ジャッキー・チェン 自伝で語った“売れっ子の苦悩”と若き日の武勇伝

カルチャー
スポンサーリンク

大スターの人生を読み解くためにもっとも役立つのが、スター本人が書いた自伝。世界的スター・ジャッキー・チェンの場合、これまで3冊の自伝を描き下ろしていますが、同じことを語っているわけではなく、それぞれ切り口が異なっています。この3冊を読み比べていくと、その時代ごとのジャッキーの「売り方」の違いを読み取ることができ、なかなか興味深いものがあります。

まずは、1984年の『愛してポーポー』。この「ポーポー」というのは、若いファンには馴染みがないかもしれませんが、かつてのジャッキーの愛称です。赤ん坊のジャッキーは母親のお腹の中に12か月もおり、5.5㎏ もの巨大児として生まれました。そのため、「大砲の弾のようにまるまると太っている」という理由で、大砲の「砲(広東語でポー)」からポーポーと呼ばれたそうです。

同書が出版されたのは『プロジェクトA』の大ヒットにより、日本でも空前のジャッキーブームが起こっていた時代。全体が日本の女性ファンに語りかける文体で書かれており、蝶ネクタイ姿に満面の笑顔の表紙もあいまって、当時のジャッキーがいかにアイドル的な人気を博していたかわかります。正直、今読むとイメージを壊さないための脚色が多すぎて、資料としての信用度は低いのですが、そんな中でも、売れっ子の苦悩を吐露している箇所があります。

〈仕事で付き合っている人の中には、ぼくのことを頭がからっぽで、筋肉ムキムキだけの男だと思っている人もいる。だから、持ってくる話が、いつも同じパターンだ。裸になって、筋肉のすごいところを見せたって何の意味もない。中には、僕は難しいことはわからないからと最初から考えている人もいる。みんな、それは過小評価だ。〉

この数年後にハリウッドの古典のリメイク『奇蹟 ミラクル』を完成させたことを考えると、この告白はかなり本音だったのではないでしょうか。

◆スターから大人の男へ素の自分をさらけ出した

そこから約15年おきに出版された『I AM JACKIE CHAN』と『永遠の少年』はファンからの評価も高い2冊です。それぞれ出生から執筆時点までを振り返っていますが、『I AM…』は時系列に沿って語り下ろしているのに対し、『永遠の少年』はテーマごとの構成です。

語り口も前者が「スターの半生を語る」というトーンに対して、後者は「若い頃の武勇伝や女性問題も正直に語る」という微妙な違いがあります。いわば、「スターになるまで」を語ったのが『I AM…』だとするなら、『永遠の少年』は「等身大の自分」を語った自伝といえます。なにせ、若い頃の風俗体験(女性が番号で呼ばれる店に入り浸っていた)の話や、スタント仲間とケンカに明け暮れていた(相手の顔面を殴って前歯が拳に刺さったこともある)という話まで出てくるのです。

アイドルのジャッキーからスターのジャッキーへ、そして素のジャッキーへ。こうした変化はそのまま、ジャッキーの俳優としての変化にもつながっています。「筋肉ムキムキだけの男」からいかに脱却し、一流の映画人として認めてもらうか。それがジャッキーの俳優人生における戦いでした。最新の自伝でこれまで語られなかった若い頃の失敗や後悔も語るようになったのは、夢を達成した今、もうイメージを気にする必要がないという安堵感の表れなのかもしれません。

◆ケトル VOL.40(2017年12月14日発売)

【関連リンク】
ケトル VOL.40

【関連記事】
笑わせるよりも笑われろ? ジャッキー・チェンがチャップリンから学んだ教え
歌手でも大成功のジャッキー・チェン バックに”鬼コーチ”の存在
デビュー当時のダウンタウンは浜田もボケる「Wボケ」だった
『ユアタイム』のモーリー・ロバートソン 凄まじい神童伝説を紹介

※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

関連商品
ケトルVOL.40
太田出版