仕事を始めたばかりの編集者が、つまづきがちな「著作権」。肖像権、引用作法、美術や音楽の著作物性、著作物使用料、アイディア、新聞、広告の利用、保護期間、二次利用、送信可能化権、著作物利用契約、出版権設定契約……。書籍や雑誌の編集者は、多種多様な著作物を正しく取り扱う必要がある。著作権の、その「中身」とは……?
*この記事は、現在発売中の『新版 編集者の著作権基礎知識』から一部を転載したものです。
著作権は権利の束である
著作権の客体となる「著作物」について述べ、著作者の権利は著作者人格権と著作権のふたつの柱からなると説明した。ではその著作権と呼ばれるものの中身は何なのか。【表3】に記したが、財産権としての著作権は、著作権法21条から28条に規定される11の権利から構成されている。これらの個々の権利を「支分権」と言い、著作権とはこれら複数の支分権の束でできている。その権利の中身を、順を追って簡単に押さえておこう。
複製権 まずは一番大事な複製権。複製する、コピーする権利。著作権を英語でコピーライトというくらい、複製権は著作権の根幹である。著作権法では複製とは「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」(2条1項15号)と定義されている。「有形的に再製する」に注意。放送や演奏といった無形の再生は複製ではない。司法判断では「著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することを言う」(ワンレイニーナイトイントーキョー事件1978.9.7最高裁判決)とされている。「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。」(20条)。
上演権および演奏権 次に言語の著作物の権利としての上演権と、音楽の著作物の権利としての演奏権が来る。「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。」(22条)。上演とは演奏(歌唱を含む)以外の方法により著作物を演ずること(2条1項16号)を言い、「公に」とは公衆に直接見せ又は聞かせることを目的とすること、「公衆」とは「特定かつ多数のものを含むもの」(2条5項)を言う。つまり不特定者はもちろん公衆だが、特定多数も公衆であるということで、公衆ではないのは「特定少数」だけになる。一人で、あるいは特定少数を前に、個人的に歌ったり演じたりすることは演奏・上演ではない。
上映権 著作物を映写幕その他のものに映写することを上映というが、「著作者は、その著作物を公に上映する権利を専有する。」(22条の2)。上映権はかつて映画の著作物だけが対象だったが、現在はすべての著作物が対象になった。
公衆送信権については、節を改めてあとで述べよう。
口述権 口述つまり「朗読その他の方法により著作物を口頭で伝達すること」に関して、「著作者は、その言語の著作物を公に口述する権利を専有する。」(24条)。
展示権 これは美術の著作物とまだ発行されていない写真の著作物に関する権利だが、「著作者は(中略)これらの現作品により公に展示する権利を専有する。」(25条)。著作者(著作権者)は展示の権利を持っているが、その権利と、その美術の著作物を買い取った者(所有権者)がそれを展示する権利との関係に関しては、権利の制限規定によって調整されている(45条)。
頒布権 頒布という言葉は譲渡又は貸与を意味するが、頒布権という権利は映画の著作物だけを対象にした権利。その他の著作物に関しては、譲渡権、貸与権を規定している。「著作者は、その映画の著作物をその複製物により頒布する権利を専有する」(26条)。
譲渡権 単純な言い方をすれば、著作物の複製物を他人にたくさん有償無償で譲り渡す権利。映画の著作物以外の著作物を対象とする。「著作者は、その著作物をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。(括弧書き略)」(26条の2)。公衆に提供ということは、特定少数者に提供することは譲渡権の行使ではないということ(2条5項)。またこの条の第2項では、一度適法に譲渡された著作物にはこの規定が適用しない、つまり著作権者の権利は消滅すると定めている。これを譲渡権の「消尽」という。
貸与権 譲渡権と並んで映画の著作物以外を対象とする権利。これも単純な言い方をすれば、著作物の複製物を他人にたくさん有償無償で貸し与える権利。貸しレコード業の隆盛(1984)、レンタルブックの隆盛(2004)によって創設された。この権利も「公衆に提供﹂だから、特定少数者に提供することは貸与権の行使ではない。「著作者は、その著作物をその複製物の貸与により公衆に提供する権利を専有する。」(26条の条の3)。
著作者はその著作物を二次的に利用する(翻訳し、編曲し、変形し、翻案する)権利を専有し(27条)、またその権利を使って新たに出来上がった二次的著作物の利用に関して、その二次的著作物の新たな権利者と同一の権利を専有する(28条)。
公衆送信権、自動公衆送信、送信可能化権
さて支分権のひとつ、公衆送信権だが、デジタル化、ネットワーク化が急速に進展するにつけ、この権利の重要性が増し、著作権を有する側にとってはもちろんのこと、編集者を含むその著作物を利用しようと考える側にとっても、この権利の正確な理解が重要なものになってきた。
