編集者の著作権基礎知識「写真の著作権は誰のもの?」

新版 編集者の著作権基礎知識
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仕事を始めたばかりの編集者が、つまづきがちな「著作権」。肖像権、引用作法、美術や音楽の著作物性、著作物使用料、アイディア、新聞、広告の利用、保護期間、二次利用、送信可能化権、著作物利用契約、出版権設定契約……。書籍や雑誌の編集者は、多種多様な著作物を正しく取り扱う必要がある。編集者が最もつまづきやすいポイントの一つ、写真の再使用の際に気をつけるべきポイントとは……?

*この記事は、現在発売中の『新版 編集者の著作権基礎知識』から一部を転載したものです。

出版者と写真著作権者(カメラマン=写真の著作者と「編集」の争い)

公表済みの写真を再掲載 既発表の写真を他の出版物に再利用することが多い。いい写真は二次使用される。出版物に限らず、広告やテレビにも二次使用されている。その際、二次使用の写真の中に無許諾もの──写真の著作権者に無断で掲載──が混入するのである。その原因には、出版者側の、つまり編集者の、写真に対する「保管」と「所有」と「権利」の混同や「軽視」があると思う。編集者の勘違いをする2点──。

1 契約によって、権利の所在を定めた場合や、職務上の著作の場合は、写真の撮影者、つまり、シャッターをきった者が、必ずしも著作権者あるいは著作者にはならないが、特段の約束がなければ多くの場合、撮影者が著作者だ。ところが、編集者の中には、シャッターをきる者、即権利者と考えたくない者がいる。被写体や周囲の人間の貢献を勘案しないで、カメラマンが、権利をひとりじめすることが、釈然としないのだ。カメラマンは被写体に対してシャッターをきっただけではないかと考えたがる。編集者の自尊心からくる勘違いだ。

2 経験の浅い編集者は、著作権の制限規定に該当しないもの──権利処理の必要なもの──でも、一定の「写真」の場合、著作物と言えないのではないか、事実の伝達にすぎないのではないか、つまり、写真は被写体という外界に対して、シャッターをきっただけの写しではないかと考えたがる。権利者の存在しないものだと考えようとする。

出版者側の心の底にある、この2つの思いが、著作権法の読み違いを誘うように思う。そこで、SM写真二次使用事件(東京地裁・昭和61・6・20判決)の概要を紹介し、考えてみたい。以下、この稿は、前出の『知的所有権法基本判例<著作権>』(96ページ)、および『判例でわかる著作権』(日本著作権協議会編集、出版ニュース社、1991年)で損害賠償事件として紹介されたものを参考にして、現場の「編集者」を念頭において述べる。

カメラマンである原告をA、被告の出版者をBとしよう。ヌード写真家AとSM雑誌の発行者Bとの裁判。Aは写真の著作者。著作権者としてBの無断二次使用を著作権侵害として訴えた。Bのその写真の一次使用については問題はなく、その写真の二次使用での、無断使用を「不法行為」として、Aがクレームをつけたのである。
1 著作権使用料相当額の損害金
2 弁護士費用
の二つの合計額・1305万3500円を請求。

これに対しBは、

イ 社員である編集者が、主導的に関与して撮影が完了したものであるから、その著作権は、出版者側にあると反論。さらに、

ロ この場合の写真について、性欲を刺激して興奮させることを目的とした「公序良俗」に反するものであるから、著作権法が保護する必要のないものである。著作物として保護するならイの理由によって権利者は出版側だと主張。イとロのどちらかの理由によって、写真の複製掲載は、著作権侵害ではない、とした。

イとロと論旨は矛盾しているが、ここには編集者あるいは出版者が、写真著作物に伴う権利・利用権を考える際に、しばしばおちいりやすい典型的な「ものの見方」のゆがみが現われている。

判決は──。

a 編集者が、主導的立場にあったのは、企画や撮影の準備活動においてのものにすぎないとした。──筆者が付言すれば、企画はアイディアであり、アイディアに著作権なし。準備活動は著作権法では著作物の創作行為とは考えない。編集側の「お膳立て」は直接の著作行為とは言えない。著作行為とは 表現化の直接的アクションなのである──。

b これに対し、①アングルを定め、②独自の光量を工夫設定し、③一定のフォルムをねらってのシャッターチャンスをつかむ、などのAの行為は、その写真の制作に必要な思想・感情の表現活動と言える──表現化の直接の判断者、行動者として原告Aに、その写真の著作権あり(96ページ)。という判示であった。

写真著作権者の権利

写真の著作権の帰属が単一のカメラマンだとしても、場合によっては、労力や経済の提供者としての出版者側=編集者の発意や責任を評価して、出版者側にも権利に参加させてよいのではないかという意見がある。しかしこれは契約の問題だ。

