旧統一教会2世はいま何を思うのか。旧統一教会、現在の世界平和統一家庭連合を巡り、政治家との関係や、改めて霊感商法などの問題が表面化した。本稿では、長年この問題を追い続けてきたジャーナリストの鈴木エイトさんとともに、旧統一教会に入会した親を持つ2世の方の話を聞きながら、その実情と苦悩、そして今後の課題について議論する。
旧統一教会2世が子ども時代に見たもの
── きょうはスタジオにも、旧統一教会の2世の方にお越しいただいております。黒沼クロヲさんです。
黒沼 よろしくお願いします。
── 黒沼さんはいまはどういった生活をされているのか、言える範囲で教えてください。
黒沼 私はバンドなどの音楽の活動をしていまして、フリーでビデオカメラマンの仕事をしながら生活しております。
── 旧統一教会の2世ということですけれども、1世にあたる親との関係性はどうなっていらっしゃいますか?
黒沼 少し険悪だった時期もあるんですけど、いまはすでに親は脱会しております。ただ、旧統一教会の話がちょっとタブーというか、触れづらい状態で。関係性としては、そこまでは悪くはないですけれども。
── 親御さんも、いまは脱会されてるんですね。さかのぼって伺いたいのですが、黒沼さんは、いわゆる「祝福二世」、生まれたときから2世だったんですか?
黒沼 はい。生まれたときから祝福二世と言われて育ってきました。
── ご両親は、合同結婚式で結婚されたんですか?
黒沼 ソウルの合同結婚式で結婚したと聞いていますね。各国からの信者が集まっていたそうですが、日本人は結構な割合でいたそうです。
── エイトさん、改めて合同結婚式とはどういったものなんですか?
エイト はい。入信した信者が「蕩減条件」と呼ばれるいろんな修行を積んで、いろんな条件を達成して、たとえば信者を何人勧誘するとかした上に、ようやく受けられるのが合同結婚式=「祝福」ってことなんですね。
合同結婚式で聖酒、聖なるお酒を飲むんですけれども、それによってすべての原罪が浄化され、清い体になって相手と結ばれて。いろんな儀式があるんですけど、初夜の儀式とか体位の指定とか、それらを経過して最終的に生まれた子どもが、原罪のない神の子、「祝福二世」ということです。
── 初夜と体位。どんな手続きで性交を行うかということも、決められているのですか?
エイト そうなんです。四つん這いになって、こん棒でお尻をドンと叩いてサタンを出すんですね。そういう儀式のなかで、体位が全部、初夜はこういうかたちでとか、次の日はこういうふうにとか、全部決められてるんです。
── 純潔教育に限らず、そこまで厳格に性愛がコントロールされているのですね。黒沼さんは、生まれながらにして2世ということですと、教義上は、「原罪が払われた状態で生まれてきた」と語られてきたのでしょうか?
黒沼 というふうに聞いてるんですけれども、かなり厳しく、怒られながら育ってきました。
── 物心ついた頃から、宗教とともに生活されていた。日常のなかでは、宗教とはどういうふうに関わっていたんですか?
黒沼 通学が始まって、ほかの人の家庭とは違うんだなっていうのが多々ありました。友達ができて遊びに来たときに、文鮮明教祖の写真がドンて飾ってあるのを見られて、「これ誰?」「真のお父様だよ」みたいなことになったり、噂をされて、いじめに発展してしまったりとかありました。
── 友達が来たときに驚かれるっていう。
黒沼 そうですね。それが一番多かったですね。
── 逆に、友達の家に行ってカルチャーショックを受けることはあったんですか?
黒沼 やっぱり教祖の写真がないっていうところが一番大きかったですね。
── あるのが当たり前だと思っていた。
黒沼 そうですね。
── 学校行事や学校での生活には、苦労などはなかったんでしょうか?
黒沼 そこについては苦労はないんですが、やはり礼拝があって、日曜日はもっとゆっくり寝ていたいのにな、みたいのがあったりとか。そういうのはありました。
── 礼拝というのは、どういったものなんですか?
黒沼 私は少し特殊なかたちで、教会には通ってないんです。同居している祖母の身体が不自由だったので。家庭内礼拝というかたちで、家族で集まり、父親が説教して、いろいろ教義を教えられました。
── 教義というのは、たとえば、どういったものを教わるんですか?
黒沼 基本的には、旧統一教会の宗教の聖書に従って、こういった解釈でこういうふうに受け取るべきだというものを、いろいろ教えられるんです。難しい分厚い本とか聖書とかがありました。具体的にと言われると、私は熱心な2世信者ではなかったので忘れてしまっていますが。
── 特に印象的なものはありましたか?
