スマートフォンの主流化で“非デジタル”マーケティングの存在しない時代へ

学び
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インターネット広告が登場したのが1990年代。それから20年あまりのうちに、「インターネット広告なんて」と施策から切り離されていたところから、「インターネット広告も」と存在価値を認められる時代へ。さらには、タッチポイントのプランニングや予算を考えるときに「まずはインターネット広告から」へと、インター ネット広告は立場を大きく変えました。そして今や、マーケティングにデジタルが使われないことはほぼなくなりました。
そんなデジタルマーケティング史を軸に、広告にまつわるテクノロジーや当時の社会情勢など30年分の「知っておくべき」がこれ一冊にギュッと詰まっています!

スマートフォンの主流化とSNSの浸透

スマートフォンの普及も、デジタルマーケティングの浸透を加速させました。日本の「スマートフォン元年」は2008年のiPhone上陸と言われていますが、ビジネスやマーケティングにその影響がはっきりと現れてくるのは、少し後の2013年頃になります。この頃になるとスマートフォン自体も進化し、処理速度が加速すると共に大画面化が進み、日常的にYouTubeや映画等の動画コンテンツを楽しむユーザーが増えてきました。スマートフォンほどではありませんが、タブレットも着実に普及していきます。

さて、アップルがiPhone 3Gを発表したのは遡ること2008年6月、日本でソフトバンクモバイル(現ソフトバンク)が発売を始めたのはその翌月です。

1年後の2009年7月には、NTTドコモが台湾を拠点とするメーカーHTCと組み、日本国内で初のAndroid搭載端末「HT-03A」を発売します。さらに、アップルはiPhone端末向けに「App Store」を、GoogleはAndroid端末向けに「Androidマーケット(現Google Play)」という、アプリケーション配信の仕組みを提供。スマートフォンの普及が、日本におけるモバイルのガラパゴス時代を終焉に向かわせ、スマートフォンアプリという存在が、再びインターネットに革命をもたらしました。

そのような変化の真っ只中にあった2011年3月11日、日本社会を根底から揺るがした大災害、東日本大震災が起こります。マグニチュード9の大地震と、それによって引き起こされた大津波に襲われた東北沿岸部では、多くの人命が奪われ、多大な被害が生じると共に、数日間にわたって通信障害が発生しました。震災による停電、地下ケーブルや携帯電話基地局の損壊、被災地域への通話の激増で電話回線は不通となり、被災した家族や友人と連絡が取れない状況が発生したのです。その通信障害のときにも、人々を繋ぎ、情報を届け続けたのがTwitterやFacebook等のSNSでした。実際に被災地で津波に襲われて建物の屋上に取り残された人々がTwitterに状況を投稿したことで救助された事例や、足りていない救援物資が避難所に届いた事例もありました。SNSが電話回線ではなく、インターネット回線を利用していたことから、通信各社による通話規制の影響を受けにくかったのです。官邸や自治体もSNSの公式アカウントを使って、リアルタイムで情報を発信し続けました。

混乱の中、デマ情報が拡散されるといった問題も一部には見られましたが、東日本大震災をきっかけにスマートフォンに買い換える人やTwitter等のSNSを始める人が一気に増加しました。日本では特にFacebookユーザーが増加し、2011年に1000万人、2013年には2000万人を突破しました。

また、震災から間もない2011年6月には、メッセージアプリ「LINE」が誕生します。LINEは東日本大震災をきっかけに、緊急時のホットラインとしても使えるよう、電話回線を使わないメッセージアプリとしてリリースされ、リリースから半年で1000万ダウンロードを達成しました。そして、「無料通話」と「スタンプ」機能が追加されます。スマートフォンやインターネットが苦手と言っていた多くの生活者や芸能人も、2つの機能をきっかけにスマートフォンへ移行し、LINEユーザーの増加と合わせてスマートフォンの普及も加速しました。LINEにあったのは、他のSNSのように知らない人とどんどん繋がれるオープンさではなく、知っている人同士のクローズドな世界観です。怖さや不便さを感じることもある広く浅いコミュニケーションよりも、「身近な人との繋がりを深めたい」生活者の欲望と、「今年の漢字」に「絆」が選ばれるような時代とに、LINEの戦略がマッチしたと言えます。

