラジオ・インターナショナルの知り合いに電話をかけた。が、ナセルに関するニュースは入っていなかった。劇場に戻ると、ゲラーはまだ回復しておらず、スツールに坐りこんだままだった。

観客はぞろぞろと劇場から出ていきはじめていた。入場料を返せと抗議する者も何人かいた。20分ほどたったとき、誰かが大声で叫びながら駆けこんできた。ラジオ・カイロがたった今、ナセル大統領の死を報じたという。大統領は、その日の夕方六時に心臓発作で息を引き取っていた。

この出来事をきっかけに、ユリ・ゲラーの評判は爆発的に高まった。イスラエルのゴルダ・メイヤー首相は、新年の記者会見で今年のイスラエルの展望を訊かれると、「ユリ・ゲラーに訊いてちょうだい」と答えたという。

そんな全国的な名声も、長くは続かなかった。「しばらくすると、もう見向きもされなくなった」と、ゲラーは言う。

「イスラエルは小さな国だ。まるで国民全員が私の実演を見てしまったようだった。私はテレパシーをやってみせた。腕時計を止めたり、動かしたりした。スプーンを曲げた。みんなはその次を期待したんだ。マジックを見たかったんだよ。でも、私はマジシャンじゃない。トリックを追加したり、発明したりなんてできなかった」。

ゲラーは観客が減っていくのを、なす術もなく呆然と眺めていた。

「私の仕事場は、以前より小さい劇場に移った。そのあとは、さらに小さい場所になった」

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著者のアニー・ジェイコブセンは、極秘軍事基地の真実を暴いた『エリア51』が『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラー・リストに10週以上ランクインし、軍事科学機関DARPAの最新研究を問う『ペンタゴンの頭脳』が、2016年ピューリッツァー賞最終候補作に選出された調査報道ジャーナリスト。

同書では、機密解除された文書と50人以上の関係者、ユリ・ゲラーなどの被験者への取材をもとに、アメリカで1950年代初期から40年以上も行われてきた超能力研究プログラムの全貌を明らかにしている。『アメリカ超能力研究の真実――国家機密プログラムの全貌』は、2018年3月16日(金)に発売。定価は2800円+税。

【関連リンク】
アメリカ超能力研究の真実――国家機密プログラムの全貌

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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