黒沼 そうですね。基本的にキリスト教の聖書が母体にはなってるので、あまり大きくは変わらないところはあるんですけれども、やっぱり婚前交渉。結婚前の性交渉については厳しかったと記憶しております。それは絶対にいけないと教えられてきました。
── 一般的な旧統一教会についての理解ですと、性教育に対しては消極的だという認識があるんですが、ここについてはどうでしたか?
黒沼 そうですね。性教育については、そもそも性の香りがするものを排除するようなかたちで育てられていて。テレビだったり、漫画だったりアニメだったりとか、流行ってるものを見たいんですけれども、ちょっとでも性表現があったりとかするとダメですよと検閲を受けました。
── 性の香りがするものはアウト。そこには教義に加え、家庭ごとの判断もいろいろありそうですが、黒沼さんの場合は、どういうところからアウトとされていたんですか?
黒沼 やっぱりどんな作品でも恋愛要素って出てくるので、キスぐらいはいいけど、ベッドシーンが絡むともうダメだよ、みたいなところが多かったですね。
── 映画とか見てると、ベッドシーンはざらに入ってきますよね。
黒沼 ありますね。消されることもありましたし、ギリギリ許されたのが、『水戸黄門』の由美かおるさん。あれは許されました。
── 入浴シーンや悪代官への色仕掛けはセーフだった。
エイト 『ドラえもん』のしずかちゃんはどうでしょうか?
黒沼 しずかちゃんは大丈夫でした。
── エイトさん、家庭によっても違うんですか?
エイト どうですかね。基本的に性の香りがするのは一切NG、と聞くことが多いですね。また、恋愛感情を抱いたときには、かなり強烈に制限をされる、と。
── そのほかのタブーはありましたか?
黒沼 暴力的なものは検閲されていて、学校で流行っていたようなアニメや漫画、ゲームが禁止されていたので、話にはついていけなかったです。
── なるほど。また、性的マイノリティの人権などはどうでしたか?
黒沼 性的マイノリティに関しては、やっぱり両親ともにあまりいいことは言っていなかったですね。同性愛についてもタブーでした。もし旧統一教会2世の方でそういった方がいたら、どう生きていけばいいんだろう、っていまでも思いますね。
── 性的マイノリティ当事者ですと、「自分は禁じられた生き方をしてるんだ」と、抑圧されてしまうことになりそうです。また、いま献金の問題がよく指摘されますが、この点はいかがですか?
黒沼 家族全員脱会したのが私が10代後半の頃だったんですが、それまで家庭内礼拝で、小さい私からも献金を集めるんですけど、献金のためのお小遣いが……。
── ええと、ちょっと待ってください。子どもも献金するんですか?
黒沼 そうですね。大きめの貯金箱的なものがありまして。それで献金っていうのをするんだよって教えられるんですよ。それが必要なことなんだよということで、献金のためのお小遣いを渡されて、それを献金するっていう謎の行いがありました。
── 一旦お小遣いを渡すけど、献金として回収される。献金することはいいことだという価値観を学習させられるわけですか?
黒沼 私はされてましたね。
── 自分のお小遣いは残るんですか?
黒沼 いや。そもそもお小遣い制度があまりなかったので、私の家は。不良2世の私は、献金箱から数百円ちょろまかして駄菓子屋なんかに行ってました。
── 献金の学習のための、形式的なものだった。
黒沼 そうですね。ただ、先ほどエイトさんも霊感商法のお話をされていたと思うんですけれども、私の知る限りではかなりの被害額を、一般家庭ではちょっと収まりきらないような額を、うちは抱えていましたね。
── それなりに献金というのを行っていた。
黒沼 そうですね。
── ちなみに金額はどのくらい?
黒沼 えっと、大体数十億円ですね。
── 数十億!
黒沼 数十億。私の推定ではあるんですけれども。そういったことを両親は話してはくれないので。私の家は地主なんですけれども、先ほどおっしゃったように、土地を担保にというかたちだと思うんですが、それぐらい。
エイト 登記情報を調べたら、抵当が付いていたってことですよね。
黒沼 はい。
── なるほど。それだけ献金し続けていると、旧統一教会ではそれなりの地位にはなっていくんじゃないですか?