決定的だったのは、2013年9月、当時の携帯電話契約者数トップシェアを誇っていた NTTドコモがiPhoneの取り扱いを開始したことです。同年10月から11月にかけての携帯電話全体の販売台数でiPhoneが6割を超え、ガラケーからスマートフォンへの買い換えが加速。新規販売台数において、ガラケーとスマートフォンのシェアが逆転したのです。

実は、多くの有識者はiPhone 3Gが発表された2008年当時、スマートフォンへの移行にここから10年程度かかると想定し、結果日本の多くの企業ものんびりと構えていました。しかし、日本のスマートフォンシフトは、当初の予想よりもかなり早く進行したように思います。

ではなぜ、こんなにも早くスマートフォンが日本に普及したのでしょう?

海外のマーケティング関係者の間では、「アジア人は指先が器用だからスマートフォンのような小さな端末を操作するのが上手なのだろう」と囁かれたりしましたが、「iモードでモバイル端末からインターネットにアクセスすることに慣れていたから、スマートフォンにスムーズに移行できた」という側面もあるのではないでしょうか。

一方、アップルの本国、アメリカではスマートフォンの普及が想定よりも進みませんでした。日本とは反対に、デスクトップパソコンの操作に慣れていたため、スマートフォンの操作に慣れるのが大変だったということ、そしてスマートフォンの元祖と言われる端末、BlackBerryの存在が関係していると言われています。

BlackBerryにはパソコンと同じように物理キーボードがついており、パソコンを使い慣れた人にとっては文章入力が楽だったことや、ビジネス向けとしてスタートしたため、強力なセキュリティ機能が搭載されており、ファンがとても多かったのです。アメリカでは未だにゲームもパソコンベースですが、日本がソーシャルゲームに舵を切れたのも、ガラケーでのゲームサービス、ゲーム文化がベースにあったからだと言われています。

また、登場したばかりの頃のスマートフォンは、流行に敏感なユーザーだけが持ちたいと思うような存在でしたが、スマートフォンでインターネットに接続できるようになったことで、「パソコンは必要ない。スマートフォンで十分」と考えるユーザーが加速度的に増加していくことになりました。そうしてスマートフォンに押されて、パソコンユーザーが減り始め、2017年には明確に数字にも表れるようになりました。総務省の情報通信白書によれば、端末別のインターネット利用率は、スマートフォンの59.7%が最も高く、パソコン(52.5%)の利用率を逆転。そして2022年現在、広告業界ですら、卒論はスマートフォンで書き、家や学校でパソコンに触る機会がないまま、会社に入ってから初めてパソコンを本格的に触ったという新入社員が入社してくるようにもなりました。インターネット広告の担当をしながら、自宅にはパソコンがない社員も登場します。

こうして急速に普及した結果、それまで多様なサービスが存在していたSNSが、スマートフォン対応で明暗が分かれ、Twitter、Instagram、Facebook等、勝ち残ったサービスがプラットフォーマーとして大きな影響力を持つようになりました。

例えば、Facebookはガラケーには対応せず、モバイル環境で使う場合はスマートフォンにアプリを入れる必要がありました。はじめからスマートフォン環境を前提にサービスが設計されていたのです。反対に日本独自に発展してきた数々のガラケーサービスは、スマートフォン対応が遅れ、多くが終焉を迎えることになりました。スマートフォンシフトに乗り遅れ、FacebookやTwitterのようなサービスとの競争に負け、消えていったメディアやサービスもたくさんあったのです。逆に、ひとつのヒットしたサービスのユーザー数が100万人に到達するスピードは、2010年以降どんどん速くなっていきました。

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本書では、1990年代後半から現在にかけてのインターネット広告の変遷を具体例と共に解説しています。テクノロジーが広告業界に与えた影響、また広告業界の欲望が後押ししたテクノロジーの進化についてより詳しく知りたい方は、現在発売中の『欲望で捉えるデジタルマーケティング史』(森永真弓/太田出版)をチェック!

筆者について

もりなが・まゆみ。株式会社博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所上席研究員。通信会社を経て博報堂に入社し現在に至る。コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する裏方請負人。テクノロジー、ネットヘビーユーザー、オタク文化研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行っている。自称「なけなしの精神力でコミュ障を打開する引きこもらない方のオタク」。WOMマーケティング協議会理事。共著に『グルメサイトで★★★(ホシ3つ)の店は、本当に美味しいのか』(マガジンハウス)がある。

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