謎に包まれた実在の能楽師・犬王をモデルに大胆な解釈でストーリーを紡いだ古川日出男の小説『平家物語 犬王の巻』を、唯一無二の世界観で独創的なアニメーションを世に送り出してきた湯浅政明監督がアニメーション映画化。本作にて、異形の身体で“ポップスター”のように生き生きと舞い歌う能楽師の【犬王】と、彼のバディとなり室町時代の観客たちを熱狂させる琵琶法師【友魚】を演じるアヴちゃんと森山未來にインタビュー。
『犬王』という作品が持つ圧倒的な熱量と、そこに込められたふたりの想いを紐解きます。
アヴちゃん
バンド「女王蜂」のボーカル。2011年にメジャーデビュー。映画『モテキ』のテーマソングを担当、かつ本人役で出演し一躍脚光を浴びる存在に。2022年3月には2度目の日本武道館単独ライヴを開催。女王蜂としての音楽活動に加え、ブロードウェイミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』への出演や、様々なジャンルのアーティストへの楽曲提供など止まらない躍進を遂げている。
森山未來
1984年生まれ、兵庫県出身。5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。「関係値から立ち上がる身体的表現」を求めて、領域横断的に国内外で活動を展開。待機作に、映画『i ai』(22年公開予定)がある。2022年4月より神戸市にArtist in Residence KOBE(AiRK)を設立、運営に携わる。ポスト舞踏派。
10年ぶりの二度目の共演はW主演!
――映画『モテキ』から10年ぶりの共演になりますね。
森山 絶対、そこやもんなぁ。
アヴちゃん ねぇ~。当時、私たち(女王蜂)は若さの暴走みたいなバンドで。「やばいバンドがいる」ってゆら帝の坂本さん(ゆらゆら帝国の坂本慎太郎)が言ってくださったのを大根ちゃん(監督の大根仁)が吸い上げて、私たちは劇中で暴れるだけだった。なので俳優さんもどこか映像の中の人というか、体温を感じたことがある距離まで行ったことがなかったんです。
いざ撮影で未來氏と「どうも」ってなったら、その後もライヴに来てくれたり、おうちに行ったり遊んだりして。初めて「この皮を着てこの情熱を持っている人っておるんや」「めっちゃおもろい!」ってなって。何か人格、そしてそのテーゼまで初めて察することができた俳優さんやったんです。
どこにも属さない無頼でありながら、誰かと手を組んだときにはスーパー力を発揮する。でも、何か“駆られてる”っていう、大変なときを遠くから近くから見せてもらって。気付いたら10年後にW主演、しかもアニメ映画に。嬉しいですね。
森山 ね! でも、もちろん初共演は『モテキ』になると思うんですが……映画公開の次の年に僕が『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』っていうミュージカルに出ていて。それの構想は2年くらい前からあって、大根さんに演出として入ってもらうことになったので、ドラマの『モテキ』の撮影のときぐらいからいろいろ構想を練っていたんです。
「いまの時代に即した『ヘドウィグ』をどうやったら作れるやろ」って揉んでいたときにある日、大根さんから「すごいバンドがいるよ」って教えてもらったのが女王蜂で。映像を観たときに、それまで少しずつ構築されていっていたものがガラガラッと崩れてしまったんです。ある種「本物がここにいる」というか、このままではこの人たちに太刀打ちできるものにはならないな、と。それで何か大きく入れ替えたりした記憶があって。
だから僕にとっては『モテキ』の記憶というよりも、その前に初めて女王蜂の映像を観たときのことが大きいですね。学祭か何かで仮面をつけていて。
アヴちゃん あぁ、やばいやつだよね~! 懐かしい!
森山 その衝撃から、『モテキ』でお会いして、そのあと『ヘドウィグ』も観に来てくれたよね。もう「怖いわぁ」って思いながら(笑)。
アヴちゃん 当時、「私も『ヘドウィグ』やりたいと思ってんねん」って言ったんです。そうしたら未來氏が「やらんでいいよ!」って。「なんで?」って聞いたら「だって女王蜂やってるやん、バキバキやもん」って言われて。「だからこそやりたい!」とか話をしたのを覚えてる。
森山 したねぇ。
アヴちゃん 演じるっていう感覚は、私のなかで「気迫」。自分でミュージカルに出てみたりしても感じたそういう自分の指標を初めて話せた相手が未來氏なんです。しかも今回の『犬王』での演技というものは、すごく“臓物の強さ”みたいなものを試されるようなもので。どれだけ吐かずに呑めるか。吐くとしたらどれだけ吐けるか、みたいな。
森山 あはははは! そうやなぁ。
アヴちゃん アニメって意外と地の強さをすごく試されるんだなぁって。歌って演技する場合、特に。
森山 いや、これ従来の進め方と違うんじゃないの? わからないですけど、何か違う気がするな。だって、今回アヴちゃんは歌詞も自分で書いてるでしょ。台本の中に書かれているものを全部自分の言葉にかみ砕いて、アヴちゃん自身のモノにしているわけですから。薔薇園アヴ(アヴちゃんの作詞作曲時の名義)、だよね。
アヴちゃん 強いよね!