黒沼 おそらくそうだと思います。なので、本当は実際に教会に行かないと、ちゃんと通ってないじゃないか、っていうふうに言われるはずなんですけれども、うちはその献金があったので、何も言われませんでした。
── 例外的に。だから、お家のなかで礼拝するというかたちだったんですね。
黒沼 そうですね。
── そのほかの社会奉仕活動や集会への参加などの義務はいかがですか?
黒沼 私は一切なかったんです。ただ、ほかの家と違うなっていうのに気付き始めてから、衛星放送で旧統一教会の情報をキャッチする専用のパラボラアンテナが家に設置されたりとか、山のように積み上がった箱の高麗人参とか、大理石の置物みたいなものとかもたくさんありまして。変なものが増えてるなっていう印象がありました。
── なるほど。ほかの信者の方と違って、たとえば選挙活動のときに動員されたりとかいうことはなかったんですか。
黒沼 それが私はまったく経験がなくて。まわりにも旧統一教会2世は数人いたんですが、彼らはしっかりと教会に通っていたので、その輪にもなじめなかったです。本来、2世はそういう活動をしなきゃいけないというのを、あとあと知っていくという。
── いまはご両親も、黒沼さんも脱会されていますね。一緒に脱会したんでしょうか?
黒沼 そうですね。先ほど被害額数十億と言ったんですけれども、やはり父を中心に、教会に対して不信感を抱いて、教会から取り返せる範囲で取り返すように働きかけたので、その動きがあってから、自然にフェードアウトしていったかたちです。
── 取り戻した部分もあると。
黒沼 取り戻した分を差し引くと、実際の被害額は数億円だとは思います。
エイト 入信していた時代に返金の交渉をして、その過程で脱会にも至ったっていう。
黒沼 はい、そうですね。
エイト ちょっと珍しい例ですよね。
── これは脱会の前に、疑問を抱くタイミングがどこかであったということですよね。
黒沼 おそらくはあったと思います。
── しかしそれは、やっぱりお父様のことなので、踏み込んで聞くことが難しい。
黒沼 そうですね。時期的には2000年代頭ぐらいだったと思いますね。
── 脱会だということになったら、いままであった習慣が、家庭内でパタリとなくなるわけですか?
黒沼 いや、だんだんなくなっていくみたいなかたちでした。父親が絶対的に教義を教えていた側なので、権力を持っていましたね。家庭のなかでもパワーバランスが、どんどんどんどん父親が強くなっていくんですね。なので、もう家庭内礼拝をしないよということになっても、私たち家族は一切、何も言えなかったです。従うしかなかったですね。
── 価値観はどうでしょう。ある種のタブーみたいなものもなくなったんですか?
黒沼 それが、教会への不信感はあったけれども、学んだこと、教義は間違っていなかったということで、婚前交渉に否定的であるとかは変わらなかったですね。
── 教団から離脱はしたが、教義は残るというような方もいらっしゃるんですね。お父様の場合は、それに近かった。
黒沼 そうですね。母もいまだにそうですね。
あの事件を起こしたのは、自分だったかもしれない
── 脱会後は、旧統一教会の話はあんまりされないという話がありました。安倍元首相銃撃事件があったときには、親や誰かと語り合いたいところはあるんじゃないでしょうか?
黒沼 ものすごくありますね。事件を見たときに、あの事件を起こしていたのが私でもおかしくはなかったな、と考えてしまって、自分を重ねてしまっていました。
エイト 山上容疑者との違いはなんだったと思います?
黒沼 私の家はあそこまでの家庭崩壊には至ってないんですけれども、やっぱり救いがあったかどうか、何か頼れるものがあったかだと思います。私はこれはしちゃいけない、あれはしちゃいけないというふうに育てられましたけれども、そのなかでも、自分にとって大丈夫な娯楽を見つけることができたので、それで救われたんだと思います。
エイト よりどころになるものがあった。
黒沼 ありました。それが、このTBSラジオやラジオから流れる音楽だった。
── ラジオを聴いていた?
黒沼 ラジオが大好きで、一番聴いてたのはTBSラジオでした。テレビが見れなかったので、夜中にラジオをコソコソ聴く習慣がありました。
── 「JUNK(*お笑い芸人がパーソナリティを務めるバラエティ番組)」とか。
黒沼 「JUNK」、聞いてました。それこそ荻上チキさんも出られていた「Dig(複数の論客が日替わりでパーソナリティを務めていたニュース番組)」とか。
── 「Dig」の頃から!
