Licaxxx連載「マニアックの扉」 第1回「ざっくりSFらへん」

カルチャー
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Licaxxxは、東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー、編集者、ラジオパーソナリティ。そんなLicaxxxの連載がワンテーママガジン「ケトル」にてスタートした。第1回目はいったい何について綴ったのか?

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記念すべき第1回となる「マニアックの扉」。まずは、私、Licaxxxが大きな声で好き! と言っている“ざっくりSFらへん”の扉を開きたいと思う。私は、映像作品を見ることが趣味だ(映画・ドラマ・アニメ・実験映像など形にはとらわれないのでこう言っておこう)。といっても本数を見ているとか、幅広く詳しいとかではない。現在の得意ジャンルが“ざっくりSFらへん”なのだが、近親者から英才教育を受けてもいない私はそこに辿り着くまで時間を要したし、ちょっと亜流な辿り着き方をしている。それは、日本のSFの流れに詳しい人が俯瞰で見ると、ある種必然なのだけど……一見ばらつきがあると思っていた作品たちが繋がって、私は大きくこの扉を開くことになった。

まったくバラバラに見える映像作品の遍歴

両親の影響で、物心つく前から織田裕二を刷り込まれ、気付けば新作映画と再放送を待ちわびる存在となっていた作品が本広克行監督の「踊る大捜査線」シリーズ。小・中学校時代は何でも見ていたが、ドラマや邦画で初めて好きと認識した作品だ。スリリングな事件とコメディ要素のバランスに子どもながら虜になった。片や洋画ではBSの「スター・ウォーズ」シリーズ一挙放送で深く考えずにSFと初接触と言ったところだ。

しかし、高校時代に好きだったのはアングラとサブカル。谷崎潤一郎や安部公房の文学にハマっていた私に、先輩が紹介してくれたのが寺山修司の映像作品であった。脳裏に焼きつくような映像表現と強烈なモチーフの裏に、時間軸を超えて投げかけられるテーマ、自分が自分であるための葛藤に私も悩まされた記憶がある。また、ここで時代的にも年齢的にも、大人になって見るアニメに抵抗がなくなり「マクロスF」に出会う。そうして何とはなしに日本のSFアニメ面白いかも……という流れで「攻殻機動隊」シリーズに高校卒業あたりで出会うのだ。神山健治監督による「攻殻機動隊 S.A.C.」からスタートしたのだが、回を追い、「笑い男事件」に繋がった頃には寝る間も惜しんでアニメシリーズを制覇、映画などの関連作品も立て続けに見た。10年前の(なんなら原作に関しては私が生まれた1991年に出ている)アニメで、未来を考えさせられる感覚には単純に驚いた。

ここからは“サイバーパンク沼”。このジャンルにカテゴライズされる作品を片っ端から見るようになり、押井守監督肝入り(だと私は思う)『機動警察パトレイバー 2 the Movie』に出会う。「戦争はもう始まっている」という台詞が特に印象深い。日本でテロが起きた先の警察・政府・自衛隊の混乱や、自分たちの求めている平和とは何なのか? という問いを、まさに今自分の住む世界の問題として突きつけられた。今でも私の中で最も好きな映画として掲げる作品だ。

自分に起きたSFのような出来事

これで私の大きな3軸が登場した。寺山修司、押井守、本広克行。

ここまではそれぞれの関連作品を追うところまで。監督自身が影響を受けたものなどは勉強できていなかった。しかし、「新世紀エヴァンゲリオン」を見た際、「踊る大捜査線」の会議室のシーンの音楽に似たものが出てくることに即座に気が付く(ここだけは我ながら音楽を生業にしている者っぽい。実際は本広さんがエヴァが好きで許可をとって制作したものらしい)。それまで、私は実写とアニメをどこか別物と捉えていたが、「踊る大捜査線」シリーズを“そういう目”で見返してみる。キャラ各々の要素がはっきりしていて、署内で起こる日常が事件になったり、現代の問題が反映された過去に例のない事件が舞い込んだりする。事件の複雑さと時代性、国家権力を有する組織内での正義を問う衝突や青島刑事のパンク精神に魅了される。……これってもしや「機動警察パトレイバー」の? いつか直接聞いてみたいなあ、なんて言っていたら、なんとラジオ番組でのインタビューが実現。本広さん自身も、押井さんの作品に多大なる影響を受けているということを知った。そして、押井守監督作『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の存在を本広さんから教えてもらうことになるのだ。