この裁判で、Bは、①編集者の主導的役割の重さ、②出版者の費用負担の大きさを主張して、その著作物の著作権はカメラマンではないと抗弁したが、前述の理由によって、企画や撮影の準備活動や金銭的負担は、精神的な創作性とは別のものとされ、Bの主張は退けられた。

Bは論拠として、テーマの設定、カメラマンそのものの選定、その補助者の提供とその労力、モデル選び、「演出」としての縛り師の選定などや、小道具等の準備、さらにはDPE処理者の創意工夫を挙げたが、それらの総合的協力よりも、Aの直接的知的行為──シチュエーションの判断、モデルの個性や肉体的条件に適合した絵柄=構図の決定、そしてアングル、ライティング、ポーズのディテールの指示などに、著作権法上の「創作性」ありと判示したものであろう。

右の結論は、著作権という角度で「作品」の利用権を判断する場合の一般的な通説に従ったもので、現行法では当然の結論である。「著作権」の所有、あるいは使用権に、出版者が参加したければ、撮影の前に、カメラマンとの間に、
1 著作権譲渡の契約
2 共有著作権者になるための契約
3 二次使用の独占契約あるいは優先使用権契約
などを選べばよい。いく通りもの契約形態があるはず。両者が、それぞれの利害得失を考えて、あらかじめ合意しておくべきだ。いけ花などの写真の二次使用についても同じことが言える。

二次使用についての裁判の結果

1 AのBに対する請求は前述のように1305万3500円(以下、利子関係略)、訴訟費用の被告B負担。仮執行宣言である。Aの計算の根拠は、カラー写真1ページあたり1万5000円、白黒写真は同5000円である。したがって、
1万5000円×783ページ+5000円×26ページ=1187万5000円に+訴訟費用117万8500円であるから1305万3500円
となる。

2 それに対するBの答弁は、原告Aの請求の棄却、訴訟費用は原告の負担というもの。オールに対するナッシングである。

以上のような経緯、1と2の対立を踏まえて具体的な判決をみた。その数字に対する論断の仕方──。

1986年の時点で、SM雑誌における写真著作物の一次使用の掲載料は、
イ カラー写真(頁)1万円~1万5000円
ロ 白黒写真(頁)4000円~7000円
と判断。「一たん雑誌に掲載されたことのある写真を繰り返し使用する場合や(中略)一次使用された写真と同一機会に撮影された写真を使用する場合には、(中略)一次使用の場合の半額」とした。この部分は妥当であろうか。そして、この裁判では、この場合を①カラーの単価を5000円、②モノクロの単価を2000円、と仮定したのである。

すなわち、BがAに支払うべきは、
5000円×716ページ+2000円×23ページ+弁護士費用36万円=398万6000円
である。ページ数に変化あり。因みに、弁護士費用は、Bに対し全額請求であったのを、3分の1とした。Aの勝訴と言える。

因みに──、同一出版社での、写真の二次使用の料金が、一次使用の料金より安いことについては、多様な意見があり得る。大きな課題である。

* * *

『新板 編集者の著作権基礎知識』は2022年4月15日(金)より発売。A5版、256ページ、2,640円(本体2,400円+税)。なお、好評シリーズ“ユニ知的所有権ブックス”は、広告や動画・写真、商標の取り扱いなど、実務に沿った内容毎で1冊にまとめられ、太田出版より不定期に刊行されている。

筆者について

みやべ・ひさし。1946年東京生まれ。1970年、東京大学文学部倫理学科卒業、新潮社入社。以後30年間、書籍出版部、雑誌「新潮」編集部、雑誌「小説新潮」編集部で文芸編集者として作家を担当したのち、出版総務・著作権管理部署に異動、2009年著作権管理室長を最後に定年退職。日本ユニ著作権センターに勤務し、2012年代表取締役に就任。元日本書籍出版協会知財委員会幹事、元財団法人新潮文芸振興会事務局、元公益財団法人新田次郎記念会事務局長。

豊田きいち

とよだ・きいち。本名・豊田亀市。1925年東京生まれ。評論家。元・小学館取締役。小学館入社後、学習雑誌編集部長、週刊誌編集部長、女性雑誌編集部長、出版部長を経て、編集担当取締役、日本児童教育振興財団専務理事。日本雑誌協会編集委員会・著作権委員会委員長、日本書籍出版協会知財関係委員、文化庁著作権審議会専門員など歴任。著作権法学会会員、日本ユニ著作権センター代表理事。「出版ニュース」、「JUCC通信」、美術工芸誌、印刷関係誌などに出版評論、知的財産権・著作権論などを執筆。2013年没(享年87歳)。

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