黒沼 初回放送を聴いています。
── 本当ですか。嬉しい。「Dig」のときにも、カルト2世の話を取り上げていたのですが。
黒沼 そうですよね。だから自分のなかではタイムリーだったという。
── あの番組を聞いていた方のなかに、黒沼さんがいたとは……。
黒沼 嬉しいです。
── こちらこそです。でも、こう言うのもあれですが、「JUNK」とか「Dig」とか「Session」とかを聴くのは、教義上は良くないのではないですか?
黒沼 そうですね。
── 私は「性教育しましょう」って言うし、「JUNK」は下ネタも多いし。
黒沼 多いですよね。だからなんか、やっぱりコソコソ、僕が勝手に摂取できるエンタメということで、隠れて聴いていました。本来はダメなのもわかってるからこそ、余計に面白くて、のめり込んでしまいました。
── 確かにテレビだと検閲されやすいけど、ラジオをイヤホンでこっそり聴くっていうのは、逃げ道というか、抜け道だったのか。
黒沼 「困ってる2世よ、ラジオを聴け!」と言いたいですね。
エイト 素晴らしいですね。
── いまだとスマホもありますよね。使わせてもらえないところもあるかもしれないけど、使える人もいる。よく聞くのが、スマホを持つ頃になって自分の教団名を検索すると、ひどいことが書かれていて、疑問を抱く。そこで教義や教団への疑問が湧いてきた、という話はよく聞きますよね。
エイト そうですね。SNSで同じような境遇にある2世とつながるとか、いろいろ広がりが出てきますよね。
── 事件の話に戻りますが、黒沼さんは、ご家族とこれから話したいと思っていることはありますか?
黒沼 やっぱり家庭崩壊に至るというのは、貧困の問題が絡んでくると思うんですけれども、もしうちが実際にそこまでになっていたら、母親はどこまで旧統一教会についていくつもりだったのか。父がもしそのまま旧統一教会に不信感を抱かないまま教会に残っていたとしたら、そこで離婚を考えたのかどうか、ちょっと聞いてみたいなとは思っていますね。
── 「もしかしたら自分も」と考えるならば、どこかに戻れなくなったタイミングがあったかもしれないと。
黒沼 どこまで子どもを巻き込むのか、というところを聞いてみたいですね。
── エイトさんは黒沼さんのケースについて、「脱会する前にお金を取り戻すのは珍しい」と相槌を打たれていましたが、交渉での返金というのは珍しいのでしょうか?
エイト そうですね。脱会したあとに教団に対して返金の交渉をしたりとか、訴訟をしたりとかというのが、通常だと思うんですけれども、入信されている頃から疑問を持って返金を求めたという例は、あまり聞いたことがなかったですね。
── しかもお父様の場合、かなり熱心に家庭内宣教をしていて、それなりの地位にあった方でした。これまた珍しい。
エイト そうですね。でも、かなり高額なお金を収奪されてきたということで、どこかでおかしいなって思ってたと思うんですよね。それがどこかの段階で、せきを切ってあふれたのではないかと思いますね。
── ちなみに黒沼さん、『世界日報』などの関連媒体というのは、ご実家にありましたか。
黒沼 あったと思いますね。ただ私はあまりこれを読めとは言われなかったので、知ることはなかったんですけれども。文鮮明がいかに聖人かという伝記漫画みたいなものを渡されたくらいでした。
── なるほど。取り立てて気にすることでもない原風景だった。
黒沼 そうですね。
── それが友達との交流や往来で、「おや?」って。
黒沼 あれ? 「あるある」じゃないって。
── ある種の「あるある」だと思っていたことが、「ないない」だったと。
黒沼 そうですね。
(初出:TBSラジオ「荻上チキ・Session」2022年9月8日放送分「シリーズ・宗教2世を考える~ジャーナリスト・鈴木エイトさんの取材報告」)
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本書『宗教2世』(2022年11月25日発売)では、TBSラジオ「荻上チキ・Session」の全面協力のもと、選べなかった信仰、選べなかった家族、選べなかったコミュニティ、そして社会からの偏見に苦しんできた2世たち1131人の生の声を集め、信仰という名の虐待=「宗教的虐待」(スピリチュアル・アビュース)の実態に迫っています。
筆者について
おぎうえ・ちき 1981年、兵庫県生まれ。評論家。「荻上チキ・Session」(TBSラジオ)メインパーソナリティ。著書に『災害支援手帖』(木楽舎)、『いじめを生む教室 子どもを守るために知っておきたいデータと知識』(PHP新書)、『宗教2世』(編著、太田出版)、『もう一人、誰かを好きになったとき:ポリアモリーのリアル』(新潮社)など多数。