森山 こんなプロセス他にないと思うけど。
アヴちゃん ほんま? 「トンデモ~」なことだったのかもしれないね。でも未來氏と一緒だから楽しめたというか。1曲、デュエットで未來氏がハモりを考えてきて。そのときに、「BETしてる(賭けている)んやな」と思ったんです。自分の考えたことを、いい悪いが自分のなかでジャッジされる前に人前に出すって、一種人前でポエムを読まれるようなことで。
自分のフィールドじゃないと思っている人、そこにこだわっちゃっている人だとすごくシャイになっちゃうと思うんですけど、お互いそれを超えた遠慮のなさがあったなって。会うたびに互いのやばさを確認しているみたいな感じがします。
森山 いやいや、僕はもうアヴちゃんリスペクトなので。今回も「アヴちゃんがやるんやったら絶対面白いと思うからやります」って、本当それだけ。W主演って言ってくれてるけど、これはアヴちゃんの映画なので。
アヴちゃん あーた(あなた)ね~~!
森山 僕は純粋にそう思っていて、そこに呼んでもらえて本当にありがたい思いでいっぱいです。
アヴちゃん え~~、幸せ♡ 私も未來氏とのW主演でって聞いて「えっ、やばーい!」みたいな。「アヴちゃんがやるんやったらやるって言ってくれてる」って聞いて、「えっ、そんなん絶対出るやん!」って思いました。
“犬王そのものとして、そこに在る”
――仲良しなおふたりですから互いが演じる犬王・友魚をイメージできる部分もあったと思いますが、実際お互いの芝居から感じたことがあればお聞きしたいです。
森山 僕は思った通りというか。“犬王そのものとして、そこに在る”みたいな。役柄的にも、僕が演じた友魚は志を共にしながらもやはり犬王のエネルギーに引っ張られていく存在なんですけれど、まさしくレコーディングでも僕は引っ張ってもらいました。アヴちゃんは音楽の面で本当にチアリーダーで(笑)。
アヴちゃん 「Go! Yeah! Future! Future! Go! MORIYAMA Future Go!」って(笑)。
森山 僕がブースに入って、窓越しに湯浅さんとか大友さん(本作の音楽を担当した大友良英)がいるわけなんですけれど、その真ん中にアヴちゃんがいますからね。
アヴちゃん 鎮座しておりました(笑)。
森山 マイク越しに聞こえてくる言葉は、基本的にアヴちゃんからのやりとりで。
アヴちゃん 「どう思う~?」「いいと思う!」「でももっとやれるよね?」って感じでした(笑)。
――妹誌の『GIRLS CONTINUE vol.8』でアヴちゃんの単独インタビューをさせていただいたとき、「眉間で歌って」とディレクションされたとお聞きしました。
アヴちゃん うん、「歌は喧嘩だから!」って。
森山 あはははは! そうそう。「眉間で」っていうのと、あと「目は瞑らないで」って言われて。
アヴちゃん 「喧嘩は目瞑らないでしょ?」って。
森山 「ガンつけろ」って(笑)。ある種、閉じて出すんじゃなくて開いて出す。高い音を出そうとするときにどうしても苦しくなるから目を瞑りがちになっちゃうんですけど、「瞑ったらあかん!」って言われて(笑)。
アヴちゃん でもそれ多分、瞑ってるところ実際は見えてなかったから。だってモニター映ってなかったもん。怖いやろ~~ !(笑)
森山 うわ、そうやわ! ほんまや、すごいわ!
アヴちゃん 声でわかるもん!
――森山さんの友魚はどう感じられました?
アヴちゃん 私は最初、「どういうふうなイメージやろ?」って思ったんですけど。友魚って思っていることはめっちゃ多いんだけど、言葉は実際そんなに多くなくて。“投げつけていく”っていう感じがそんなに多い子じゃなかった。でも犬王と出会って心が開いていって、最後の友魚の感じとか、本当にすごいなと思って。陰と陽、静と動って言うと簡単なんですけど、すごくそのグラデーションの中で良い色としてお互いが在ったなと思います。
しかも私、練習のときにその最後のものすごい演技を至近距離で浴びることができたんです。それで「あ、ここまでやっていいんやな」って思えて。訴えて、投げつけていいんだなっていうことをすごく感じました。逆に歌の部分は、私がすごく得意なので。そうやって引っ張られ、引っ張りっていうところがありましたね。
――森山さんがアヴちゃんに引っ張られたところも?
森山 もちろん、ありますね。最初、芝居パートでお互いのピッチみたいなものを確認する時間があって。
アヴちゃん 調律するみたいなね。
森山 アヴちゃんはすっごくクリアに音が乗る。幼少期と大人期の声の使い分けとかもすごい。声が七色なのはもともと知っていたので、「やっぱり素晴らしいなぁ」と思いながら、とはいえ僕もそれに乗っかったらあかんし乗っかれないから。僕は僕の友魚のトーンを、アヴちゃんの犬王を見ながら作っていかないとな、という感じでした。
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※この続きは、現在発売中の『CONTINUE Vol.77』にてお読みいただけます。
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映画『犬王』
謎に包まれた実在の能楽師・犬王をモデルに大胆な解釈でストーリーを紡いだ古川日出男の小説『平家物語 犬王の巻』を、唯一無二の世界観で独創的なアニメーションを世に送り出してきた湯浅政明監督がアニメーション映画化。主人公の犬王をアヴちゃん(女王蜂)、彼のバディで琵琶法師の友魚を森山未來が演じる。
全国公開中
声の出演:アヴちゃん(女王蜂)、森山未來、柄本佑、津田健次郎、松重豊
原作:「平家物語 犬王の巻」古川日出男著/河出文庫刊
監督:湯浅政明
脚本:野木亜紀子
キャラクター原案:松本大洋
音楽:大友良英
アニメーション制作:サイエンスSARU
配給:アニプレックス、アスミック・エース
公式サイト:劇場アニメーション『犬王』
公式Twitter:@inuoh_anime
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