正直このときまだ、関連作品の中で「うる星やつら」は手をつけていなかった。しかし見たらこの作品には特にわかりやすく、寺山修司がよく使うモチーフやオマージュが登場するのだ。よくよく調べると、押井さん自身が実際にインタビューでそう言っていた。

ということで、私にとって重要だった3つ全てが遡る形で繋がってしまった。もちろん、日本のSFの流れを俯瞰できていたら繋がる必然性はあるものの、私の中で無意識的だったこの偶然は、自身に起きたSFかと思うような衝撃だった。それが現在、DJがレーベル単位で曲を探すごとく、Production I.Gの作品を常にチェックし続けたり、新作旧作問わず作品を見るまでに到達した要因である。

“ざっくりSFらへん”その扉を開いた向こう側

さて、私のマニアックな探究心はもちろんそこで終わりはしない。むしろ深まっていくばかり。勝手に足を突っ込み、もう抜けられないなら貢献していきたいと図々しくも思っている。たとえば、ギークな視点から未来を読む、SFを見るのではなく、もっとライトに、社会学的観点や内容についての外的アプローチはあまり見たことがないように思う。テロの可能性の現実味が浮き彫りになり、震災による自然の脅威と政府の混乱を目の当たりにした時代、平成が終わった。来年は大友克洋監督の『AKIRA』ならネオ東京が建設されているはずの年である。そんな今を生きながら、新しいSF作品を作る監督たちはそれぞれの方向で新しい挑戦をし続けている。映像技術もそうだし、SFだけではない演出や表現を追求したエンターテインメントの創出もそうだ。では、彼らは今、何を見せるべきだと思っているのか。それは作りたいもの、作っているものと合致しているのか。現在の興味は何なのか。音や音楽の表現については……?

それをまとめて聞くためにやはり総本山、いや、“本店”であるProduction I.Gに潜入捜査したい(私欲が滲み出てしまっているのはご愛嬌)。私の“ざっくりSFらへん”の扉のきっかけにして、現在、新作制作中とされる「攻殻機動隊」アニメシリーズ。そこに、個人的には欠かせない存在、神山さんにもお会いしてみたい。“ライトな”社会学的な話をあらゆる方向からストックしておくのも悪くないんじゃないか、と思っている。

■注釈

踊る大捜査線シリーズ:
2003年公開の劇場版第2作は、それまで20年間破られなかった日本実写映画の動員及び興行収入記録を塗り替えた(動員1260万人、興行収入173.5億円)。ジャンルとしては「刑事ドラマ」だが、シリーズ全体を通して事件を追うだけでなく、本庁と所轄の対立や職場での描写などをとり入れているのが特徴。そこから、織田裕二演じる主人公「青島俊作」以外にフィーチャーしたスピンオフ作も数多く生まれている。

『機動警察パトレイバー 2 the Movie』:
ゆうきまさみ、出渕裕、伊藤和典、高田明美、押井守によるクリエイター集団ヘッドギア(現HEADGEAR)の原作・企画で誕生し、メディアミックスアニメの先駆けとなった、機動警察パトレイバーシリーズ。その中で本作には、公開から数年後に起きた現実の事件を髣髴とさせる描写が作中に登場する。その出来すぎるほどの先見の明を感じさせる映画として再評価される1本。

『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』:
後に「ループもの」と呼ばれるようになるジャンルの要素を取り入れた、日本アニメにおける最初期作。高橋留美子の大人気漫画『うる星やつら』が原作の劇場版第2作目だが、現実と虚構が曖昧になるという押井守監督の作家性が色濃く反映されている。なお、原型ともいえるエピソードが、彼がチーフディレクターを務めていた時代のテレビシリーズ・第101話「みじめ!愛とさすらいの母!?」。

◆ケトルVOL.49〈2019年6月15日発売〉

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。
 

筆者について

Licaxxx

りかっくす。DJ、ビートメイカー、編集者、ラジオパーソナリティ。2010年にDJをスタート。マシーンテクノ・ハウスを基調にしながら、ユースカルチャーの影響を感じさせるテンションを操り、大胆にフロアをまとめ上げる。イベント出演のほか、ビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」の主宰、アンビエントを基本としたファッションショーの音楽など多数制作。

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