クリエイターがおさえておくべき、二次的著作物の基礎知識とは?

新版 編集者の著作権基礎知識
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仕事を始めたばかりの編集者が、つまづきがちな「著作権」。肖像権、引用作法、美術や音楽の著作物性、著作物使用料、アイディア、新聞、広告の利用、保護期間、二次利用、送信可能化権、著作物利用契約、出版権設定契約……。書籍や雑誌の編集者は、多種多様な著作物を正しく取り扱う必要がある。本稿では編集者のみならず、あらゆるクリエイターがおさえておくべき二次的著作物の基礎知識を確認する。

*この記事は、現在発売中の『新版 編集者の著作権基礎知識』から一部を転載したものです。

二次的著作物の誕生――著作権の支分権

小説やエッセイなどを、他の言語に翻訳したり、原作を脚色し映画化したり、あるいは論文をダイジェストすることによって、原作とは別の新しい著作物が生まれる。

著作権法の二条に規定される「二次的著作物」とは「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物」(2条1項11号)などである。

1 翻訳(translation)とは、原作の内容を変えることなく、そのまま、他の言語に表現しなおすことである。その結果、そこに言語転換という創作的行為が認められれば、それは二次的著作物である。たとえば、『キッシンジャー秘録』の日本語訳、ヘミングウェイ文学の日本語訳とか、小説『金閣寺』(三島由紀夫)のヨーロッパでの英・仏訳など。

2 もとの楽曲に改変を加え、違う形式・形態で演奏するようにつくられ、そこに創作性があれば、著作権法のいう編曲(musical arrangement)だ。モチーフ(表現活動の核・中心思想)はそのままで、別の演奏形態に表現しなおす時、二次的著作物が誕生する。原作の著作権と並行して独立した著作物として保護される。新しい著作権の発生である。

厳密に言えば、楽曲の演奏には、何らかの原作とのブレ・編曲が行なわれることは宿命的だが、それは個々の場合、結果によって判断すべきで、意図的な編曲と結果的な編曲性(揺れ)を混同しないことだ。注意すべきは編曲という二次的著作物にも独立した著作権が発生するとはいえ、わずかな修正や増減では、それは単なる複製の一種であって、新たな著作権は発生しないということ。

a 原作曲者と編曲者は、同質の権利を享有する(28条)。二次的なものの創作者に同一種類の権利が新たに発生しても、原著作者の権利に影響を及ぼすことはない(11条)。原作の権利が移行するのではない。これは「音楽」の場合に限らない。

b したがって、当然ながら、編曲し、公にするためには、原作曲者の許諾を要するし、その編曲を演奏しようとする者は、原作曲者と編曲の著作権者の許諾が必要(27条)

c bの許諾関係は、翻訳、変形、脚色、映画化、その他翻案についても同じ。

3 絵画を彫刻に、彫刻を絵画に、写真を絵画等に変形(transformation)し、それに創作性があれば、変形されたものは二次的著作物といえる。2のaとbで述べたように、原著作物と同様の著作権が発生する。

注意点──写真を原著作物として、新しく絵画にしたものは「変形」とされ、その絵画は、二次的著作物とされるのに対して、その反対に、絵画を写真的に複製するような場合は、原著作物の表現手段・方法を変えたとはいえないので、「変形」に該当しないとされる。なぜなら、写真複製は、絵画的複製と異なり、単に原著作物を、物理的・機械的に再製したにすぎないからである。このような異種複製は変形とはいわないのである。写真という複製的表現物の特殊な一面である。因みに、彫刻のような立体物の写真には、写真にも著作権が発生するが、絵画のような平面なものを正面から撮った写真には、単なる再製であるので新しく著作権は発生しない。

4 小説のような、文章による作品を原作として、新たに、創作的に「劇的表現化」したり「劇画化」することによって、原作とは別のカテゴリーの著作物が誕生する。脚色(dramatization)することにより創作したものも二次的著作物である。脚色は翻案の一種ともいえる。

d 「著作権」は多様な権利の束である。著作物に関して、(イ)翻訳の権利、(ロ)編曲の権利、(ハ)変形の権利、(二)脚色の権利、(ホ)映画化の権利、(ヘ)その他翻案する権利は、原初的に原作者=著作者の専有である(27条)。脚色して二次的著作物を創る者は、前述したように、原作品の著作者の許諾を得るべきなのである。

