酒場と生活
第4回

赤坂「赤ちょうちん ぶらり」の「角こんにゃく」

暮らし
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ライムスター宇多丸さんのTBSラジオ『アフター6ジャンクション2』にありがたいことに定期的にゲストとしてお呼びいただいているおかげで、近年、それまであまり縁のなかった赤坂の街を訪れる機会が増えた。僕のような場末者を受け入れてくれるような大衆店などあるのか? そんな赤坂にもそういう店は見つかって、行くたびに好きな店が増えていく。

ライムスターの宇多丸さんがパーソナリティーを務めるTBSラジオの人気番組『アフター6ジャンクション2』。ありがたいことに、その前身番組である『アフター6ジャンクション』時代から、定期的にゲストとしてお呼びいただいている。

ありがたいことにというか「信じられないことに」のほうがより正しいだろう。確かに僕は世に名前と顔をさらして活動しているライターだ。が、人より秀でたカルチャー知識などほとんど持ち合わせていない。ただ、酒が好きで、常時その感想をたれ流しているだけの男(今書いているこの連載もだ)。なので必然、ラジオの内容も毎回、まったく内容のない、ただその場その場の思いつき企画をもとにみんなで酒を飲むだけというものになる。他の立派なゲストの方に申し訳ない。

しかもいつからか、パートナーのなかでも屈指の酒好きアナウンサー、日比麻音子さんが出演する曜日に必ず呼んでもらえるようになった。この日比さんがまた、酒飲みとしても人間としても素敵すぎるのだ。飲みっぷり、名言率の高さ、人柄。加えて、飲み友達のライター、スズキナオさんとセットでゲストに呼んでもらうことも多く、毎回、全国ラジオの電波に、こんなに楽しいだけの飲み会の音声をのせてしまっていいんだろうか? と思いつつ、呼ばれればのこのこと出かけて行っている。

そういうわけで近年、それまであまり縁のなかった、TBSラジオのスタジオのある赤坂の街を訪れる機会が増えた。当然、せっかく赤坂まで行くのだから、ラジオの前にはどこかで軽く一杯引っかけていきたい。

初期のころは、駅前の「サイゼリヤ」が定番だった。赤坂の飲み屋事情をまったく知らないし、サイゼリヤならば間違いがない。けれども、何度かくり返すうち、ややマンネリになってきた。そこで、小一時間の前飲み時間に加え、街を徘徊してみる時間のぶん、家を早く出るようにし、ラジオ前の酒場探索とラジオ出演が、自然とセットになっていった。

すると、そもそも僕のような場末者を受け入れてくれるような大衆店などあるのか? と思っていた赤坂の街にも、ぜんぜんそういう店は見つかって、行くたびに好きな店が増えていく。

別格はとある雑居ビルの地下にある酒場「梓川」で、ここはもはや、ラジオ前にふらりと寄るなんてもってのほか。数日前からじっくりとコンディションを整えていかないともったいないくらいの、奇跡の名店だ。いつか別の機会に紹介させてもらいたい。

その他、串焼きの「小鉄屋」、立ち飲みの「なかや」、たこ焼きで飲める「ふくよし」、リーズナブルにそば屋酒ができる「つけ蕎麦酒場ぢゅるり」なども大好きになった。

なかでも最近訪れる頻度が高いのが「赤ちょうちん ぶらり」。ここは、ラジオのゲスト出演を見学に来てくれた知人編集者さんと「軽く飲んで帰りますか」という流れになって、しばらく街なかをふらついていて見つけた店だ。

まず立地がすごくおもしろくて、「センチュリオンホテル・グランド赤坂」という、デザイナーズホテルの地下にある。小洒落たホテルのエントランスの横に、まったく似つかわしくない「赤ちょうちん ぶらり」という看板が出ていて、本当にこの建物のなかにあるの!? と、違和感に興味が湧き、入ってみざるをえなかった。

