雑誌『ケトル』は、6月号として「みんなの大好き」特集を制作中。みんなの大好きをつくる方々と、各々が好きなものに焦点を当てた内容になります。そして現在、note公式アカウントでは、特集「みんなの大好き」にちなんで「#わたしの大好き」をテーマに1000〜1500字のコラム・エッセイを募集中。新型コロナウイルスによって、人と人だけではなく様々なものと距離を取らざるを得ない日々が続きますが、「いまは触れらないが、収束後は……」「外では難しいが、今は家の中で楽しんでいる」「あらためて自分にとって大切なものだと気づいた」など、大好きなものや、愛が深まったものへの想いを寄稿いただいてます。今回はその中から、ぱるぱる/村山悠さんの原稿を紹介させてください。
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家ではどうしてもできないことがある。
我慢できないわけではない。家にいてはできないだけだ。
ときどき、電車に乗って少し遠くに行きたくなることがある。
電車に乗って、海や山のある街に行き、お店を見たりごはんを食べたり、誰かといっしょでなくてもいいから、いつも暮らす街ではなく、他の場所で食事をしたり風景を見たくなる。
その地に着くまで、電車に乗っている間の少しもどかしい感じ、ストレスさえ恋愛初期に似て、苦くても向こうには甘さが待っている。
遠くに行くにしても、私は混んでいる場所が好きではないから、平日やなるべく空いている時間を狙っていくのだけど、どうしても人が多くなるシーズンというのがある。
それで今はまさにそのシーズンで、外出自粛要請も出ているから、人気のある海辺の街に行くことなんてできない。
ひとりで行って食べきれなかったパンケーキのことや、新婚旅行で訪れたとき台風並みの雨でずぶぬれになったことを思い出し、思い出をきゅぅと抱きしめるだけ。
今度行くときには、もしかしたら夕立が降って夫はまた機嫌を悪くするかもしれない。
でもまた遠くまで行って、帰り途の疲れまできゅぅと抱きしめていたい。
そのときまで、私は思い出を抱きしめて近くのスーパーまで歩いたり、家で夫とがまんできるほどの喧嘩をしながら音楽を聴いたりしている。
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いただいた言葉の一つ一つが、また誰かの文化との出会いになれば幸いです。お好きなものについてぜひご寄稿ください。宜しくお願い申し上げます。
【Twitterでも #わたしの大好き を教えてください】
コラム/エッセイと同テーマ「#わたしの大好き」でTwitterでも想いをつぶやいていただけると嬉しいです。#わたしの大好き とともにTwitterでつぶやかれた言葉を誌面に載せさせていただければと存じます。
新型コロナウイルスによって、人と人だけではなく、好きなもの自体と距離を取らざるをえなくなったことが多くあると思います。大好きなものへの想いを #わたしの大好き とともにお教えくださいませ。投稿いただいた言葉の中から、雑誌『ケトル』6月号紙面でも掲載させていただければ幸いです。 pic.twitter.com/BTt6TQfdf3
— 太 田 出 版 ケ ト ル ニ ュ ー ス (@ohta_kettle) May 1, 2020