インターネット技術のなかった1970年の現行著作権法制定当時、この種の権利は「放送権、有線放送権等」という形で定められていた。著作物の放送・有線放送に関わる権利規定だったのである。ところがインターネット技術の発達につれ、放送とは別にネットを使った送信の権利という課題が生じ、平成9(1997)年の著作権法改正で、「放送」、「有線放送」に「自動公衆送信」が加わり、それらをまとめる上位概念として「公衆送信権」という新しい権利が誕生した。その公衆送信とは、「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うことをいう。」(2条1項7号の2)と定義され、放送とは「公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信」、有線放送とは「公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信」とされた。そしてネットを使った送信のうち、公衆を対象として自動的に行われるものを「自動公衆送信」と名付け、「公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの」としたのである。
公衆送信権は、放送、有線放送、自動公衆送信、そして著作権法には規定がないが、自動でない公衆送信、つまり公衆を対象とした手動等による送信、クリッピングサービスや一斉メールといった、ファックスやメールによる一斉送信の権利の4種の権利からなることになる。
この権利が著作者の専有するものとされた(23条)。他人がその著作物をネット上で公衆に向けて送信するには、著作(権)者の許諾を要することになった。
そのような公衆に向けて、インターネットを使って自動的に著作物を送信する権利=自動公衆送信権が著作者の権利となったと同時に、公衆からの求めに応じていつでも送信できるように、サーバコンピュータ上に著作物をアップロードしておくこと、つまり公衆送信の準備をしておく行為も、まだ実際に送信行為が行われなくても、その著作物を利用した行為として、著作者の権利とされた。これを送信可能化権という。
オンライン利用の権利は支分権の中で、このような位置づけになる。
ネット上での利用ということ
このように著作権の支分権の中に、自動公衆送信、送信可能化権を含み持つ公衆送信権というものが確立されてくると、他人の著作物を利用しようとする際に、もちろんそれが保護著作物であった場合には、著作権者の許諾を必要とするわけだが、そのためには、依頼する側が、どういった利用方法に対する許諾を得るのかをはっきりと認識・把握していなければならない。例えば複製、演奏、口述等の利用を企画し、権利者の許諾を得ようとする場合、その複製、演奏、口述等の利用許諾が必要なわけだが、もしその企画がネット上での利用つまり自動公衆送信の利用も含むものであったとすれば、権利者から複製、演奏、口述等の許諾を得るとともに、自動公衆送信の許諾も得なければならない。紙媒体での印刷だけを考えているのか、それともホームページやブログでの掲載も含むのか、演奏・上演ができればいいのか、それともその演奏・上演をネット上で展開したいのか、ということである。
その延長線上に、紙の書籍と電子書籍の関係もある。書籍の本体となる言語の著作物であれ、そこに掲載する美術・写真・地図等の著作物であれ、対象とするものが著作物であるのならば、権利者からその著作物のどういった利用方法に対する許諾を得なければならないか、利用者はそれをまず把握していなければならない。紙の書籍だけを考えているのであれば、複製と譲渡の許諾を得ればいいが、電子書籍も考えているのであれば、自動公衆送信の許諾も必要となる。それを把握していれば、対象が許諾を必要とするものかどうかの判断、あるいは権利者は誰なのかの考察、また許諾を得る手だて、利用に際しての権利者に対する心配りなどは、紙媒体でもオンラインでも変わりはない。
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『新板 編集者の著作権基礎知識』は2022年4月15日(金)より発売。A5版、256ページ、2,640円(本体2,400円+税)。なお、好評シリーズ“ユニ知的所有権ブックス”は、広告や動画・写真、商標の取り扱いなど、実務に沿った内容毎で1冊にまとめられ、太田出版より不定期に刊行されている。
筆者について
みやべ・ひさし。1946年東京生まれ。1970年、東京大学文学部倫理学科卒業、新潮社入社。以後30年間、書籍出版部、雑誌「新潮」編集部、雑誌「小説新潮」編集部で文芸編集者として作家を担当したのち、出版総務・著作権管理部署に異動、2009年著作権管理室長を最後に定年退職。日本ユニ著作権センターに勤務し、2012年代表取締役に就任。元日本書籍出版協会知財委員会幹事、元財団法人新潮文芸振興会事務局、元公益財団法人新田次郎記念会事務局長。
豊田きいち
とよだ・きいち。本名・豊田亀市。1925年東京生まれ。評論家。元・小学館取締役。小学館入社後、学習雑誌編集部長、週刊誌編集部長、女性雑誌編集部長、出版部長を経て、編集担当取締役、日本児童教育振興財団専務理事。日本雑誌協会編集委員会・著作権委員会委員長、日本書籍出版協会知財関係委員、文化庁著作権審議会専門員など歴任。著作権法学会会員、日本ユニ著作権センター代表理事。「出版ニュース」、「JUCC通信」、美術工芸誌、印刷関係誌などに出版評論、知的財産権・著作権論などを執筆。2013年没(享年87歳)。