階段で地下に降り、扉を開けるとそこは別世界で、完全に大箱大衆酒場。カウンター席、テーブル席、座敷席がそれぞれ豊富にあり、大勢の酔客でにぎわっている。その光景はまるで幻のようで、一気に興奮した。おじいさんがおむすびを穴に落としてしまい、その穴を覗くと、なかには豪華絢爛なねずみたちの世界があった、という昔話『おむすびころりん』を思い出したくらいだ。

料理も酒も、赤坂の一等地にあるホテルの地下にいるとは思えないほど安い。名物は長崎県の五島列島直送の食材を使った料理で、鮮魚類はもちろん、牛、豚、鶏も五島産だし、ご当地食材を使ったつまみや「五島うどん」など、料理も種類豊富だ。

それでいてお高く止まらず、「うすっぺらいハムカツ」「タンドリーチキン」「オマールエビのコロッケ」など、お客さんが喜びそうなつまみならどんどん取り入れてやれ! という姿勢が見てとれる。おかげで店内の壁が手書きメニューだらけで、楽しい。

先日も、僕の新しいエッセイ集『缶チューハイとベビーカー』をともに作ってくれた編集者の森山裕之さん(ちなみに、このサイト『OHTABOOKSTAND』の編集者でもある)と、この店にご一緒させてもらった。

まずは大好きな「ホッピーセット」(528円)で乾杯。

つまみは当然、五島列島直送の刺身「おまかせ3種」(990円)を頼む。この日は、マダイ、ハマフエフキダイ、アカハタ、というラインナップで、どれも旨味がしっかりとありつつ、新鮮さゆえの爽やかな香りがたまらない。

僕のお気に入りは「角こんにゃく(島こんにゃくカット煮)」(418円)。ひじきが練り込まれたこんにゃくがかなり濃いめの甘辛味に煮付けてあって、その歯ごたえがすごい。こんにゃくとは思えないほどに弾力が強く、噛みすすめると次第にもちもちとした食感になる。島こんにゃくを使った料理は他にも「島こんにゃくピリ辛炒め」(770円)「島こんにゃくの天ぷら」(440円)などがあり、ピリ辛炒めは食べてみたことがあるが、これもうまかった。次回は天ぷらだな。

薄切りをかりかりになるくらいまで焼いた「五島豚のバラ焼き」(660円)や、たっぷりの量が嬉しい「きびなご天」(440円)も好きだし、なんでもないような「もやし炒め」(385円)までちゃんと美味しいので参ってしまう。

しかしメニューがかなり膨大で、まだまだ気になる品がありすぎるので、今後しばらくは、赤坂といったらここへ通うことになってしまうかもしれないな。いやでも、他の店にも行きたいんだけど……。

最後に、さんざん飲んでまだ胃に余裕がある方は、ちゃんぽんの麺を使ったナポリタン、「チャポリタン」(605円)をシメにどうぞ。どう考えたって、さらに酒が飲みたくなってしまう味ではありますが。

*       *       *

『酒場と生活』次回第5回は2024年8月1日公開予定です。

筆者について

パリッコ

1978年、東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。酒好きが高じ、2000年代より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター、スズキナオとのユニット「酒の穴」名義をはじめ、共著も多数。

  1. 第1回 : 秋津「もつ家」の「モツ煮込み」
  2. 第2回 : 大泉学園「あっけし」の「火の鳥」
  3. 第3回 : 西荻窪「をかしや」の「練り切り」
  4. 第4回 : 赤坂「赤ちょうちん ぶらり」の「角こんにゃく」
  5. 第5回 : 新宿「モモタイ」の「ミニカオマンガイ」
  6. 第6回 : 池袋「梟小路」の「天ぷらそば」
  7. 第7回  : 上井草「やしん坊」の「馬さし」
  8. 第8回 : 大阪・鶴橋「よあけ食堂」の「エビエッグ」
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連載「酒場と生活」
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