e また、著作者は、一身専属としての著作者人格権を有している。「その意に反して著作物の改変を受けない」。同一性保持権を有する。脚色という二次的著作物と原作者の同一性保持権との関係は、トラブルをおこしやすい関係である。原作者と脚色家の事前のコンセンサスが大切である。原作の評判・名声に便乗して、その脚色だと宣伝し、しかし事実は内容が著しく異なった脚本は適法な二次的著作物と言いがたく、いちじるしく原作者の意に反する場合は原著作者の著作者人格権を侵害したことになる。ただしそのような場合は、その二次的な創作物をオリジナル作品ということもできる。二次的著作物とは言えない。

f 2のbと同様、脚色された二次的著作物の利用にあたっては、原作者と脚色した者の双方の許諾を得て上演しなければならないわけだ。

5 『著作権事典・改訂版』(著作権資料協会編、出版ニュース社、1985年、10ページ)は、映画化権(right to cinematize a work)について「文芸の著作物を原著作物として映画という二次的著作物を創作することを許諾する権利ということができる」と説明している。映画化権は著作権という多様に利用される権利の束のうちの翻案権のうちのひとつの態様である。

映画という著作物は、原作のある場合は、文芸著作物の二次的著作物だが、そのレールの上に、多様な権利が相乗りして走る。重なり、錯綜し、複雑な利用形態になる。映画の著作物の権利関係の複雑さはここから出てくる。監督と映画製作者の対立も、ここに根ざしている。

6 法のいう「翻案」(adaptation)とは、著作物の内容の“組み立て”──つまり、テーマはもちろん、プロットや表現の意思・思想を変えないで、外面的な形式を、他の方法で構築して著作物を創ること。原作品の存在が必要。だから二次的著作物というのだ。原作をあとかたもなく換骨奪胎したものは、著作権法のいう翻案ではなく、4のeで述べたように、それは、いわばオリジナルといえるであろう。すでに述べた脚本・映画のほかには、どんなものが翻案か。

A 言語著作物のダイジェスト(digest)=要約。たとえば、トルストイの『戦争と平和』やヴィクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』のような長編のものを適当に縮めた文章など。──要約と抄録(abstract)を混同しないこと──(豊田きいち『著作権と編集者』日本エディタースクール出版部、2004年、193─205ページ)

B 大人向けのものを少年・少女向けに書き改めたもの。たとえば、ヘイエルダールの『コンチキ号の冒険』や太宰治の『走れメロス』のようなものは学習雑誌や教科書にやさしく要約されている。

C 小説フィクション実録ノンフィクションを劇画にして、ほぼ同一の内面形式でありながら、まったく異なった外面形式に変貌させること。伝記の劇画風の翻案など。

D 写真著作物から塑像を創ることの類い。

以上1から6まで、著作権法の中の二次的著作物に関する語彙を、ほぼ定説に沿って説明した。原作との関係、利用許諾の受け方、さらに、専門的な問題点にも近づいてみた。

二次的著作物の輪郭をつかむこと、その諸態様と利用関係を知ることは、編集者の基礎知識の第一歩を学ぶことにつながる。文中、aからfまでの注意事項は、すべての場合に共通することである。

参考 シンポジウム「パロディについて」(司会・小泉直樹)、著作権法学会編『著作権研究 37』有斐閣、2011年、1ページ。

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『新板 編集者の著作権基礎知識』は2022年4月15日(金)より発売。A5版、256ページ、2,640円(本体2,400円+税)。なお、好評シリーズ“ユニ知的所有権ブックス”は、広告や動画・写真、商標の取り扱いなど、実務に沿った内容毎で1冊にまとめられ、太田出版より不定期に刊行されている。

筆者について

みやべ・ひさし。1946年東京生まれ。1970年、東京大学文学部倫理学科卒業、新潮社入社。以後30年間、書籍出版部、雑誌「新潮」編集部、雑誌「小説新潮」編集部で文芸編集者として作家を担当したのち、出版総務・著作権管理部署に異動、2009年著作権管理室長を最後に定年退職。日本ユニ著作権センターに勤務し、2012年代表取締役に就任。元日本書籍出版協会知財委員会幹事、元財団法人新潮文芸振興会事務局、元公益財団法人新田次郎記念会事務局長。

豊田きいち

とよだ・きいち。本名・豊田亀市。1925年東京生まれ。評論家。元・小学館取締役。小学館入社後、学習雑誌編集部長、週刊誌編集部長、女性雑誌編集部長、出版部長を経て、編集担当取締役、日本児童教育振興財団専務理事。日本雑誌協会編集委員会・著作権委員会委員長、日本書籍出版協会知財関係委員、文化庁著作権審議会専門員など歴任。著作権法学会会員、日本ユニ著作権センター代表理事。「出版ニュース」、「JUCC通信」、美術工芸誌、印刷関係誌などに出版評論、知的財産権・著作権論などを執筆。2013年没(享年87歳)。

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